29. パワレベ
僕はその破落戸共の言葉に、少々イラっとしながらも、
「では、取りあえず生かしておきますので、後で判断してくださいね」
「シロ、やるぞ!」
「エア・ハンマーだ!」
僕の発声と共に、3方向へ同時にエア・ハンマーが炸裂する。
オーガを容易く仕留めることができる エア・ハンマー。かなり手加減はしているものの、効果は絶大である。
ほとんどの者が隣接する建物まで吹っ飛ばされ、折り重なるように倒れ込んでいく。
後は屋根の上にいる者を、雷魔法で麻痺させていくだけの簡単なお仕事だ。
たまに、ひょろひょろ矢が飛んでくるが、悉く結界に阻まれ、ポトポト下に落ちていく。
ん、これで終わりか? (フラグではございません)
門の表にいた連中も合わせて、5分(アース時間)とかかっていない。
「ちょっと待っててくださいね。こいつら回収しちゃいますから」
あっけにとられている、アンリエッタと護衛騎士を尻目に、タンタンと破落戸共を回収していった。
「今日は残念ながら、子供たちはどこかへ出かけているようです」
「無駄足になっちゃいましたね。ハハハハハッ」
「……カルロ様。あなたは……いったい何者ですか?」
「何言ってるんですか。僕はしがない貧乏子爵家の三男坊ですよ。でも、今日の事はご内密にお願いしますね」
「そうですわね、後は帰りの馬車にてゆっくりとお聞かせくださいね」
と、いく分気を取りもどしたアンリエッタは、そう答えると踵をかえして門の方へ歩いていった。
「さて、僕たちも引き上げようか。シロ、クロナ、行こう」
ピーチャンはシロに ”パイルダーオン” している。 (頭上にドッキングした状態)
破落戸共73人を回収し終えた僕たちも、すぐにアンリエッタの後を追いかけていくのであった。
そうして、諸々の処理を終えた王城への帰り道、僕とアンリエッタはパワーレベリングの日程について打ち合わせを行っていった。
もちろん、遮音結界を張っているので他の者に聞かれることはない。
できれば、騎士と向かい合っても負けないぐらいにはしておきたい。
そのためにも、今回の訪問における王都の滞在期間を、最大限に引き延ばすようにお願いしておいた。
まあ、そのあいだ僕もまた、王城に軟禁状態になるわけだ。
しかし、考えてみたら良い機会かもしれない。なにせ、堂々と王城に居られるのだし。
ついでに、今の王族がどのような者たちなのか、知っておいたとしても損にはならないだろう。
夏休みを目前に控えて、いろいろとやりたい事もあったのだが……。
まあ、こっちの案件を優先すべきだろう。
それから、きっちり12日間。
昼はゆったりすごし、たまにお茶会などに参加するだけに留めてもらう。
ダンジョンに入ってのレベリングのほうは夜間に行っていった。
そのお陰で、アンリエッタだけではなく、使い魔のモコモコもメキメキ強くなっていった。
そんな王城での毎日、2階にある来客用の食堂において、僕は夕食をいただいていた。
もちろん、お一人様でだ。
よもや、他所の国の王女殿下と御一緒する訳にもいかず。
また、従者であるクロナは部屋で賄いを用意してもらっている。
だから、テーブルについているのは僕だけである。シロは床に置かれたマイ・フライパンにお肉を入れてもらい、それを食べている。
ほんとに、ひとりの食卓は味気ない。誰かと喋るでもなく、ただ、黙々と食事を詰め込んでいく。そんな感じだった。
それがどうしたことか、今日は違っていたのだ。
テーブルを挟んで僕の向かいの席には、年の頃は3歳の幼女が薄いピンクのドレスを着て座っているではないか。
目の色は涼し気な碧眼で、明るい金色の髪はロングで毛先はゆるくカールしている。
加えて、赤い花をあしらった紺のカチューシャが、明るい金髪に映え良いアクセントになっていた。
そして、その幼女は夕食をとりながらもこちらを向いて、ニコニコ笑顔を見せてくるのだ。――可愛い
まあ、家のエマちゃんの次にではあるが。
それに正確にいえば、僕の肩にのっているピーチャンを見ているのだ。
それは、よく晴れ渡った今日の昼下がり。王城の2階にある大きなテラスでの出来事であった。
夏場の部屋はとても蒸し暑いのだ。
逃げるように風通しのよいテラスに出向き、お茶でも頂こうかとテーブルに着こうとしていたおり、
「ああー、鳥さん! 待って~」
と、女の子の声が聞えてきた。
んん、なんだ? 僕は声のした方に振り返った。
すると、横伝いにのびるテラスの向うから、件の幼女が駆けてくるではないか。
だが、少し様子が変だ。
幼女は家のピーチャンを追いかけて、こちらに来ているようだ。
しかし、近づくにつれて足もとがフラフラとおぼつかなくなっている。
これは、マズいと思い猛ダッシュ! 間一髪のところで幼女が倒れる前に抱きとめることができた。
「セーラさま~、どちらですか? セーラさま~」
どうやら、迎えがきたようだな。僕がそのままの状態で待っていると、
「まあ、セーラ様! どうなさったのですか? あなたは何を」
少し、焦っているメイドに今起きた事を一通り説明していく……。
「そうでございましたか。それは大変お世話になりました。では、セーラ様はこちらで」
息も絶え絶え、苦しそうなセーラと呼ばれる幼女をメイドに引き渡しつつ、
「その~、差し支えなければでいいのですが、どこかご病気なのですか?」
と、聞いてみた。
メイドは、セーラの汗を拭ったり衣服を直したりしながら、病気のことを簡単に説明してくれた。
さーて、次回の「僕とシロ」は、エマちゃんの次に可愛いセーラちゃんエピソードを少々。そして、最終段階にきたパワレベ ”最後の試練”とは……。え~と今回も戦いの疲れを癒すべく、温泉施設は利用してますが、本文には出てきませんので期待しないように。姫さまのお身体はトップシークレットなのです。 それでは、次回も見てくださいねー! んご、んん。
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