128.会場
何処かの町中で会ったのだろうか?
皆目見当がつかず、僕が眉間にしわを寄せていると、
「おお、すまんすまん初めてだったよな。俺は『バランの町』とあの一帯を納めている領主で アドロック・バランタインだ」
簡単な自己紹介を終えたアドロックは、ニカッと人懐っこい笑顔を僕に向け右手を差し出してきた。
その紹介を受けた僕はソファーからすぐに立ち上がり、
「自己紹介をありがとうございます。僕はこのたび伯爵となりましたカルロ・アーガルムと申します。どうぞ よろしくお願い致します」
と、こちらも笑顔でアドロックと握手を交わすのであった。
それからアドロックは隣りのソファーに腰を落ち着けると、どうして僕を知っていたのかなどを気軽に話してくれたのである。
それで、じっくり話を聞いてみると、
昨年のスラミガ帝国によるザルツ島侵攻の際、アンリエッタ率いる増援部隊がバランの町に駐留していたのだが、その時分に話を聞いていたそうなのだ。
もちろん、アンリエッタ本人からである。
なんでも、現国王のルシード様とアドロックの父であるジョージ様は旧知の間柄だったそうだ。
そんな家族ぐるみの付き合いをしていた関係で、アドロックとアンリエッタはお互いのことをよく知っていたということだな。
ふむ……、思い返してみれば確かに変ではあったよな。
いくら同じバランの町に居たとはいえ、王女であるアンリエッタが気軽にホイホイ出て回れるものなのか?
たとえ 出て回れたとしても、うら若き王女様が ”もっさい倉庫” に度々出入りしているのだ。
こんなことをしていれば怪しまれて当然ではないか? ――普通に考えて。
なるほどなぁ、幼馴染みのように親しい間柄であれば あの行動も可能だったわけだ。
「そんなわけで、カルロのことはアンリエッタから聞いていたのさ」
「なるほど、そういうことだったのですね。どうりで、アンリエッタ様が気軽に出歩けたのですね。本当に大丈夫なのかと、内心ひやひやものでしたよ」
「…………」
「ん、えっと、何か?」
「いやな、もう少し砕けて話さないか? 俺は17歳だ、カルロもそんなに変わらないだろう。親父が亡くなって まだ1年。俺も後を継いだばかりなんだよなぁ」
「……うん、わかったよ。それじゃ僕もアドロックと呼ばしてもらうよ。年齢は一つ下の16歳だ。改めてよろしく」
「おうおう、それでいい。賢っ苦しいのは苦手なんだよ。こういう所に来るのも……なっ」
「お、奇遇だな。僕もこういうのは苦手だな」
それから2人は意気投合。アンリエッタのことをはじめ、様々な話をしていくのであった。
その頃、ホテルに残されたリンたちは『鬼の居ぬ間に洗濯』とばかりに 思う存分寛ぎまくっていた。
「にゃ~~~、お留守番は最高ニャ~~~。ヤカン様もユキにゃんもそう思うニャン」
「フフフッ! 主様もセバスさんも居ないからって盛大にだらけていますね。まあ、部屋の片付けや洗濯などはお昼までに終わらせていますから良いとは思いますがね」
「ウォンウォン!」
「にゃにゃ、ヤカン様もユキにゃんも分かってるのニャ。たまにはのんびりするのも良いのニャン」
この3匹が何処に居るのかというと……。
カルロが使っている寝室のベッドの上である。
尻尾をゆらゆらさせながら、仲良く並んで寝ているのだ。
「ご主人様の匂いは良い匂いニャ、こうしているとウトウト眠くなるのニャン」
「そうですね、たしかに主様の匂いには癒されますねぇ」
「ウォンウォン!」
そのように、カルロのベッドに3匹で寝転がりマッタリしていたその時である、
――カリッ! カリカリカリッ。
天井から聞こえてくる奇怪な音!
――カリカリッ! カリカリカリカリカリッ。
すると、同じような音が違う所からも聞こえてくるではないか。
「にゃにゃ、ねずみ (刺客) が出たニャ。結構な数いるのニャン」
「これはいけませんねぇ。主様の安眠の妨げになるやもしれません」
「ウォン、ウゥ――!」
「ユキにゃん落ち着くニャ、あちきは宿の女将に交渉してくるニャン」
いよいよ晩餐会が始まるようだ。王宮付きの執事や案内係のメイドが奇麗に並んでサロンの中へ入ってきた。
そうして、部屋の外で待っていたクロナにシロとピーチャンを託し、晩餐会が行われる会場へと入っていった。
うっ、眩しい! 一瞬だが目を閉じてしまった。
そして、ゆっくり瞼を開いていくとドドーンと広い空間の天井には巨大なシャンデリアが中央に1基。
さらに、それを取り巻くよう大きなシャンデリアが十字方向に4基設置されている。
それは、色とりどりにキラキラと輝きを放ち、とても奇麗なのである。――眩しいけど。
その一方で下に目を向けても、これまた見事な文様を施した毛足の長いふかふかな絨毯。
――凄い! これは素直にそう思わせる室内演出だよな。
というか、いくら掛かったんだよ! と、野暮なことを聞きたくなるほど豪華絢爛で凄いのだ。
並べられた丸テーブルには椅子が5脚づつ揃えられ、真っ白なクロスの上には 中央にキャンドル、それを囲むように各種グラスと銀製のカトラリーが規則正しく並んでいた。
僕は入口付近でクロナたちと別れたのち、案内されるがままに上座のテーブルへ着席するのだった。
アドロックといえば、『ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん』ですよねぇ。懐かしい! バランの町においてティファニアはともかく、アンリエッタまで自由に動けていたのは領主をよく知っていたからですね。しかし あまり喋ってるとアンリエッタの件でいじられそうですが。 アドロックのバランタイン領はカルロのシンゲン領(仮)とは隣り同士ですからこれからは長いつき合いになることでしょう。
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