127.叙爵式典
この王都に入って13日が過ぎた。僕は今 ローザン王国の王宮殿に来ている。
アンリエッタが気を利かせてくれて、今朝は早くから僕を迎えに王宮の馬車を回してくれたのだ。
そのお陰で、王宮殿までの4つの門も難なく通過して、かなり早く到着することができた。
それで、本日お供をしてくれたのがシロとピーチャン そしてクロナである。ヤカンとユキは今回は留守番をお願いしてきた。
さらに、食事についても お昼と晩には魚料理を出してもらえるように、ホテルのコックに海の魚を多めに渡してあるのだ。
そして、このことを聞いたリンは大喜び。
「留守はリンに任せておくニャン」と、すこぶる張りきっていたようだ。
本来であれば、叙爵式典を受ける当事者は王宮殿の待合室にて呼び出しが掛かるまで 待機しておくのが基本である。
しかし、今日の僕はあちらこちらからお呼びが掛かっており 割と忙しいことになっている。
まずは、簡単な打ち合わせがしたいと打診してきたのは、我がクルーガー王国の王太子であるアースレット様である。
それと、時を同じくしてアンリエッタからも誘いが来ており。
さらに、ミルキィから今しがた連絡が入ったところである。
さてさて、どうしたものか。
普通に考えるなら、この国の王女様たちを優先させるべきなのだろうが。
しかし、ふたりには昨夜ダンジョン探索に同行したので会っているのだ。
なので、ここはアースレット様と先にお会いしようと思うのだが、そうすると波風が立つ恐れがある。
そこで、いつもの『付け届け大作戦』を展開することにした。
まずメインは見栄えも良く日持ちもいいマドレーヌをもってくる。
そこに、届けてもらうメイドさんへ労をねぎらう意味も込め シュークリームをいくつか付けるのだ。
『これは試作したものですが、あなた方でお召し上がりください』
さらに、『傷みが早いのでお早く!』と、つけ加えておけば完璧である。
それはもう、ニコニコ笑顔でマドレーヌを届けてくれることだろう。
「かしこまりました。そのような事情があるのでしたら致し方ございません。こちらは確かにお預かりいたしました」
と、言って王宮メイドが去っていく。その去り際、僕だけに見えるようにウインクして行きやがった。
「…………」
ティファニアである。
あの野郎、やはり ちゃんとした会話も出来るじゃないか。――まったく。
まあ、ティファニアは ”おねーちゃんキャラ” の方が地であろうが、頭が切れることも確かだからな。
アースレット様との打ち合わせは『式次第』の確認だけだったので直ぐに終わった。
式典まではお暇らしいので、姫茶会にお誘いすることにした。
しかし、それぞれに合うのは非効率で時間も短くなるので、
『みんな集まって楽しくやろう』
と、声を掛けてみたところが、みんなOKとすぐに返事がきた。
それで、少し大きい談話室に集まったのだけれど。
なぜに、王妃のマシェリ様まで……。
まあ、いっか。
みんなが楽しく過ごせるなら、それが一番だからね。
いろいろなお茶菓子にアイスクリームやシャーベットはみんなに大好評であった。
滞りなく叙爵式典を終えた僕は ここローザン王国でも伯爵位を賜ることとなった。
この他国の者に上級貴族の資格を与える行為は、ローザン王国においても異例の事であり、王弟派の貴族を中心に抗議が殺到していたようだ。
しかし、ダンジョンの発見及びそれに付随した転移陣設置の功績は大きく、この国にもたらす富は計り知れない。
このことから、王宮側も粘り強く説得をおこない今日を迎えるに至ったということだ。
そこで拝領することになった領地なのだが、内外の情勢も考慮されたものになった。
発見した、ダンジョン・シンゲンのある山間部一帯が与えられることとなった。
また、価値の無い山である。それも今回は山中になるのだが……。
まあ、よそ者である僕をねじ込むために国王様をはじめ周りの重臣たちは並々ならぬ苦労をしていたようである。
しかし、このことに関し不満をもらす者は一人もいなかったという。
なぜなら、カルロが成した事がダンジョンの発見だけでないことを この者たちは知っていたからである。
着替えを済ました僕は、シロとピーチャンを連れて待合用サロンへと入った。
ここは、晩餐会の招待客が一時的に待機する場所となっている。
広い室内には、天井の真ん中に大きなシャンデリアが付いており、肘置きのついた一人用のソファーが両側の壁にズラリと並べられている。
僕がサロンに入った時点ですでに半分ほどの椅子が埋まっていた。
本来であれば、寄親や上役貴族への挨拶回りや隣境との情報交換など、貴族としては有意義に過ごすべきところである。
しかし、特に知り合いも居ない僕は入口付近のソファーへ腰を下ろすと、フロアサービスのメイドを呼び止めお茶を頼んでいた。
そうして、何も気にすることなくシロを撫でながらお茶を頂いていると、
「よお、お疲れ! なかなか良い毛並みのワンコだな。……いや、狼なのか?」
「…………」
んん、何だ? 声がした方に目を向けると自分と同じ年ぐらいの青年が立っていた。
目線を上げてよく見てみると、ブロンドの髪に涼し気なブルーの瞳を持つ シュッとしたなかなかのイケメン君である。
しかし、このイケメン君は誰なのか? その顔にはまったく覚えがなかったのである。
ティファニアはやればできる子だったのです。ってあたり前かな、侍女とはいえ王宮に務めているのですから。 『式次第』とは催しを進める順序や進行表のことです。 伯爵位は分かりますが、拝領地は……。まあ、ローザン王国の国内だから まだ良い方なのでしょうか? 国王様と一部の側近はカルロの秘密を知ってますし。
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