39. 親子の時間
誰であるのか、おおよそ見当はついていたが 僕はもう少し様子を見ることにした。
なぜなら、一緒にこちらに来ているのは第4王女のセーラだ。
手を繋ぎ、ニッカニカ笑って楽しそうなのだ。
そんなところに、わざわざ水を差すこともないだろう。
そうして、素知らぬ顔で温泉につかっていると、
「あー、エマねーたん! エマねーたんがいるの~」
セーラは繋いでいない方の手で必死にアピールしている。
「おお、なんじゃ、なんじゃ。知り合いかのう? あの川みたいな所かのう」
そしてふたりは、露天風呂に続く橋の上でエマちゃんたちが近づいてくるのを待っている。
「ああ~! セーラちゃんだ。おおーい! セーラちゃ~ん」
今度はエマが気づいたようである。ふたりでお互いに手を振りあっており、とても微笑ましい。
程なく、流れる温泉プールから上がったエマは、セーラと手をつないでこちらに向かって来ている。
もちろん、胸毛もじゃもじゃのおっさんも後ろからついて来る。
たしか、”ヴァルサン国王陛下” だよな。
さすがに、あれだけ世話になっていれば自然と耳にするし、知らないほうが失礼である。
すると、そのまた向こうより、メイド数人に付き添われた御婦人が近づいてきている。
しかし、取り巻きのメイドは只のメイドではないようだ。
目の配り方、身のこなし、なかなかの御仁とお見受けする。
なんか、かっこいいよな。――ああいうの。
家もはやくメイド隊を結成しなくては……。
「カルロ兄様。セーラちゃんが来てくれました」
「そうか、良かったな。気をつけて遊ぶんだぞ」
「…………」
「うん、どうした? 何かほしいのか」
「はい! エマはのどがかわきました。アイスが食べたいです」
「おお、正直だなエマは。ちょっと待ってな」
僕はインベントリーからアイスクリームが入ったクーラーを取り出すと、手早くコーンにアイスをのっけエマとセーラに渡してあげた。
「よろしければ、どうぞ!」
手持ち無沙汰にしているヴァルサン国王へも1つ渡してあげた。
そして、クロナに頼んで露天風呂を楽しんでいるエレノア母様とアーヤにもアイスを届けさせた。
帰ってきたクロナにもアイスを渡してあげる。
さらに、到着する4人にもアイスを用意して振舞うことにした。
「おお、これはよい。カッカした身体がスーとするわい」
「まあまあ、あなたはもう、そのようなかっこで食すなんてフフフッ」
「おう、おまえか。そうは言うがこれを食してみよ!」
ヴァルサン国王は、僕からアイスクリームを1つ受け取ると、そちらの御婦人へと差し出した。
「あらまあ美味しい。冷たくて甘くて、とーても贅沢。はじめて頂きましたわ」
「うむ、ワシも驚いておるのじゃ。しかし、セーラたちを見ると食べ慣れているようにも思えるしのう」
「あなた、今日は初めての事ばかりで、たいへん楽しゅうございますねぇ」
「うむ、セーラに友達がいてワシもビックリしておるところじゃ」
すると、薄いガウンをまとった御婦人が、メイドを待機させ僕の前に進みでてきた。
「カルロと言うのはあなたですね?」
僕は無言で頷いた。
すると、御婦人は僕を抱きすくめ、
「ありがとう。本当にありがとう。私たちがどれほど心を痛めていたか……」
「セーラの命を救ってくれて感謝していますよ。カルロ様」
ようやく、抱擁から解放されてホッとしていると、
「ワシのほうからも礼を申すぞ。もう助からぬものと諦めかけていたのじゃ。さすがは英雄殿じゃ」
「おやめください、陛下。私はセーラ様と縁が生まれたためお救いしたまで。必要以上に礼は不要です」
「それに、わたしはご覧の通りの青二才。どうぞカルロとお呼びください」
「そうじゃな、分ったカルロじゃな」
「あなた、お話はそれぐらいで。せっかくの温泉です楽しませてもらいましょう」
「うむ、そうじゃの。カルロ殿 また、あとで話そうぞ」
そうして、ようやく露天風呂に入っていかれた。――はぁ~。
どうやら、あの御婦人が ”カトリーヌ王妃殿下” であったようだ。
こちらを見ても、この前のアースレット王子にしても、今代の王室はとても上手く回っているようだな。
おっ、エレノア母様達と合流したな。
あっちは母様にお任せしていいだろう。僕の方は子供たちの相手を致しますかね。
僕は冷たい飲み物を届けるようにとクロナに指示を出し、エマとセーラを連れてすべり台のほうへ向かった。
今日は、この前のものより広めのヤツだ。雰囲気的には昔の公園にあったような ”カメさんすべり台” だ。
公園にあるようなヤツはコンクリートで出来ていたが、こちらのヤツは樹脂製である。
カメの甲羅をすべる感じだ。子どもだけなら、4~5人は並んですべられる。
エマもセーラも一緒にすべれて大喜びだ。時にはクロナと、時には僕と4人並んでというのもあった。
「これはなんとも、楽しそうじゃわい。どれ、ワシも」
「あい! おとうさまと、いっしょがいいです」
セーラちゃんに手を引かれて上がっていく。
「おお、セーラ。これは楽しいの~」
「はい、こんどはエマねーたんとすべる~」
「そうかそうか、ではワシは下で待っててやろうぞ」
「あい!」
このあとは、お茶をしたりクレープを食べたりと、なるべくセーラと国王陛下が一緒に楽しめるように取り計らった。
普段は忙しい身の上である、ヴァルサン国王陛下のためでもある。
このような、何げない親子の時間も大切なものだよね。
ついに、来ましたヴァルサン国王陛下。最強です! 名実ともに。それに第一王妃のカトリーヌ様まで。とってもお優しい方のようです。幼少期の親子の時間は大切なものです。いづれ、「このクソじじー」と言われるようになろうともです。(涙)そして、次回はシロとピーチャンの意外な一面が……。 どうぞ、お楽しみに。
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