109.ミルキィ
ここ王都マルゴーにある王城に入って2日目。朝食を終えた僕は厨房の一角を借りてせっせと作業を進めていた。
昨日のうちに部屋付きのメイドさんにお願いして、賄い厨房を借りられるようにお願いしておいたのだ。
自前の器材と ダンジョン・サラ 特製のホットケーキミックスを利用してドーナツを大量に生産していく。
小麦粉やドライイーストも持ってはいるが調合するのがめんどくさい。生地を休ませ発酵を待つのもめんどくさい。
それが サラ特製のホットケーキミックスならミルクを加えるだけなのだ。
後は仕上げ用の湯せんした『溶かしバター』と『グラニュー糖』を用意するのみ。忙しい時はコレだよね。
生地を作って揚げてと忙しくやっていると、休憩していたコックやメイドさん達が集まり出した。――匂いに反応したのかな。
そして、手伝ってくれる者まで現れて大量生産に拍車が掛かってしまった。
最終的には300個ものシュガードーナツを作るに至った。
そして、粗熱がとれたものから10個単位でケーキボックスに詰めてインベントリーへ保管していく。もちろん手伝ってくれた者には報酬を忘れない。
それぞれにシュガードーナツを2個づつ手渡していくと、みんな喜んで食べてくれた。
その後、昼食を済ませしばらくしてからメイドさんに配ってもらえるようにお願いした。
そうして、ドーナツを配り終わったのだが今日は誰からもお誘いもなければ 呼び出しもない。
晴れていれば庭園の散策でもしたいところであるが、今日ははあいにくの雨模様。
部屋に居るのも飽きてきたので、2階のテラスへ出てきた。
雨の当たらない手前の席に腰を下ろしお茶をお願いした。
お付きのメイドさんがサービスワゴンを前にお茶の準備を進めていると、お座りしていたシロが立ち上がり尻尾を振りだした。
ん、何に反応しているんだ?
僕が振り返ると、例のデカ猫である『チャト』とその後ろには薄いピンクのドレスを着た少女が此方に向かって来ていた。
ええっと、第2王女の『ミルキィ』ちゃん。……だったかな。
このテラスにお茶をしにきたのかな?
すると、チャトがシロに気づいたのだろう速足で近づいてきた。
「えっ、ええー、何でシロがここにいるの~?」
と、言ったのはチャト……ではなくミルキィちゃんの方だった。
んん! 何ですと――――!?
いや、ちょっとまって。すごくドキドキしてきた!
……と、いうことなのか? そうなのか。
僕はある物を取り出した。――ほ~れほれ。
「ああ――――!『雪見だいふく』なんで、なんで?」
「……」
「……」
「久しぶりだな。って言っていいものか?」
「ははっ、なになに。あなた またイケメンになってるじゃない!」
「そう言うお前こそ、また王女かよ!」
「そうよ、悪い!?」
「お、おう、まあ なんだ、座ったらどうだ」
「そうね……」
「ちょっと! 私にもお茶を入れてちょうだい」
「は、はい。ただいま!」
「それでそれで、何でここに居るの?」
「うん、それはだなぁ。…………」
あまり時間も取れないので、最近の概略だけを掻い摘んでミルキィに説明していった。
「ふーん、あんたもいろいろ大変そうね。お姉ちゃんの相手があんたなのね。良いお姉ちゃんなんだから大事にしてあげてよねぇ」
「もちろんだよ、まかせとけって。そっちはどうなんだ。不自由していないか?」
「何言ってるのよぉ、不自由してるに決まっているでしょ。まずレベルを上げないと何も出来ないわね。転移一つするにしてもMPが全然足りないのよ」
「まだ、しばらく居るのよね。夜でいいからシロを貸しなさい。何かしら付けないとレベルアップが遅くて遅くて」
「お前も大変なんだな。要る物あったら何でも言え」
「えっ、ほんとに! じゃあねぇ、魔力の指輪と知力のバングル、魔法発動体のバトンでしょう、変身サングラスにワイバーンのローブ、それとブーツも欲しいわね。それから、お金ね! 銀貨も混ぜるのよ。それから…………」
「ストップ スト―ップ! 紙だ、紙に書いてくれ。できたら身体と足のサイズもだ。今夜シロを向かわせるから、その時に渡してやってくれ」
「まあ、そうよね。ここはメイドも見ているし いろいろ拙いわね。分かったわ そうする」
その後はお互いの近況を話すなどして、本日の茶会はお開きになった。
そして、その夜。僕はシロと共にミルキィの部屋を訪ねると、一緒に教会へ行き、そしてダンジョンに潜った。
するとミルキィはしっかりと女神さまの加護を授かっており、レベルも1つ上がっていた。
今は無事探索を終え、汗を流すために ダンジョン・シンゲン に作った温泉施設に連れてきている。
こちらの方は天気は良いようで、双月が爛々と輝いている。
この夜更けに篝火を焚いて入る露天風呂も なかなか風情があって良いものである。
このように月を見ながら温泉に浸かっていると、アンリエッタと行っていた夜の特訓が思い出される。
もう4年になるのかぁ。今度、アンリエッタとミルキィ両姉妹と一緒にダンジョンへ潜るのも楽しいかもしれないなぁ。
今回はスイーツの原点に立ち返り、シュガードーナツを作ってみました。デカ猫のチャトは気まぐれではなかったようです。ミルキィに召喚されたのですね。そして、ミルキィは7歳なのですがカルロと「ため口」なのは仕方ないのです……。アンリエッタには早めに説明しておいた方が良いでしょうね。
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