125.親離れ
暑いさなか しっかりと塩分補給をするのも大事なことだよね。そこでティファニアとお銀には冷たいお茶とポテトフライ (皮付き) を出してあげた。
このジャガイモは、近年アストレアとアーガルムで栽培しているもので自慢の一品なのである。
ちょうど小腹が空く時間帯でもあるようで、二人はポテトフライを夢中で食べている。
こうなってしまうと、もはや話が聞けるような状況ではない。
僕は、一旦休憩をはさむことを告げ、シロやクロナの他 周りのみんなにもポテトフライを振舞った。
「ああ、美味しかったわぁ。ここなら おねーちゃん毎日来てあげもいいわねぇ」
「あっ、その、ごちそうさまでした。お恥ずかしいところをお見せして……」
そのあと夕刻まで、二人はいろいろと情報提供をしてくれた。
「この件につきましては、こちらでも捜査を始めたいと思います。……ですので、その、明日もお話をお聞かせいただきたく存じます」
「そうそう、おねーちゃんも気になるから明日も出てくるわねぇ」
ポッキー片手にそう言われても……。事件よりもお菓子の方が気になっているんだろうなぁ。
ティファニアたちのお陰で、腑に落ちない点も いろいろと分かってきた。
このホテルは貴族街の中に建っている。よって平民では入口の門からは入ることは出来ないのだ。
それでも、貴族と裏で繋がっていれば、この貴族街でも容易に出入りすることも可能である。
そして僕が裏ギルドの連中に狙われている理由もそこにあるのだろうか?
まず、エバンキ子爵には会ったこともなければ、狙われる謂れもない。
だが、王弟派に属する貴族が相手ならば話は変わってくる。
王弟の『ヌレビルワ公爵』と言えば、数年前にアンリエッタを執拗に狙っていた張本人なのである。
その頃のルシード国王は病弱で床に伏せっており、余命幾ばくも無い状態であった。
そんな中、ローザン王国の根幹を揺るがすような後継者争いが王家内で起こっていたのだ。
ところがである、
隣国のクルーガーに来てまで努力を怠らず、自分の置かれた境遇にも真摯に向き合っている王女アンリエッタ。
そんなアンリエッタの姿に まんまとホダされてしまったカルロくんは『超お節介』を発動してしまったのだ。
これにより一命を取り留め、健康を取り戻したルシード国王。
彼はそれまで仲違いをしていた弟のヌレビルワとも和解し、その弟の嫡子を養子に迎え次期国王とすることで、この一連の騒動に終止符を打つことにした。
しかし、その程度ものでは ヌレビルワの ”火の点いた野心” を収めることはできなかった。
そもそも本人がこの国を乗っ取り、王位の簒奪を狙っていたのだ。
それが自分の子の代では全く意味をなさないのである。
なるほどね、大体の流れは掴むことが出来たと思う。
それでも、『僕を狙う理由』としては動機が今ひとつハッキリしていないんだよな。
まあ、隣国のポッと出の貴族が、ダンジョンを見つけて調子に乗っているのが気に食わない。
そういった単純な話かもしれないしな。
どの道、まだ襲われてもいないわけで。――ホントに来るのだろうか?
襲撃してくれば、その規模や回数などで 敵がどのくらい本気なのか分かるはずなのだが。
ということは、襲われてから考えた方がいいのだろうか。
いやいや、それは少し違うような。ふむむ……。
「ご主人様、そろそろ夕食の時間ニャ。今日もこの部屋にお持ちしてもいいかニャン」
「おう、そうだな、それがいいだろう。みんな一緒に食べられるし、チェックも1回で終わるからな」
そしたら、今度はシロが寄ってきて僕の前にお座りをした。
「ん、なんだシロ。どうかしたのか?」
僕はシロとピーチャンを交互に撫でながら聞いてみた。
…………
「うん、了解。そう言うことなら」
僕はシロに言われるがままユキを召喚した。
するとユキは寂しかったのか、すぐ僕にすり寄ってくると クンクンして甘えてきたのである。
「おっ、おおっ、よしよし。わかったわかったって」
「どうしたんだ、何かあったのか?」
僕は宥めるように ユキをやさしく撫でてあげた。
…………
「そうか~、それは寂しかったよなぁ。でも、仕方がないことだから……。ユキも ちゃんとできて偉いぞぉ」
つまり、もう親離れの時期が来てしまったのだ。
この時期になると母犬はエサも与えなくなるし、子犬との距離を置くようになってくる。
そうなると、子犬は母親に甘えられず 代わって人間に寄り添うようになっていくのである。
そこで、”ちびちゃん” は どうしているのかというと……。
セーラにくっついて回っているらしい。――それは、もうべったりと。
今は、セーラから『福』という名前をもらって一緒にお城へ渡っているようなのだ。
これはまあ、ユキが取り残された感覚に陥るのは、ある意味仕方がないことだろうな。
この後は 夕食が運ばれて来るまでの間、寂しそうにしていたユキも含めて4匹を盛大にモフリまくってやった。
すると、みんながくっついてきてジャレまくり、久々にもみくちゃにされてしまった。
アハハハハッ! やはり、もふもふ軍団は最高だ――――!
ポテトフライは皮つきでゴロっとしたのが私は好みです。コーラとセットなら最高! 最終奥義の『超お節介』ですが、あれはアンリエッタのファーストキスの効果が大きかったような……。 ようやく、ちびちゃんの名前が決まりました。福ちゃんです! よろしくお願いします。 親離れは親犬の方も寂しいようです。子犬を連れていかれると母犬は探してまわるそうです。
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