26. 黄色い鳥
初夏を過ぎ、日差しが強くなってきたある日のこと、学園内で事件は起こった。
その日も午前の授業を終え、ジミーと昼食をとりに食堂へ赴いた時のことだ。
僕たちは、いつものようにパンと料理、スープが乗ったトレイを受けとり、スタンドテーブルに着こうしたその時である。
いきなり数人の上級生が駆け込んで来て、サロンのある方に集まり騒ぎ始めた。
僕は、ちぎったパンを口に入れながら、サロンの方へと耳を傾けていた。
すると、聞こえてきたのは、
「……から一緒に……」
「逃げた。……捕らわれた?」
「……のお姫様が……」
「これは大変なことになった!」
「黄色の……鳥……」
こちらから、サロンのテーブルまでは結構な距離がある為、なかなか聞き取り辛い。
しかし、しばらく聞いていると、何となく状況が掴めてきた。
話をまとめるとこうだ。
本日、この王国学院に、隣国のお姫様が視察のため訪れていた。
それで、朝からあちらこちらと案内されている間に、いつも連れていた使い魔が突然いなくなってしまった。という事らしい。
そして今、視察は一時中断され学院の関係者を総動員して、その使い魔を探しているらしいのだ。
その探している使い魔の種類と特徴だが、手に乗るぐらいのチルチットで色は黄色だそうな。
僕のところも同じチルチットだが、ピーチャンの色はブルーなのだ。
とりあえずは良かった。これなら間違えられることもないだろう。
姫様は、そのチルチットをとても可愛がっていたようで、相当落ち込んでいるみたいだ。
昼食を終えた僕とジミーは、次の授業の講義教室に向かったのだが、通達が届いており、午後からの授業はすべて中止になっていた。
さらに、僕たち寮生は速やかに自室に戻り、自習せよとのお達しである。
僕はジミーと廊下で別れ自室に戻ってきた。
「お帰りなさいませ、カルロ様」
クロナが深々と腰を折り、お辞儀をして迎えてくれる。
「うん、ただいまー。今日は午後の授業はなくって、自習になったんだ」
「そうだったのですか。わたしはカルロ様のお加減が悪いのかと心配しました」
「そっか、僕はクロナのお陰でいつも元気だよ。ありがとねー」
まあ、何か起こったのは間違いないのだが、さてさてどうなりますやら。
僕は部屋のテーブルに着くと、クロナにお茶を用意するように頼んだ。
さすがに、この時間に帰るとは思ってないので、いつもは準備しているお湯も、まだ沸かしていないのだ。
クロナがお湯を沸かしているあいだ、隅の方で寝ているシロを見やる。
うん、気持ち良さそうに寝ているな~。背中に乗っているピーチャンもリラックスしているのか、左右にゆっくりスイングしている。
リラックスすると体毛まで色が変わるのだな~。……!?
……いやいやいや、色は変わらないだろ。それにピーチャンはすでに僕の肩の上にいるのだ。
すると、あそこで気持ち良くスイングしている鳥さんは、ピーチャンの子供? な訳ないよなぁ。精霊なんだし。
ってことは…………ですよねー! 羽の色は黄色って言ってたし……。
どうして、ここにいるの? しかも、なぜ帰ろうとしないの?
ちょうど、トレイにお茶をのせてきたクロナに、あの黄色い鳥が何故ここに居るのか、経緯を聞いてみた。
ふんふん、ほうほう、なーるほどね。
つまり、ピーチャンがいつものようにお空の散歩をして戻ってきたら、窓の桟に二匹が並んで佇んでいたと。
どうも、そういう事らしい。
ピーチャンが使い魔になってからこっち、ダンジョン・カイル にお願いして、学園の敷地に軽めの結界を施している。
そのお陰で、ピーチャンは学園の敷地内なら自由に飛び回ることが出来るのだ。
「シロ、ちょっとおいでー」
僕がそう呼ぶと、部屋の隅で寝ていたシロがむくっと立ち上がって、トトトトっと軽やかに近づいてきた。
背中に乗ってた、黄色い鳥さんもいっしょだ。
シロは僕の前まで来るとお座りをした。黄色い鳥さんはシロの背中伝いに上って来て、頭に鎮座している。
僕は右肩に乗っているピーチャンを見やるが、特に自分の場所という訳でもないようだ。
それが分かり、少しホッとしているのは内緒だよ。
さて、この黄色い鳥さん。どうして戻っていかないの?
外はすでに汗ばむ気候になっている。それゆえ、部屋の窓は開け放たれているのだ。
僕はお茶を飲みながら、黄色い鳥さんを観察していると、
『ピーピー、ピヒョロヒョロ、ピーピーピー』
突然、黄色い鳥さんがさえずり始めた。
んん、どーした? すると、
『きけん、ちかく、しゅじん、あぶない、まもる、あそぶ』
今度はシロが念話で伝えてきた。たぶん、黄色い鳥さんが言ってることを通訳してくれているのだろう。
「ん、危ないのか? 姫様なら近辺警護の者や、馬車を守る騎士とかもいるだろう?」
すると、また黄色い鳥さんがさえずりだし、シロが通訳を繰り返した。
すると、だんだん話が読めてきた。
この黄色い鳥さんの主人であるお姫様は、お隣ローザン王国の第一王女であるらしい。
この度クルーガー王国に来訪したのも、王位継承の折の後ろ盾をお願いするためだったようだ。
ローザン王国の現国王陛下は病弱であり、お子にも恵まれておらず、男子は一人もいない。
嫡子は今来訪されている若い姫様と、まだ3歳になったばかりの妹がいるだけのようだ。
順当に行けば、若い姫様が後を継ぎ、王配を迎えて国政をとり、跡継ぎを残していく。
そんな、流れになるはずである。
だが、国王の弟でもある公爵が出張って来ており、いろいろ難癖をつけ始めた……と。
黄色い鳥さんは、ピーチャンのお友達。リラックマとはまったく関係ございません。そして、ピーチャンはカルロが一番のようです。ですが、どうしてもシロのふさふさの毛には抗えないようなのです。 さてさて、何か不穏な空気が漂いはじめましたが……。
ブックマーク、評価、感想、いいね!、などいただきますと励みになります!!




