129.一味違う
こちらはお留守番の3匹組、正確には1人と2匹だが思考はお3方ともそう違わないだろう。(酷!)
先程、リンがこのホテルのチーフを連れてカルロが使用している寝室へ入っていった。
例の天井からの音を確認させているのだろう。
しばらくすると、
「確認いたしました。これはかなり迷惑をお掛けしたことでしょう。すぐに駆除業者を手配いたしますので、ご安心ください」
そう言うとホテルのチーフは部屋から出ていったのだが、何故だかリンもそれを追うように出ていってしまった。
それから、四半刻 (30分) 程過ぎたであろうか、リンは部屋へ戻ってきた。
すると、ホテルの清掃員から借りてきた長箒を右手に持ち、そのまま入口で仁王立ちしている。
「さあ、みんな行くニャ! 屋根裏に上がるのにゃん」 ――ふんす!
「ホントに行くのですか? 勝手なことをすると主様に怒られますよ」
「大丈夫ニャ、ご主人様の安眠はあちき達が守るのニャ。それにヤカン様、久しぶりに丸々とした家ネズミの素揚げをいっぱい作るのニャン」
「ウォンウォン!」
「心配いらないニャ! ユキにゃんにもあちきが肉串をおごってあげるのニャン」
そうしてリンは説得 (買収) した2匹を引き連れ、ホテルの天井裏へと上がっていくのであった。
晩餐会のメイン会場。僕が上座のテーブルにひとりで座っていると、席の後ろから声を掛けられた。
「カルロ様、お待たせ致しました」
アンリエッタである。
お付きのメイドさんがテーブルより椅子を引いている。
僕は礼儀として一旦 立ち上がっていた。
…………
おおっと、しばらく見とれてしまった。
だが、これは仕方がないだろう。
だって、めちゃくちゃ奇麗なんだよ。――2度見してしまう程に。
結い上げられた美しいブロンドの髪に、ドレスは白を基調としたマーメイドライン。
両肩を見せ、フィットした曲線を見せることで『大人の女性』を演出している。
開いた裾の部分にはレースが重ねられており、その姿はまさにマーメイド (人魚) のようである。
彼女は座る前にススッとこちらに近づき、僕の耳元に顔を寄せ、
「カルロ、今日はよろしく頼むわね」
――ドキッ!
そんな、何でもない言葉が今日は色っぽく聞こえてしまうのだ。
そして何だぁ? 香水か……。
ほわんといい香りを残し、アンリエッタは微笑みを浮かべながら隣りの席についたのである。
―― 今宵のアンリエッタは一味違うぞ ―― (by五ェ門)
こちらホテルの方では、家ネズミの駆除もおおかた終了したところである。
それで今回の成果であるが、家ネズミが12匹、ラットが2匹、おっさんが1名という結果に終わった。
家ネズミは通常のハツカネズミほどのサイズ。
『ラット』はネズミ型の魔獣になるのだが、今回のヤツは30㎝に未たない小さめの『コラット』であった。
おそらく、野生のラットが王都の下水道に潜り込んで繁殖したのであろう。
冒険者ギルドに尻尾を切って提出すれば、大銅貨2枚の報奨金が貰えるのである。
そして、最後がおっさんである。
このおっさん、どうやら何日も前から天井裏に潜り込んでいたようで髭も伸び、それに……臭い。
おそらく、裏ギルドの斥候であり、潜入が専門なのだろう。
とはいえ、カルロは気づいていたはずだが……。泳がされていたとも考えられる。
このような結果になったのでホテルへ報告すると、女将さんには大変感謝された。
特にコラットについては小さくとも魔獣である。
お客さまや その持ち物を齧られた日には、大騒動になっていただろう。
その相手が貴族なら、首が飛んでいたかもしれないのだ。
早期発見できたことで被害を出さずに済み、安堵していたようである。
斯くして、お留守番 代表のリンは報酬として銀貨を2枚、そしてホテル特製の肉串3本をゲットしたのである。
もちろん素揚げ用の家ネズミも込みであるが、ラットとおっさんは証拠品として押収されてしまった。
僕の左側にアンリエッタ王女。そして、右側にはミルキィ王女が座っている。
ミルキィの方は子供らしく薄いピンクのミニドレス。(ミニ丈)
肩下まであるブロンドストレートの髪。そこに、ドレスと同じ薄いピンク色のリボンヘアバンドをしている。
その姿で、先ほどは『カーテシー』による挨拶をおこなっていた。
ミルキィは まだ子供であるが、その流れるような仕草からは余裕すら感じさせるものがあった。
それで、最後に残った前方の2席には侯爵家の老夫婦が揃って座られている。
こちらのお二方は第一王妃であるマシェリ様のご両親なのだとか。
アンリエッタとミルキィの祖父母でいらっしゃるのだ。
見えられた際はアンリエッタが紹介してくれたので、丁寧に挨拶しておいた。
そして、これを皮切りに今日はひたすら挨拶そして挨拶なのである。
一応、舞踏晩餐会となってはいるが新参者の僕は踊っている暇などないのである。
アンリエッタたちの祖父母である侯爵夫妻は割と気さくで穏やかな方々であった。幼かった頃の二人 (王女) の様子などを楽しそうに話していらした。
ただ、お年を召していらっしゃるせいか、腰痛や膝関節痛が慢性化しており階段の上り下りなどが辛いとのお話であった。
そう言うことであれば僕の出番だ。あとで、控室にでも行って治癒魔法で治してあげよう。
骨や軟骨がすり減っていても、リカバリーの魔法もあるので大丈夫だ。
あとで、アンリエッタに伝えてもらうことにしよう。
お留守番の3匹組。酷いと言っているのはヤカンだったりして……。白狐のヤカンは正真正銘のお稲荷様で、1500年ほど生きています。地の力はフェンリルには及びませんが、魔法は多彩でとても強いです。おまけに思慮深くて優しいのです。それに、ふっとい大きな尻尾(1本)も魅力です。 カルロは完全にアンリエッタにやられていますね。 ”また、つまらぬ物を切ってしまった……”こちらの台詞の方がレアかな?
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