38. キュン
王宮殿を出た僕らは、庭に建てられているガゼボへと移動していく。
アンリエッタとその側近、それにクロナを連れて、お隣ローザン王国の首都に向け転移を行なった。
周りを見渡してみると、ひときわ大きな城が目に飛び込んできた。
「ここです! すごいです、カルロさま」
「そうか、それは良かった。安心したよ」
「……どうしても、行ってしまわれるのですか?」
「うん、ごめんね。王城でかなり……ねぇ。また、こんど寄らせてもらうから」
「本当ですか。うまいこと言って逃げてる訳ではないですよね?」
「うん、絶対くるから。大丈夫だから、ねっ、ねっ」
「――ふぅ。分かりました。それでは、これをお持ちください」
いただいたのは、金糸や銀糸をつかった立派な刺繍のワッペン。紋章はここローザン王国 王室のものだろう。
そして別れぎわ、アンリエッタは僕の唇にそっと口づけを落とし、
「何から何までお世話になり、ありがとうございました」
「わたしのファーストキスは、あなたですよカルロ・アストレア」
なんだよアンリエッタのくせに、凛としてかっこいいぞ!
ああ、くそ! ここまでする義理も、するつもりもなかったんだけどなぁ。
僕は変身サングラスを回収したあと、シロに例の印籠を出してもらった。
その中からマンキンタン(エリクサー)を取り出すと、
「ほら、『エリクサー』だ! これをお父さん(王様)に飲ませな。1日たったら薬自体が消えちゃうからな。注意しろ」
僕はそう言うと、すぐシロに命じて転移を発動させた。
やってきたのは、クルーガー王国は、王都の繁華街である。
そう、クロナの手続きをしに奴隷商館「ルマンド」に行くためだ。
冬休み時にもおこなった ”連れ出し申請” をおこなった。
あとは、家に帰るだけなのだが、せっかくの繁華街だ。みんなにお土産でも買って帰るか。
まずはこれ、串焼き屋で腹ごしらえだ。カァ――この匂い! たまらん。
次はみやげ物屋だな。何軒か回りあれこれ購入していく。
それから……。
そうそう、クロナの希望をまだ聞いていなかったよな。
「ねぇ、クロナ。欲しいものは決まったの?」
「あ、は……い。その……何でもいいんですよね?」
「ああ。大概のものは大丈夫だぞ。でっ、何が欲しいんだ」
「はい、その……。また、わたしを指名してください。お役に立てるよう頑張りますので」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。つまり、来年度もクロナを指名しろと……。
なにコイツ。何言ってんだよ、バカ野郎が。涙出てきたじゃないか!
僕は人目も構わず、クロナを抱きしめていっぱい頭を撫でた。本当にコヤツは~~~。
しばらく、うりうりしたのち解放してやった。
周りを見たが、誰も気に留めてはいないようだ。
まあ、子供がじゃれているようにしか見えないからね。
まったく、クロナの野郎、僕を ”キュン死” させるつもりか?
そのあと、来年度の契約は約束した上で、服や髪飾りなんかを強引に買ってやった。
どうだ、クロナ参ったか――――!
さてと、クロナも喜ばせたことだし家に帰りますかね~。
だけど、もうすぐ昼かぁ。
それでは温泉施設に寄って、飯食って風呂入っていくかな。
シロもクロナもそれで問題ないようだし、さっぱりしてお家に帰ろう。
その辺の裏路地にはいり、素早く転移する。
靴を脱いで、靴箱に入れ鍵の輪っかを手にはめる。
暖簾潜って、服をぽぽいとカゴに入れ身体ごしごし。よし!
ピーチャンがドッキング状態のシロを連れ、扉を潜って表にでた。
――ひしっ!
エマちゃんである。あたまを僕の胸に押しつけうりうりしている。
「おーう、エマ。来てたのか? ただいま。今日は一緒にお家帰ろうな」
と、あたまを撫でた後は、ひょいっと抱えシロに乗せてあげた。
そして、露天風呂の方に向かっていくと、
「あらあら本当ね。カルロはこっちに来るってエマが言うものだから、少し前から待ってたのよ~」
「あ、はい。そうなんですね、エレノア母様。ただいまです」
「はいはい。お帰りなさい。数日前も会いましたけどね~」
「あはははっ、そうですね。飲み物はこちらの桶に入れておきますね~。僕たちは向うの浅湯の方におりますから」
「あら、いつもありがとう。今日は一緒に帰りますよ」
「はい。了解しましたエレノア母様。また後ほどです」
僕たちは子供用の浅湯の方で、エマちゃんを遊ばせながら温泉につかることにした。
交代で縁石に腰掛けては、ハムサンドなどの軽い昼食をとっていた。
一時はおとなしく遊んでいたエマちゃんだったが、今度は「あっちー」と ”流れる温泉プール” を指差している。
はいはーい、流れるプールは楽しいよね~。
僕が浮輪を出してやると、喜んでシロと流れるプールに突入していった。
シロも、ちゃんとエマが乗り込むまでしっかり浮輪を止めて世話をしている。
クロナの方は、なにか見たことのないブルーの浮輪を抱えているよな。
ああー、ポンタか! いろいろ便利なヤツだなぁ。ああやって同時にクロナを守っているのだろう。
そうして、目の前を通過するたびに手を振ってくるエマちゃんに、こちらも手をあげて答えてあげる。
こうして僕は、のんびりと露天風呂を楽しんでいた。
「ほほう、これはまた凄いのう。ディレクの倍以上はあるのではないか?」
胸毛もじゃもじゃでロマンスグレーならぬ、ロマンスゴールドの髪になるのかな。
そんな、おっちゃんが子供と手をつないで此方に向かってきたのである。”フリチン” で。
アンリエッタもクロナも本当にやめてよね。身がもたないから。あと、ちょろっと出た印籠。そうそうマンキンタン出したヤツ。あれも以前に女神さまから身分証にと頂いた物で、印籠を持って話す言葉には神力が乗るという「とんでもアイテム」なのです。マンキンタンを作り出す機能つきです。(生成30日) 紋所は、なぜかアストレア家に変わっている。
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