36. 王子と温泉と
「シロ、もうその辺で勘弁してやれ。先にいくぞ」
と、僕はシロの側をすり抜けながら露天風呂の浅湯をめざす。
途中でエレノア母様にあいさつ。さらに奥をめざしてエマちゃんが待つ子供用の浅湯の方へやってきた。
僕とアースレット王子が桶を持ってかかり湯をしていると、いつの間にかシロも露天風呂へダイブしていた。
そして僕たちも露天風呂へ静かに入った。
「あ゛あ~~~温泉はサイコー!」
と、伸びをしている僕に、
「カルロ君、ここは良いね~。眺めも良いし、この露天風呂も広々してて凄い解放感だよ」
アースレット王子は浅湯の境目に身体をおちつけ、とても気持ちよさそうだ。
「あっ、でも、ディレクの町に王族の保養施設があったのでは?」
「ああ、あそこはね~。昔は使ってたみたいだけど、今はダメみたいなんだよ」
「えっ、そうなんですか? また、どうして」
「うん、それが何代か前に王城にある転移陣が使えなくなったとかで、今はあまりね~」
「なるほど、外にある転移陣までは距離があるし、王族が移動すると目立っちゃいますか」
「そういうこと。それでも年に何回かは利用しているよ。あそこのお湯もなかなか良いしね」
「じゃあ、帰ったら見てみますよ。もしかしたら直せるかもしれませんし」
「ホントかい! それは王様が喜ぶよ。立場上、なかなか行けないからね」
そんな会話をこっちでしていると、しびれを切らしたエマちゃんがシロに乗って突入してきた。
「カルロ兄さま、お帰りなさい。クロにゃんにゃんはどこです~」
「うん、エマ ただいま。クロナかい、もうすぐこっちに来るよ。待ってて」
「はい、カルロ兄さま。エマ待てます」
「お、エマはえらいな~。ご褒美だこれを食べてごらん。ほら、これで突きさすんだ」
僕はご褒美として、エマちゃんに ”雪見だいふく” を1つ出してあげた。
すると程なくして、温泉施設の説明を終えたクロナがこちらに合流してきた。
「カルロ様、ただいま戻りました。失礼します」
と、クロナはかかり湯をするとそのまま静かに湯舟に入ってきた。
「クロナ、ご苦労さん。コレ飲みな、冷たいぞ」
労いの言葉をかけ、冷たい抹茶ラテを出してあげた。
それから、僕にへばり付いていたエマちゃんをクロナに任せ、僕はエレノア母様達をこちらに呼びよせた。
今から、そうしとかないと混雑して大変なことになる。
例の団体がこちらに気づいて、そろそろ来る頃合いだろう。
「あら、カルロ。どうしたの? 何かあったのかしら」
「ああ、いえ。ただ、これから団体さんが押し寄せてきますので、ごちゃつく前にこちらに来てもらったのです」
「あらあら、どこの団体さんなの? そして、そちらにいらっしゃるハンサムさんとは、どういった関係なのかしら」
「あ、ああ、そうでしたね。こちらはアースレット様。我が国の王太子様ですよ」
「あら、そうなの。やだ、私ったらこんな格好で。ご無礼ではなくって」
「いえいえ、私とてこのナリです。どうぞ、そのままで……」
アースレット王子はそっぽを向いたままである。こうして、家族以外と混浴など今までになかったのだろう。
「まあー、ありがたく存じます。こちらを向かれても大丈夫ですわよ。まあ、お目汚しの段はお許しくださいね」
ほんと、エレノア母様は誰に対しても物おじすることがない。
「そんな、お目汚しなど。お美しい方だとお見受けいたしました。とても経産なされた身体とはとても思えません」
「まあ――――♪ 本当なの。ときめいちゃったわぁ。どうしましょ」
ぶりっ子さながら、両手を頬にあてイヤンイヤンしておいでだ。
アースレット王子も少しばかり褒めすぎである。
おそらく、美辞麗句は王族の嗜みとかだろうが……。
おかげで、気を良くしたエレノア母様のマシンガントークが炸裂し始めた。
あ~ぁ止まんないぞ。これは。
アースレット王子が、僕の方をチラチラ見ているが、
『キミはいい友人であったが、キミのその軽い口がいけないのだよ』
我関せず、僕はゆっくりと温泉を楽しんでいた。
と、その時であった。
「あら~、楽しそうねぇあなた、女性に囲まれて幸せそう」
ついに、ロイド様の登場である。僕はすかさず、潜水に移行して距離をとる。誤爆を恐れてのことだ。
「うっ、こ、これは違うんだ。私は……そう、カルロ殿の母君ということでだね~」
「まあー、そうでしたの。私はまた、目の前の大きなものに、目を奪われているものとばかり思っておりましたわ~」
「あなたぁ~。あまり入っていると湯あたりしますわね。少しあちらで休憩いたしましょう」
ドナドナされて連れて行かれるアースレット王子と入れ替わるように、今度はエミリー様がセーラの手を引いてこちらに来られた。
「あ――、シロだ! と……だーれー? セーラもおんせん入る~」
「はいはい、セーラ。ローブを脱いでかかり湯をするのよ」
「はーい!」
そして、セーラはシロやエマちゃんと遊びはじめた。
こうして、ふたりがシロと戯れて遊ぶ姿は、なにか天使を見ているようでもあるなぁ。――かわゆす。
エミリー様は家のエレノア母様たちに合流したようだ。
さっそく、意気投合してヤイノヤイノ話はじめた。
これは長くなるな……。
のぼせないようにと、冷たい飲み物とちょっと摘まめるような菓子などを用意した。
そして露天風呂の縁石の上に、それらを入れた木製タライをそっと忍ばせておいた。
エレノア母様! そんなイヤンイヤンしたら、たわわなものが――――! アースレット王子も男なのです。そんなものが目の前にあれば……ねぇ。アーメン♰ もちろん、温泉回は次号に続いていきます。そして、サブタイトルが「スッポンポン」です。なんじゃそりゃー!! お楽しみに。
ブックマーク、評価、感想、いいね!、などいただきますと励みになります!!




