111.シンゲンの湯
今、僕たちは ダンジョン・シンゲン の12階層に居る。そう、あのコッコの居る階層である。
コッコはニワトリに近い鳥のモンスターで自分で産み落とした卵を守っている。
卵を守ってはいるのだがその卵が孵ることはない。すべてが無精卵だからである。
まあ、ダンジョンのモンスターが卵から生まれてくること自体が有りえないので当然なのだが。
それを考えると必死で卵を守っているコッコに憐れみを覚えるところもあるのだが、襲い掛かってくるモンスターに容赦はしない。
そして、このコッコの卵はとても美味しく玉子焼きを始め スイーツ作りにおいても欠かせないものなのだ。
ということで、懸命に戦っているアンリエッタには悪いのだが僕とミルキィはニコニコ顔で編み籠に卵を集めているのである。
「うふふっ、うれしいわぁ。コッコの卵がこんなにいっぱい! これでいろいろ作れるわね」
「そうだよなぁ。自由そうに見えて自由が利かないのが王宮だからな。自分で料理をしたりお菓子を作ったりはそうそう出来ないだろう」
「うん、でもあなたが来てくれたから おお助かりよ! レベルが上がれば北マルゴーのダンジョンにも飛べるし、そうすれば『ダンジョンリビング』も使えるでしょ」
「これで、窮屈な生活からもやっと抜け出せるわね」
「おう、それだが、ミルキィを ダンジョン・イエヤスの管理者にしておこうか? 許可さえもらえれば僕もシロも自由に来れるし、管理者になっていて損はないと思うぞ」
「そうね、元々そのつもりだったし、今はあなたも居ることだしね。リビングの創造も一度やってみたかったのよね」
「そっか、了解。直ぐ切り替えとくよ。こっからでも出来るから」
「ただ、取説のダウンロードだけは気をつけるんだぞ。少しづつだからな、すこしづつ」
「うん、ありがとう。持つべきものはあなたとシロよねぇ。わたしもあなたの所に嫁ごうかしら」
「おい、よせやい!」
「フフフッ! そう、まんざらでもないって顔してるわよ」
そうして、午後の探索を終えた僕たちは ”シンゲンの湯” に来て露天風呂を楽しんでいる。
「はぁ~~~。やっぱり温泉はいいですわぁ。そして眺めも良いし広々していて最高ですわ」
「そうか、喜んでもらえて嬉しいよ。作った甲斐があるってもんだ」
「それにしても、あの子たちが見当たりませんねぇ?」
「ああ、あいつらはアソコだ!」
過去最大級と言っていい程のウォータースライダーを僕は指差した。
「ああ、これはあちらのズパンクにも有りましたよね。こちらの方が大きく見えるのですが……」
「うん、デカいよ。明らかに。シロが勝手に魔改造しているみたいだし乗る時には気をつけてね」
「なるほどですね。気をつけます」
「ねぇねぇ、あのシャビシャビしたミルクセーキをお願い。お姉ちゃんのもね」
「お、おう。しかし、おまえら姉妹揃って開けっぴろげだよなぁ」
そう、相変わらずアンリエッタはプルンプルンのボディを惜しげもなく晒して、少し離れた所で柔軟体操を始めていた。
ピッチャーからグラスにミルクセーキを注ぎながらアンリエッタを見ていたのだが……。
おわっつ、おおい。それはダメだろ!
裸ブリッジである。――頭は向う。
「ちょ、ちょっとー、何こぼしているのよ!」
「あっ、ああ、すまんすまん。ちょっと考え事だ」
あ゛――もう、あんなもの見せられたら今夜眠れなくなるだろーが!
そして、その日の夜……。カルロは人知れずコッソリ王城を抜け出して邸に戻っていくのであった。
それからも3人でのダンジョン探索は毎日続けている。
それと共に、各ダンジョンの位置や仕様などを王宮に報告し、『釣り堀』や『温泉施設』の引継ぎなども行っていった。
そこから更に10日が過ぎ、ようやく ダンジョン・シンゲン の確認が取れたとの連絡が入ってきた。
これでようやく、ローザン王国を離れカルロ邸に戻ることが出来るな。
出発の朝は王都の北門まで馬車で送ってもらった。
「それじゃあ、いろいろ世話になったな。ありがとう」
「ああ、カルロさま。また行ってしまわれるのですね。寂しくなります」
「アンリエッタもよく頑張ったな、今度は本格的に魔纏をやるからな」
「はい! よろしくご教示ください。師匠」
「ミルキィもありがとうな。久しぶりで嬉しかったよ」
「そうね、わたしもまさかの出来事だったわ。あなたに会えたお陰でいろいろ助かっちゃった。そのうち遊びに行くわね」
「おう、いつでも大歓迎だが 先に連絡してから来いよ」
「うん、分かったわ。あっ、……後ろ向いててあげるから早くしなさい!」
「おう、わりーな」
と、断りをいれ僕はアンリエッタと別れの口づけを交わした。
そして2人を中に残し、僕はシロとピーチャンを連れ馬車を降りていった。
カルロ邸に到着すると、『お帰りなさい』というかのようにヤカンとユキが近寄ってきて、僕の足に体を擦り付けながらグルグル回っている。
僕はその場で腰を落とし、1匹づつ丁寧にモフってあげていた。
そうやってしゃがんでいる僕の背中に、
――ひしっ!
おそらくクロナである。
背中に柔らかいものがあたっている。
「ただいま、クロナ」
「はい、お帰りなさいです」
こうして、僕は我が家に帰ってきたことを実感するのであった。
アンリエッタは今まで、危険の少ない10階層以下でコツコツやって来ていたようです。考えてみると、5階層おきでも転移門は有難いですよね。整ってないダンジョンでレベルを上げていくことは さぞ、大変だったでしょう。マイホームに帰ってきたカルロですが、そろそろ学園組が夏休みなのでは?
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