131.僕から俺へ(終)
ぺしっぺしっ、ぺしっぺしっ、『あそぶ、おにく、みんな、おきる、あさ、さんぽ、』
ぺしっぺしっ、ぺしっぺしっ、「ウォンウォン!」 「ウォンウォン!」
「うっ、はうっ、分かった! 今、起きるからぁ」
ここは、ダンジョン・スパンクのある『迷宮都市アーガルム』である。
ダンジョン前広場より少し登ったところにアーガルム本邸は建っているのだ。
その邸の自室で寝ていた僕は従魔であるシロとユキに叩き起こされたところである。
シロは額をぺしっぺしっ、ユキは腹をぺしっぺしっと叩いてくるのだが、ユキは手加減を間違っていると思う。
寝ている無防備のところに (逆)への字に沈み込むようなボディブローをかましてくるのだ。
鍛えているとはいえ これはダメだろう。普通の人間だと瀕死状態になるぞ。
えっ、ううん、まあ スッキリと目覚めはするのだがな……。
シロたちと散歩から帰り、朝食をとった後は執務室にしばし籠る。
本来なら、ここ迷宮都市アーガルムは代官としてテリュース兄に取り仕切ってもらっている。
しかし、彼は今 ローザン王国から賜った領地 (山地) の開発と迷宮都市の整備のため、かなり無理を言って出向してもらっているところだ。
とは言ったものの、都市化の計画に沿って近隣の山を切り崩したり、別方面に街道を通すなどのインフラ関係は すべて僕と ダンジョン・シンゲン で終わらせている。
ダンジョンがある地点から半径20㎞圏内までは思い通りに開発ができるので、今は山の中に大きな盆地が出来ている状態である。
そして、住民の方であるが山間部に細々とした生活を営んでいた熊人族を受け入れ。
さらに、隣のバランの町とも近いことから ザルツ連邦からの獣人族も積極的に受け入れていこうと考えている。
それから、これは余談になるのだが、
「やるからにはローザン王国で1番をめざしてやる!」
我が兄テリュースのことばである。
どのようなもので1番を目標に掲げているのか? もう、お分かりであろうが『歓楽街』である。
では、何故こんな事になってしまったのかというと、
テリュース兄をローザン王国へ出向させるにあたり、最初はかなりゴネられたのである。
「カルロ、マジで言っているのか? 冗談じゃないよぉ。こっちもやっと軌道に乗ってホッとしていたんだ。夜だって楽しくやっているんだからな」
「じゃあ、準備金をもう少し増やすよ。これなら……」
「かぁ――――、ダメダメ! そんな金銭のことじゃないんだよ カルロ。何年オレの弟をやっているんだ?」
「…………」
「オレの生きがいを奪い取って また、山の中で何年も暮らせと言うのか。あの むさくて臭い男どもしかいない地獄に放り込むと?」
「…………」
「な、ならば僕に任せてよ。絶対に寂しい思いはさせないから。ねっ……」
それから僕はいろいろと考えた上で、
あちらの拠点とこちらにある兄の家とを結ぶ転移陣の設置を提案したのである。――夜間限定です。
さらには、『どうせ歓楽街を作るならローザン王国で1番と言われるものを作ろう』とも煽り、こちらには無かった色々な『夜のお店』のアイデアを惜しげもなく垂れ流したのだ。
すると、テリュース兄の『意識改革』は成された。
男の考えている事なんて、異世界であろうとどこであろうとそんなに変わらないという事だね。
まったく男っていう生き物は……。
実は僕も行きたい! ローザン王国で1番の歓楽街……。
迷宮都市アーガルムに関する諸々の執務を終え リビングでゆっくりしていると、セーラが福ちゃん(シロの子)を連れて遊びにやってきた。
福ちゃんは 結局そのままセーラの従魔に収まった。
今では一緒にダンジョンへ潜り、レベルを上げながらスイーツ集めを楽しんでいるのだ。
それで明日が休みということもあり、エマとダイゴ、アンリエッタとミルキィ、王宮の方からもロイド様がメイド隊を引き連れてスパンク温泉に訪れているという。
こうなったら、もう みんなで温泉だよねっ!
なぜか、恒例になってしまった『洗いっこ』を終え、僕たちは露店風呂へと雪崩れ込んでいく。
ここはいつ来ても壮観だよねぇ。――女性の比率が高くて。
それに我家の従魔たちは サービス精神が旺盛で、あっちのグループへ こっちのグループへと 入り乱れて遊んでいる。
エマの従魔であるミュウ(龍)やピーチャンも みんなを乗せて楽しそうに上空を飛んでいるしな。
「おお~い、カルロくん。元気そうね」
「はい。ロイド様もお肌がプルプルですね」
「あはっ! わかる~、ここの泥パックは最高よねぇ。10日に1回はやっているわね」
「もう少しだけ、期間を空けた方がいいですね。肌を痛めては何もなりませんから」
「あぁ~、そうなの? じゃあ20日置きぐらいにするわぁ。お肌のケアはあの魔法の水(化粧水)もあるから大丈夫よね」
すると、今度は向うからアンリエッタがやってきた。
「ねぇカルロ、そろそろ出来上がるらしいのよ。楽しみで仕方ないわぁ」
「やっぱり僕が見るのはダメなんだよね?」
「そうね、まだダメよ。当日に最高のもの見せてあげるんだから。ねぇークロナちゃん」
「はい、こればかりはカルロさまのお願いでも見せられませーん」
「そっか、それなら待つよ。当日を楽しみにしているよ」
そう、これはウェディングドレスの話である。
こちらには『お色直し』の演出などはないのであるが、
クルーガー王国とローザン王国 それぞれで結婚式と舞踏会が行われるため、ウエディングドレスにおいても2着準備しているようである。
しかも、ドレスを作る仕立て屋もそれぞれの国で準備するという念の入れようだ。
これは彼女たちに聞いたのだが、同じウェディングドレスでも国によって流行っているものが違うらしいのだ。
男の僕からすれば、どんなドレスでも美しく見えると思うのだが ここは ”邸の平和” のため、黙って頷いておくことにする。
さてさて、この世界に再び転生を果たし 幼年期~少年期は意外と安寧に過ごすことができたと思う。
これも、シロが側に居てくれたお陰だな。
それにしても、女神さまはどうしたのであろう?
なぜ、俺やミルキィをこの時代に転生させる必要があったのだろうか?
ただの偶然とも思えないし、生があるうちに答えが見つかれば良いのだが……。
まあ何にせよ、その時が来ればシロに天啓が降るだろう。
その時が来るまではシロや他の従魔たち、
そして、何よりも俺にとって大切な人たちと この世界を楽しく渡っていきたいな……。




