10. わたしはクロナ(挿絵)
お母さんと暮らしていたのは2年前。クロナ6歳のときです。
わたしはクロナ。 黒猫のクロナ。(クロナは猫人族です)
住んでいた場所は、よく覚えてはないけど王領の西の端。
名もないような小さな村で、お母さんとふたり静かに暮らしていたの。
わたしは、お母さんのお手伝いをして、いつもがんばっていた。
仕事が終わると、わたしの身体と黒シッポを 温かい蒸しタオルで、いつもキレイにしてくれた。
そして、お母さんの作るリンガ(すもも)のパイが大好き!
甘くて、すっぱくて、ふわふわで。
いつも、動けなくなるまで食べちゃうの。
お母さん、死んじゃった。
病気を罹って、あっという間に……。
ポンタもがんばってくれたけどダメだったの。
お母さんは村むこうの丘に埋められた。
わたしは寂しくないように、毎日お花を届けてあげたの。
少し前にくれた、小さなシルバーのリング。
これは大事、わたしの大事なの。
お母さんが最後にくれた大切なもの。
母さんとお別れして3日。
家の戸をたたく、髭もじゃの男の人。
わたしは怖くなって、隣りのナーおばさんのところに飛び込んだ。
ナーおばさんは髭もじゃさんと話していたけど、お母さんに借金が有るとかで、仕方ないんだって……。
わたしは連れて行かれたの。
初めて村から出て、知らないところ。
こわいよー。
こわいけど、わたしには誰もいない。
お母さんにもらったシルバーのリングとポンタだけ。
ポンタは、わたしの身体をやさしく覆ってくれるの。
お陰で、このまま寝ても痛くないし。寒くもない。
ちょっと転んでケガしても、すぐに治してくれた。
だから、長い馬車の旅も耐えられたの。
王都の「奴隷商館ルマンド」という所に引き取られた。
わたしは、奴隷なんだって。
よくわからないけど、頑張るしかないの。
そこでは、わたしにいろいろ教えてくれた。
挨拶の仕方に、ちょっとしたマナー。そして簡単な読み書き。
それから2年、お店のお掃除や店長さんのお使いなどをして過ごした。
そして、あの日。
いつものように、店長さんに頼まれて手紙を届けた帰り道。
――どすん! きゃっ!
「あっ、ごめんなさい」
尻もちをついて見上げた先には、あの方が優しく微笑んでいて、
「ああ、僕の方こそごめんね~。よそ見をしてたから」
と、手まで差し出してきたの。わたしビックリしちゃって、
「だ、だいじょうぶですっ。穢れがうつっちゃう!」
変なこと言っちゃった。なにかとても恥ずかしくて。
そうして急いで商館に帰り。無事に手紙を届けた事を店長さんに報告して、ようやく一息ついた。
さっきの方……、優しかったなぁ。
あんな方が、わたしのご主人様ならいいな~。
と、いつものように握りしめるべく、リングの入った小さな麻袋を
探るが、あれ……ない!
えっ……、ない。ない。どこを探してもない。
頭がまっ白になった。
目からは止めどもなく涙があふれてくる。
ど~しよ。お母さんにもらった唯一の形見……。
う、うぇっ、うぇっ。ぐずっ。涙がとまらない。
その時だ、ここの商館の下男がわたしを呼びにきた。
「店長の御用命だ。急げ! そこに整列しろ」
泣き顔もそのままに、わたしたち8人は応接室に通された。
「顔をあげて、しっかりお客様にお見せするように」
店長さんの声が聞えてくる。
わたしは泣きはらした目元を袖でぬぐい、お客様のほうに顔を向けた。
あれっ、あの方は……。
間違いない。あの方の横にいた白犬さんも一緒だ。
ああ、「レンタル奴隷」を借りにきてるみたい。
もしかしたら、あの方の側に居られるの?
わ、わたしを選んで~。レンタルでもいいの、――おねがい!
手を上げる訳にもいかず。わたしはリングの事も忘れて、あの方の顔を見守った。
えっ、えええええっ。ホントにわたしなの!
か、顔がポッポしてきちゃった。どうしましょう。
手続きも終えて、あの方…… いえ、ご主人様がこちらに来られる。
なにかしらクンクン。漂ってくる香りもいい感じなの。
白犬さんも尻尾をブンブン、歓迎してくれてるみたい。
なんだか嬉しくなってきちゃった。――えへへ。
こんなウキウキした気分。
なんだか、お母さんと一緒に居るみたい。
そのあとお外で、おいしそうな匂いの串焼き肉を食べることになったの。
――んん。なにこれ!
美味しい。こんなの初めて。
はっ! いけない。シロ先輩の串を外して、お世話しなくては……。
そのためのレンタル奴隷なんだから。
そして、連れて来られたのは、それは立派な宿屋だった。
すご~い、ご主人様。
ここはおとぎ話で聞いた「竜宮城」ですか。
あ……違いますね。あちらは海の中なんだし。
部屋に連れて来られたけど、えっと……。
わたしはいったい、何をしたら良いのかなぁ?
そんなわたしに、ご主人様は、
「あそこの椅子をこちらに持ってきて、お座り」
と優しく、促してくれたの。
そして、わたしに近づいてくると、
「さて、クロナ。まずはこれなんだが」
と、麻布でできた小さな巾着を渡してきた。
――ふみゅ、……どうして。ああああああ。
わたしはその麻袋を握りしめ胸にあてると、
「ああ、ありがとうございます。ありがとうございます」
何度もお礼をした。
すごいよご主人様、どうしてー。
それからのことは、あんまり覚えてないけれど。
ポンタのことも知っていて、ビックリしたような記憶はある。
その時から……。いいえ、初めてお会いした時から、わたしはご主人様が大好き。
レンタル奴隷の期間は1年と短いけれど、わたしの全力をもってご主人様にお仕えするの。
――うん。わたし頑張るの!
次回、いよいよ学院です。えっ、学院のなまえ? ……し、知らない子で// えっ! 同じネタを使うな!? うう、考えてないっす。ていうか、いる?
あー、友だち出来るかな~(汗)シロ~~。(∪^ω^)シラナイ!
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