28. 大教会(挿絵)
あれから馬車に乗り、アンリエッタ王女殿下と共に王城へ入ることになった。
そして、3日間を王城で過ごしたのち、今日は王都の大教会へ向かうというので、それに同行することになった。
この3日間、アンリエッタは諸々の式典、王城でのお茶会や夜会などまで勢力的に動いて回っていた。
その間、僕はというと全くの軟禁状態で、自由に王城を出歩くこともできずに、部屋でシロやピーチャンたちと遊びながら過ごしていた。
ただ、今の王城がどの様に変わったのか分からなかったので、念のため、クロナの瞳の色はカラコンで変えている。
カラコンといえば、ギャル必須アイテムであるが、クロナをギャルにする訳ではない。
クロナの瞳は翠眼であり、前世に遡る頃にうたわれていた、”ロイヤルグリーン” を隠すためなのである。
そして、魔法ではなくカラコンを使ったのは、単に魔力感知を嫌ってのことなのだ。
なぜか、姫様が興味を示してきたので、数種類見せてやったら、お土産にするとかで何箱か持っていかれてしまった。
姫様をギャルにしたら、何か面白そうであったが今回はやめておいた。
おおっ! 久しぶりのシャバの空気、うまいね~。
アンリエッタ王女の一行は王城を離れ、少し小高い丘に建っている大教会をめざしていた。
馬車の中ではアンリエッタが大はしゃぎ。原因は僕の渡したドーナツ型のビーズクッションによるものだ。
はしゃいだアンリエッタはビーズクッションを掲げ、穴の中からニンマリした顔でこちらを見てくるのだ。――やれやれ、可愛いんだけどね。
シロは室内の隅で体を丸めて眠っている。
そして背中の上では、2匹のチルチットが動きをシンクロさせながら左右に揺れていた。
確かモコモコの方も雌だったはず。もう、完全にお友達状態だな。
そうして、アンリエッタと僕たちを乗せた馬車は無事、大教会に到着した。
これを出迎えたのは、教会の大司教を務めるコルベールである。
大司教は、馬車から降り立ったアンリエッタに労いの言葉をおくると、教会内を案内すべく先頭だって歩きはじめた。
僕たちは教会の大ホールに通されると、こちらを振り返った大司教から、いろいろとありがた~い話を聞かされることになった。
説法を聞きおわると、アンリエッタは祈りを捧げたい旨を大司教に告げていた。
そして、礼拝堂の祭壇まえへと進んだアンリエッタは、2名の護衛騎士と共に膝を突き祈りを捧げた。
すると、アンリエッタの身体が薄く光っている。
えっ……。僕がシロの方に目線を向けると、何故かシロにそっぽを向かれた。
――おい! シロ。何やってるんだよ。
どうやら、シロはモコモコにお願いされていたようだ。
モコモコも嬉しいのか、シロの頭の上で飛び跳ねている。
なるほど、ダンジョンで鍛えちゃうのね。ビシバシとね。
そういう事なら仕方がない。アンリエッタがこちらに滞在するのは、あと10日程だ。
短期集中スーパーハードでいかしてもらおう。フフフッ♪
そして、アンリエッタの姿をまじかで見ていた大司教が、
「おお、神の啓示が~」 とか 「神のご加護が~」 とか騒いでいたが、時間が押しているのでスルーさせてもらった。
さて、次の目的地は、ここの裏手奥にある孤児院であり、孤児たちへの慰問に向かうようだ。
その場所へと続く道は非常に狭く、馬車が入っていけないため、みんなで歩いて行くことになる。
そんな狭い路地を護衛を含めて15人程で向かって行く。
先頭を行くのはシロ。続いてアンリエッタと僕、そして護衛の騎士2名が孤児院の敷地に足を踏み入れた。その時である。
――――ズズズズッ、バタン!
入ったと同時に通用口の門が閉ざされた。
護衛騎士のひとりが警戒のため、アンリエッタと僕たちの前に出る。
すると、本来は孤児たちが生活しているであろう建物から、次々と出てくる人影。
建物の上にも、弓を構えている者が多数こちらを狙っている。
そして、周りの建物からも出てくるは出てくるはで、総勢70人程だろうか。
まー、よく集めたものだ。やはり闇ギルドあたりが絡んでいそうだな。
手には剣やナイフをもった破落戸共が僕たちを囲んでいく。
その中から、一際ガタイのいい男が僕たち前に出てきた。腕には湾曲したシミッターのような剣を持っている。
「へへへ、孤児院に慰問かい? お優しいこって。俺たちが歓迎しますぜ」
男はニタニタすえた笑みを浮かべながら喋ってくる。
それに歯が2~3本飛んでおり、息も臭そうだ。
んん~、さてさてどうしましょう。
問題は子供たちが、どのような状態になっているのか。
ダンジョンからの情報によると、どうやら丘を下りて町の方に避難しているみたいだ。
なるほどなぁ、この破落戸どもは顔は怖いが、最低限の良識は弁えているのだろう。
子供たちが居ないとなれば、事は簡単である。
と、その前にアンリエッタに質問だ。
「アンリエッタ王女殿下、この者たちですがどういたしましょうか?」
「ええっ、どうするとは、どういうことなのですか? カルロ様」
すこし、ビックリしたように聞き返してくるアンリエッタに、
「はい、生かして捕まえるか、もしくは切り捨てるのかです」
「はぁ~~。何言ってやがんだぁ、このクソガキ。ママが恋しいのなら、帰ってもいいんだぜ~」
その男の言葉と共に、周りの男たちもゲラゲラ笑いはじめた。
まったく、下品なやつらである。
破落戸=ごろつき と読みます。変換機能がなければ思いつくことはないでしょうね。まあ、ごろつきという言葉自体、使わなくなりましたしね。文章の中に、古い言葉や言い回しがたまに出てきますが、何分古い人間が書いてございます。どうかお付き合いくださいませ。
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