9. クロナとポンタ
僕はリングが入った巾着をクロナに手渡した……。
「ああ、ありがとうございます。ありがとうございます」
と、握りしめた両手を胸にあて、何度も何度もお礼を口にしている。
「そんなに大事な物だったんだね。返すことができて本当に良かったよ」
クロナはこぼれる涙を指でおさえつつ、うんうんと頷いている。
しばらく落ち着くのを待ってから、次の質問をすることにした。
「クロナには従魔がいるよね?」
この質問にクロナはビクッと肩をはねさせ、しょんぼり俯いてしまった。
ピンと立っていた猫耳も、今はしおしおに倒れている。
「大丈夫だよ~。僕には何も隠さなくていいんだからねぇ」
僕は立ち上がって、俯いたままのクロナの頭をやさしく撫でてあげた。
「ホントですか? 退治しろとか、捨ててこいとか言いませんか?」
「そんなこと言わないよ。僕を信じてくれると嬉しいなぁ」
「だって、お母さんが人に見せちゃいけない。隠すんだって、それで、それで私……」
また、シクシクやりはじめた。
泣きむしなのかなぁ。
辛い目にあってきたのだろう。
「うんうん、よしよし。大丈夫だから。一度ポンタを見せてよ」
すると、クロナは泣きはらした顔を僕に向け立ち上がると。
照れくさそうに笑いながら右手を前に突き出し、
「ポンタ!」 と、声を張った。
それと同時にクロナの着ていた服が、少しうごめいた。
そしてスカートの下から、透き通ったブルーの液体が床に滴り落ちている。
その液体は一ヶ所に集まると、どんどん形を成していった。
そして出来あがった姿は……、
直径40cmほどの……鏡餅?
ただし色は、晴天どきの空を思わせる、透き通ったスカイブルーだ。
今は嬉しいのか、床の上をコミカルにポンポン跳ねているのだ。
とりあえずは、鑑定!
ポンタ(聖獣)Lv.21
年齢 ー
【契約者】 クロナ
HP 132/132
MP 220/224
筋力 45
防御 80
魔防 128
敏捷 40
器用 76
知力 115
【特殊スキル】 擬態 状態異常無効 重力魔法(U)
【スキル】 鑑定 (4) 魔法適性(全) 魔力操作(7)
【魔法】 水魔法 (6) 氷魔法 (5) 聖魔法 (3)
回復魔法(4) 結界魔法(4)
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
ポンタは聖獣なのか……。
レベルも高いし、スキルや魔法もなかなか多彩だな。
おもしろそうな特殊スキルも持っているし。
しかも女神さまの加護まで与えられているのか。
クロナのレベルが上がってないところを見ると、従魔になって間もないということかな。
いや、単に魔獣と戦っていないのかも……。
あのシルバーリングも含めて、親から譲り受けたのだろうか?
すると、クロナはその場にスクっと立ち上がったまま姿勢を正し、お腹のまえで手を重ね、
「あ、あの~。ご主人様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
と尋ねてきた。
「ああ、そうねー。……カルロと名前で呼んでくれ」
「かしこまりました。カルロ様、これからよろしくお願いいたします」
と、しっかり腰を折って挨拶してきた。
先程の子供っぽいところを見ているだけに、一生懸命やっている姿が微笑ましい。
僕はシロに頼んで、
クロナに合いそうな ”メイドワンピース” を何着か、ベッドの上に広げてもらった。
それをクロナの肩に合わせながら選んでいく。
その服に応じて、白エプロン、インナースカート、ロングソックス、黒のメイドシューズなどを合わせていく。
最終的な微調整や尻尾のためのホール付けなどは、シロの指示により ダンジョン・ディレク がスピーディーに仕上げてくれた。
それでようやく、明るめなエンジ色のメイド服を身に纏った、
猫耳メイド・クロナが誕生したのである。
そうして一段落つき、宿の使用人にお茶を頼んでいたところに、エレノア母様が帰ってきた。
「ただいまー、カルロ。もう、帰ってたのねー」
「はい。おかえりなさい、お母様。今、ちょうどお茶を頼もうかと……」
「まあ、そうなのね。それでは私のもお願いね」
「えっと、お父様は一緒ではなかったのですか?」
「ええ、あの人はこれから商業ギルドに向かうとかで、途中で別れてきたの。夕飯には間に合うように戻ってくるはずよ」
そしてお母様は、僕の後ろでかしこまりながら、立っているクロナを見つけて、
「あらー、カルロ。後ろにいらっしゃる可愛いメイドは、どちらの家の方かしら。紹介してちょうだい」
「はい、お母様。こっちはクロナ。僕が学園に入るにあたり、身の回りの世話をお願いするつもりです」
「まあ、まあ、そうなのね。あとはお茶が来てから、ゆっくり話をしましょう」
そうしてエレノア母様と僕は、部屋のリビングスペースのソファーに腰掛け。
クロナをレンタルしてきた経緯などを、お茶を頂きながら詳しく説明していった。
「まあ、そうなの。料金はシロちゃんが? 本来なら家で準備してあげないといけないのに、そんなに甘えていいのかしら」
その言葉にシロはお座りをしたまま、コクコクと頷いている。――可愛い。
「本当に、シロちゃんは賢くてえらいのね~」
エレノア母様はシロに ”おいでおいで” と手招きをしている。
そして、近くに寄って来たシロを優しく撫でているのであった。
そしてお父様が居ない、今の内に。
「これには、少ないのですが金貨が50枚入っています」
僕は懐から革の巾着を取り出すと、それをエレノア母様に差し出した。(かなりの重量です)
「せっかく王都に来たのです。少しぐらいの贅沢と、家で待っている皆にお土産を渡してあげてください」
はじめは、頑なに拒んでいたエレノア母様だったが、説得の甲斐あって、
「そうね。それなら、これは預かっておきます」
はぁ、良かった。なんとか預かってくれたかぁ。
いくら僕とシロの関係を話ていたとしても、まだまだ10歳の息子なのだ。
そのうち、こういう事も慣れてくれるといいのだが……。
ポンタってなによ。夏目の友人の田沼がにゃんこ先生のこと、そう呼んでたなー。聖獣だけに強いのかな~。いつもはクロナに張り付いてるのねー。……はーい! そこ! ハァハァしない、パンツ上げる! まったく温泉までまってなさい。
(*´Д`)ハァハァ
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