14. ガンツ
「ああー、誰だ。ワシはお前のような、白犬を連れたガキなんぞ知らん。それにガンツはワシの親父だ」
「えっ、そうなのか? それじゃあガンツは亡くなっているのか~?」
「こらこら、ワシの親父を勝手に殺すな! ちゃんと生きとるとるわい。お~い、親父~」
へー、そうなんだ。ガンツの息子ね。ホントそっくりだわ。
「なんじゃー、ゲンガ。なんぞ有ったか?」
「おう、親父に客だ!」
「なに、ワシにか? 誰じゃ」
そして、ガンツはこちらを見て…………。
「おう! お前さん、シロじゃないか! 久ぶりじゃわい」
これに、シロもお座りをしたまま尻尾をブンブン振って答えている。
そして僕は、インベントリーから短槍を取り出すと、
「久しぶりだな、ガンツ。手入れを頼む」
と言って、持っていた短槍をガンツに渡した。
……その槍を見ると、ガンツの目の色が変わった。
「こ、この短槍は……。そうか、お前さんか……。ゲン、今は何と呼べばいいんだ?」
「ようやく分ったか。今はカルロだよ。生まれはガルバド伯爵領のアストレアだな。最近ダンジョンが見つかったよ」
「ワハハハハッ、そうか そうか。もう、200年程経つかの~。よく、帰ってきた!」
「ささっ、座ってくれ。ゆっくり話そうじゃないか。しかし、その身体では酒はまだ無理かの~」
ガンツの顔はもう、ニッコニコである。横に居る息子も驚く程に……。
そのあとは、息子のゲンガを巻き込んで、呑めや歌えの大宴会。
酒の飲めない僕は、果実水をチビチビやりながらも、盛り上がってしまい、結局朝まで付き合わされてしまった。
僕はインベントリーから、ウイスキー角をカウンターに静かに置くと、ごうごう眠るガンツ親子を見やり、
「またな」
と言って、鍛冶工房を後にした。
宿に戻ると、もう出入口は開けてあり。僕は表を掃いていた女将に、
「おはようございます!」
と挨拶をして2階の部屋に戻った。
――ひしっ!
部屋に入った途端、腕にすがりつかれた。
クロナである。
部屋着である貫頭衣を着ている。
「うっ、うう。よ、よかった。わたし不安で……」
そうかー。僕もここまで遅くなるとは思わなくて、
『少し、出てくるから……』
と、言っただけで出てきたからなぁ。そりゃあ、心配するわな……。
そのあと、メソメソ泣いている、クロナの頭を優しく撫でてやり落ち着かせると。
クロナを着替えさせて、朝食をとりに1階に下りていった。
階段を下り食堂に顔を出すと、一組のテーブルに腰掛けているジミーが、こちらに向け手を振っていた。
「おう! おはよう。早いな! クロナも同じテーブルを使っていいか?」
「おはよう、カルロ。いいに決まってるだろー。同じパーティー・メンバーなんだし」
「それに、旅の途中でもあるしな」
「そうか、ありがとう。さあ、クロナも座りな」
そうして、シロ用のフライパンとポンタ用の深皿に、それぞれ朝食メニューをよそってもらい、みんなで楽しく朝食を頂いていた。
すると、宿の女将が僕たちのテーブルまで来て、
「お連れさんが店の前でお待ちですよ!」
と、伝えてきた。
……連れ?
そんな者はいない。いったい誰のことだろう?
そう思いながら宿の玄関へ出て外を見てみると、これまた大きなバックパックを担いだ、ひとりのドワーフがこちらを向いてニヤニヤしている。
ガンツであった。
さながら、地下坑道で会った ”ポムじいさん” のようである。(天○の城ラピ○タ)
それで、どうかしたのか? と話を聞いてみると。
なんと、僕が帰るアストレアまで付いて来ると言う。
「いろんな町を渡りゆくのがドワーフの宿命。最果ての町アストレア、なんとも楽しみじゃわい!」
……なんだと。
以前も、同じような事があったような気もするが……。そこまで言うなら連れていってやろうじゃないか。
このあとジミーたちが、迎えの馬車に乗り込むのを見届け。
僕たちもアストレアの町に転移した。
ちなみに、あのバカでかいバックパックは、シロに預かってもらっている。
さてさて、ようやく帰って来ましたアストレアの町。
そして久しぶりの我が家。
ガンツを案内しながら家の門を潜った。
――ひしっ!
腰にしがみつかれた。
エマちゃんである。
僕はエマの頭を一撫ですると、そのまま腕抱きに抱えあげた。
そんな自然なおこないに、しばらく驚いていたエマちゃんだったが、すぐに持ちなおして、ベッタリへばり付いてきた。
玄関では、エレノア母様やメイドのアンナが僕たちを出迎えてくれた。
ああ、たった40日程であったが、やっぱり自分の家は落ち着くものだな。
そうしてリビングに入り、僕の家族にクロナやガンツを紹介していった。
だんだんと、慣れてきたエマちゃんはクロナのことを、
「クロにゃんにゃん」
と呼びはじめ、今度はクロナにへばり付いてしまった。
おねーさんが出来て嬉しいのだろうか。
僕としては、少し寂しくもある。
だが、やりたい事もいろいろあるのだ。かえって良かったのかもしれない。
そして、ガンツは工房を立ち上げるまでは、この家でゆっくりできるようにと、お父様が計らってくれた。
「それにしても、ガンツといえば ”王国の至宝” とまでうたわれた稀代の天才鍛冶師だったはずです」
「そんな者が、なぜこのような田舎町に来てくれたのか? まったく理解が追いつかん」
と、ブツブツ言いあっているアンソニーお兄様とアルバートお父様。
『まあ、僕とガンツの仲だから』 とは、さすがに言える筈もなかった。
カルロくん、お家に帰ってきました~。はい! そこ、まだ早いです。パンツから手を放してー。ちゃんと建物たてないと、ゆっくりできないっしょ。んっ、結界がある? あ~分かってないな~。大きく建てて、ごろごろ呼びたいっしょう。……分かったなら、もう少しだけ待ってね♪
誤字報告、助かっておりまーす。 うっかり八兵衛なもので。(*ᴗˬᴗ)⁾
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