96. 偵察任務
温泉施設にて国王様とセーラに出会った翌日、王宮より呼び出しがかかった。
アースレット様の話によれば、先ごろスラミガ帝国によるザルツ島の攻略が開始されたとのことだ。
それに対抗すべくザルツ連邦はローザン王国と手を組み必死に応戦しているという。
しかしながら、海戦を重ねる度に被害がどんどん拡大しており、とても厳しい状況にあるようだ。
このままでは、ザルツ島はスラミガ海軍に包囲され落とされるのも時間の問題であるという。
今、こちらに届いている情報は10日前のものであり、ザルツ島はすでに敵の手に落ちている可能性もあるらしいのだ。
そうなってくると、敵であるスラミガ帝国の次なる目標はローザン王国の軍港がある『バラン』が有力であるという。
たしかに、うるさいハエは早めに叩いておきたいだろうし、ローザン王国を攻める足掛かりにもなるだろう。
地図を見ても分かると思うが、ザルツ島が敵の手に落ちるとバランの町は丸裸同然となってしまう。
それに、もし海軍の拠点でもあるバランが落ちようものなら、ローザン王国は一気に傾いてしまうだろう。
その観点からもローザン王国は『ザルツ島』を死守しなければならないのである。
そして今回、ザルツ連邦とローザン王国の両方からクルーガー王国へ救援要請が出されているという。
しかしながら、海での戦いがメインになると貧弱な海軍しか持たない我が国ではこの救援要請にどう対処すべきか悩んでいるという。
アースレット王太子との会談を終えた後、僕はローザン王国へ旅立つこととなった。
期間は40日。旅の目的は先程の話にあがっていた『バランの町』の偵察任務である。
更に余裕があれば『東の海』の状態や『スラミガ帝国海軍』の調査もお願いしたいということだ。
まあ、余裕があればとか言ってはいるが、おそらくこちらがメインだよな。
それに、この依頼は冒険者ギルドからの「指名依頼」として扱うことになっている。
これは当然だな。
こちらは他所の国の貴族になるのだ。普通は許可をもらってから滞在するものだし監視も付くだろうからな。
さて、今回の旅においては偵察がメインになるため少数で行くことにした。
メンバーは僕、シロ、ピーチャン以上である!
ヤカンとユキには邸の事と、朝のダンジョン探索の引率をお願いしている。
周りからはブーブー聞こえてきたがすべて無視。
その中でもクロナが最後の最後まで粘っていた。
クロナは学生だ、せっかく3年生までなっているのに この時期に学園を休ませるわけにはいかない。
根気強く説得をおこなってようやく納得してもらえた。――やれやれ。
「それでは行ってくる。セバス 後の事は任せる、何かあったらヤカンかユキに言ってくれればすぐ戻るから」
「はい、承知いたしましたカルロ様。道中お気をつけて」
「カルロ兄さま、いってらっしゃい」
「ご主人様、邸のネズミはリンに任せるニャ。にゃからお土産は魚がいいニャー、海のお魚いっぱい食べたいニャン」
「カルロ様いってらっしゃいませ。邸内のことは万事抜かりなく……」
そう言うと、メイド長のマイヤーさんはリンの首根っこをつかんでズルズル引きずって行ってしまった。
あ~ぁ、”お仕置き” だよな、あれは。
などと考えながらぼんやり廊下の方を見ていると、
「カルロさま!」
ん、クロナか? 振り向いた瞬間、頬を両手ではさまれ、
むちゅ――――ぅ!
「……ケガなんかしたら絶対許しませんからね。早くお帰りください」
僕たちはダンジョン・サラから東へ10キロ地点に転移を行ない、そのまま空を飛んで東のローザン王国を目指した。
東の国境から続く丘陵地帯を抜け、およそ一刻半(3時間)でローザン王国へ入った。
馬車なら5日、シロが駆け抜けたとしても1日はかかる道のりをたった一刻半だよ。
ピーチャン凄すぎ!
しかも、シロが乗っているお陰で魔力切れを気にしなくてもいいのだ。
本当に、このコンビは最強だな。
それから一刻ほど先に進んで、街道から少し離れた場所で野営することにした。
野営するのは久しぶりである。この身体になってからは初めてではないだろうか。
シロにお願いしてダンジョンへ入っても良かったのだが、明日も飛んで移動するため魔力の節約をする必要があるので断念した。
また、街道沿いの宿場町に泊ることも考えはしたが、今回は偵察任務の旅になるので途中で人に会うことは避けるほうがいいだろう。
まあ、野営に必要な道具も揃っているし、水や食料も豊富に持っているので特に困ることもない。
シロにインベントリーから薪を出してもらい火を点ける。竈を組むのは面倒なので小さいテーブルとカセットコンロを出しておいた。
そして更に、このまえ手にいれた炎竜の肉を解体して持っているのだ。
なので、今日はシロと久しぶりに ”ドラゴンステーキ” を堪能してやったわw ――大満足。
そうして夜が更けていくなか、焚火で身体を温めながらウイスキーのお湯割りをチビチビとすする。
温かなマグカップを両手で持ったまま澄みきった夜空を見上げてみれば、大小ふたつの月がやさしく輝いているのであった。
いよいよスラミガ帝国が動きだしました。周辺地図は島の名前や町の名前を追記していますので参考にしてみてください。救援要請では海からの援護は不可能に近いですので、陸からローザン王国のバランへ援護部隊の編成を考えているようです。 しかし、カルロが向かってますからねぇ……。
(U^ω^)ドラゴンステーキ美味しいお!
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