103.裏メニュー
此度もスラミガ帝国の軍船を軽くあしらい、残り3割になったヤツらが撤退していくのを上空から確認していた。
「さて、嫌いな虫虫も退治したし、せっかくだからここの港町に寄っていこう。ピーチャン、あっちの街道に下りよう」
僕たちは直接港町に下りるのは止め、回り込んでから街道脇へ降り立った。
掛けていた光学迷彩を解くと素知らぬ顔をして街道に出る。
そのまま港町に向かってゆっくり歩いていった。
すると、港町の入口で門番をしていた熊人族の男から声を掛けられた。
「おーう、お前たちどこから来たんだ?」
「はい、僕は冒険者でザルツの町から依頼を受けてバランの町へ向かう途中ですね」
「お、おう、そうか冒険者だったか。冒険者証を見せてくれ」
すると、僕の冒険者証を見た門番は少し驚いた様子で、
「ほ~う、兄ちゃん若いのに凄いんだなぁ。……でも、しばらく船は出せないと思うぞ。例の海軍が港に張りついていてな……」
「そうですか……、今日はここに泊って、また明日にでも考えてみます」
「済まないが、そうしてくれ。港から船が出せねぇのは恥ずかしい限りだがな」
高さ2m程の石垣に囲まれた港町『ルダン』に入った。
おお、潮の香りだ! 同じ港町なのにバランとは また違った雰囲気だよな。
まあ、あちらは町と港が区画でキッチリ別れているからな。
いろいろ、期待しながら宿屋に入ったのだが……魚が無いだと?
あ――、ぬかったぁー!
船が出せないのだから、漁にも出れないはなぁ。
まあ、肉はあるらしいのでそれで我慢することにした。
ああ、僕の魚、僕の魚は何処~。……そのうち、良いこともあるだろ。
僕は夕食を終えた後、シロとピーチャンを部屋に残し宿屋の向いある飲み屋でひとりワインを飲んでいた。
『美人の女将や可愛い給仕の女の子でも居ないかな~』と期待を胸に飲み屋のドアを開いたのだが、中を覗けばおっさんが2人でグダグダ喋りながら飲んでいるだけであった。
一気にテンションだだ下がりの僕だが、入った以上は1杯ぐらいはと しぶしぶカウンターに座りワインを注文したのだ。
こんなに酒が進まないのも久しぶりである。ワインもジョッキで出てくるのでなかなか減らない。
ようやく、ジョッキ1杯を飲み干したので酒代置いて帰ろうとポケットに手を突っ込んでいると、
「もうひとつ如何でしょうか?」
今の今まで一言も喋らなかったカウンター内にいるマスターが、さっきと違うメニューを見せて声を掛けてきた。
「あ、いや、もう……」
と、断ろうとする僕にマスターは持っていたメニューを開き手渡してくる。
その自然と流れるような所作に メニューをついつい受け取ってしまっていた。
そうして、中のメニューに目を落とすと……。
僕はカウンター前に立つマスターに目を向けた。
髪の毛に幾分白いものが混じる初老の狼人族。店を何年やっているのかは分からないが なかなか様になっている。
「皆さまには喜んで頂いております」
なるほど、『裏メニュー』というヤツか。
僕は後を振りかえり店内を見回したのだが もう誰も居なかった。先程までいたグダグダ男も帰ってしまったようだ。
カウンターに向き直った僕はもう一度裏メニューに目を通した。
当店おすすめ、『パラダイス・メニュー』(時期により変更いたします)
・にゃんにゃん・パラダイス 2000- 確変中!
・ウォンウォン・パラダイス 2000-
・わんわん・パラダイス 2500- 確変中!
・ノンノン・パラダイス 2500-
・もふもふ・パラダイス 3000-
・サムサム・パラダイス -時価- がんばります!
※テイクアウトは受け付けておりません。
そう、久々の『真実』はこんな所に存在していたのだ。
マスターにいろいろ話を聞きながら慎重に自分に合うパラダイスを選ぶことが出来たと思う。
え、何を選んだか? それはもちろん…………ひみつだ!
翌日、スッキリ爽やかに起きれた僕は朝食を済ませると直ぐに町を出た。
街道からピーチャンの背に乗ってザルツ島の沿岸を回っていく。もちろん、スラミガ帝国の軍船が完全に引き上げたのかどうかを確認する為である。
ルダンの港から沿岸をぐるりと回り、昨日通った『カスイの港』まで確認してきたが今回は完全に撤退してくれているようだ。
これで諦めてくれるといいのだが、こればかりは分からないからなぁ。
まあ、いつ来られてもいいように準備だけはしておくとするか。
そのまま海上を東に進むと すぐにダンジョンの地脈にぶつかった。
よし、ダンジョン・ムラカミ (海中) と ダンジョン・ケンシン (ザルツ島) の地脈ラインが完成したようだな。
これによりザルツ島の南の海域は状況の把握がしやすくなった。場合によっては海上封鎖も可能である。
そうして、地脈内にいた僕たちはそのままダンジョン転移によりバランの町付近に帰ってきたのであった。
今回も虫虫は消毒してあげました。そして、港町なのに魚がない! ここにカルロ邸のリンが居たらおお暴れしていたことでしょう。裏メニューは凄い……のか? 味わったことが無いので分かりません。しかし、確変中! この意味は知っています。『連チャン可能!』ですよねー。そして、『サムサム』? マスターがボルト・ポーズとってましたわwww えっ!
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