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119.洗いっこ

 ここシンゲン温泉の厨房(ちゅうぼう)は前回の反省もふまえてスパンク温泉の2倍の広さを(ほこ)る。


 だから、30人前の魚をさばくのも楽々だ。


 しかし、カツオは足がはやく一気にさばいてしまわないとダメになるので、(やしき)から数名のコックは引っ張ってきているのだがまったく手が足りないのだ。


 そこで、僕やミルキィは 各メイド隊に指示を出しながら手早く魚をさばき調理していった。


 そうして、みんなが囲む大テーブルにはカツオや(たい)などの刺身のほか、カツオのたたきや カツオの竜田揚げ(たつたあげ)などが所せましと並んでいる。


 カゴに盛られたパンやバゲットも旨そうではあるが、僕の目的は大皿に並べられた沢山の塩おむすび。


 そして、鯛のアラを使った(いそ)の香りいっぱいの潮汁(うしおじる)


 おおう、これこれ、これしかないよねぇ。――いただきま~す!






 「ご主人様、すごいニャ! 魚がいっぱいニャン」


 「おう、リンか。どれも旨いぞー、たくさん食べろー」


 「カルロさま、本当に美味しいです。いつもの魚とは違いますね」


 「おお、クロナか。このカツオなんかは釣り堀の生け簀(いけす)には入ってないからなぁ」


 「カルロ兄さま、エマはこの ”カツオのたたき” が気に入りました。さっぱり食べられて、いくらでも入ります」


 「そうか、良かったよ。薬味や下にしいてある玉ねぎを一緒に巻いて食べても旨いぞ。今日たまたま手に入ったからなぁ。いつもは無いんだよ」


 「カルロ様、今日はスラミガ帝国艦隊(かんたい)の撃退、ミルキィから聞きおよびました。大変お世話になりました」


 「アンリエッタか、お疲れ。1300(せき)壊滅(かいめつ)させたぞ。たぶん、もう来ないだろうな」


 「私も一緒に戦いたかったのに、(さび)しかったです!」


 「お、おう、さすがに王女様2人を戦場には連れて行けないだろう。また、次回だな」


 「カルロさま、お魚美味しい(おいしい)の。ユキちゃんも ちびちゃんも可愛いし。でも、ちびちゃん名前がまだなの」


 「セーラは親子そろって(なつ)かれているなぁ。名前か、そろそろいい名前を考えてやらなきゃな。……そうだ、チビの名前セーラが付けてみないか? その方がユキもチビも喜ぶだろう」


 「はい、セーラ考えてみるの!」






 お魚いっぱい昼食会が終わり、少し食休みをとった後みんなで温泉に入った。


 脱衣場(だついじょう)で衣服を脱ぎ、内湯の洗い場にて身体を洗う。


 続いて頭をワシャワシャ洗っていると、


 ――ガラガラガラ、ピシャ。


 ヒタヒタヒタと誰かが脱衣場から洗い場の方に入って来たようだ。


 (うち)のコックか、それともガンツか?


 さほど、気にもせず頭を洗っていると隣の椅子(いす)に誰かが腰掛けてきた。


 ()めていたお湯で頭のシャンプーを流し、チラッと隣を見てみると……!? 背中? 


 そこには女性と分かる、白くほっそりとした奇麗(きれい)な背中が……たぶんアンリエッタだ。


 でも、何でだ。露天風呂には一緒に入ったことはあったが、こんな洗い場で隣に座るなんて事は今までなかったよな。


 「あの~……」


 僕がその背中に話しかけようとしたところで、


 「はいはいはい! そんなに見とれてないで、まずは私からよ」


 えっ、声がしたので正面に目を戻すと、木製の風呂椅子にちょこんと座っているミルキィの背中がそこにあった。


 「なっ、なんだよ! どういうつもりだ?」


 「どうもこうもないわよ。ただ 洗ってもらおうと思って。背中お願いね」


 「お、おう。って、おい!」


 「もう、うるさいわね~。女の子が洗ってくれって来てるんだから、そこは『はい、よろこんでぃ!』と言うところでしょーが。


 「い、いや、しかしだなぁ……」


 「あ~、もう、前はみんなをせっせと洗っていたでしょう。よろこんで」


 「…………」


 「つべこべ言ってると、み~んなお姉ちゃんに言うからね」(小声)


 「アイアイ、マム!」






 ミルキィの言っているのは、前世でやっていた身体の ”洗いっこ” である。


 もちろん、夫婦間でのことであった訳だが……。――(なつ)かしい。


 「それにしても、相変わらず亜人の比率が高いわよねぇ。そんなにケモ耳と尻尾が良いわけぇ~」


 「うっ、う~ん。いろいろ能力なんかを考えていくとだなぁ……」


 「はいはい! っで、ぶっちゃけると~?」


 「可愛いだろ! 猫耳とか尻尾とか。可愛いは正義……だろっ」


 「背中洗い終わりっと!」


 「前もお願い! 立った方がいいかしら」


 「立ったとか言うなし。はいはい、手ぇ出してゴシゴシ」


 「そういえば、ローザン王国って亜人を見かけないよな。何かあんのか? 人族至上主義(しじょうしゅぎ)って感じでもないんだよなぁ」


 「ああ、それね。南部の方にはそれなりに居るわよ。北部の方は……流れるのよ、ザルツ連邦(れんぽう)の方にね。ローザンは人頭税が結構高いのよ」


 「それと、獣人(じゅうじん)は獣人同士の方が気を使わなくていいんだって。ほらっ、匂いとかいろいろとね。あなたの所だけだからね、毎日お風呂に入れるなんて」


 「おお、そうだったのか。ザルツ連邦とは上手く(うまく)やっているようだし、住み分けができているんだな」


 「おしっ、終わり! ピッカピカだ。お疲れ!」


 「ありがとう。次が待っているわよ お姉ちゃんが」


 「お姉ちゃん! 終わったよ。こっちこっち、そうそう背を向けて……はい OK!」


 んん、まぁ、流れ的にはこうなるかな~とは思っていたのだが、どうなんだろ?


 ミルキィは8歳だから、まだ良いとして……。大丈夫なのか? 僕の〇〇〇よ!




カツオは ”足がはやく”とは、腐りやすいという意味です。”鯛のアラ”これは鯛のあたまを含めた、おろした後の骨の部分です。結構おいしい出汁だしがとれるのです。 ”洗いっこ” ……うん、なんか良い! 仲良きことは良いことです。ただ、カルロは自分で洗い終わっているので残念ながら奉仕のみになっております。

(U^ω^)温泉回はつづくお!



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