どこ行くの?
デートという名のホワイトデーのお返し日、当日。
遊園地まで行くバスが出ているバスターミナルで待ち合わせる。
いい天気だなあ。
オレがガードレールに腰かけて待っていると
「清水さ~ん・・・おはようございます・・・」
とテンションの低い森さんの声がして顔を上げる。
「・・・森さん、どこ行くの?」
森さんは右手に小さめのキャリーバックを引き、左手に多分お弁当だろうな、という風呂敷を持っていた。
お弁当・・・三段くらいある?
オレが言葉をなくしていると、森さんが涙目で
「両親が張り切って・・・これ、なんですか~???」
と逆に聞いてきて、笑った。
「笑いごとじゃないです!!!」
とむくれる森さんから風呂敷を預かる。
「こんな荷物でバスに乗ってきたの?」
と問えば、「母が反省して車で送ってくれました・・・」と振りかえる。
ちょっと離れたところで車の前で立っていた細身の女の人がお辞儀をしてくれる。
「しかも、母が直接、清水さんにお礼をいいたいといってます。全然無視してもらって構いません!!!」
怒りモードの森さんをなだめて、お母さんの所に挨拶に行く。
「えっと、清水です。いつも娘さんにはよくしてもらって・・・」
と緊張しつつ挨拶すると、森さんによく似たお母さんがいきなり頭を下げた。
「清水さん、娘のわがままに付き合ってくださって、本当にありがとうございます!」
???
「うちの娘、本当にこういうことに不慣れで・・・。今日のことだってデートだっていうから旦那と色めき立ってたら、太田さんも誘ったけどよく考えてって断られたなんていって・・・」
とため息をつく。
「そんなこんなで、ご迷惑をおかけすると思うんです。・・・というか、テンションのあがった私と旦那のせいで・・・あの荷物に・・・」
と両手で顔を覆ってしまう。森さんのお母さんらしいなあと思わず口角があがる。
「お弁当も食べきれないと思うんですけど、どうか無理せず、残してくださいね」
といって車に乗り込んだ。
「あの・・・今日は娘さんをお借りします。無事にお返ししますので・・・」
というと森さんのお母さんは森さんによく似た笑顔を残して車を出した。
森さんのところに戻ると森さんはぶーたれたままだった。
弁当をもっていない右手で顔を挟み、さらにぶーたれた顔にする。
「なにふるんでふか!!!」
「せっかくのデートなんだから、これも楽しもう。・・・っっていうか、ご両親、面白すぎるんだけど」
と腹から笑うと森さんはもつられて笑いだした。
バスの一番後ろに座る。
春休みだからか以外にバスは混んでいた。
森さんが中学のときからあこがれていた、といっていた言葉通り、初めてのデートかな?と思わせる初々しい中学生カップルや小学生のグループが多かった。
オレ・・・場違いなんじゃないか?
マスコット・太田の投入を検討していると森さんが「さっきはすみませんでした」と頭を下げた。
「今日はサンドイッチにして、いつか使いたいって思ってたバスケットに入れていこうって私なりに考えてたのに、清水さんは体格がいいって話だからお米の方がいいよって父がおにぎり握るって宣言して・・・。じゃあ、おかずはから揚げね!卵焼きも作らないと!!って今度は母がノリノリに・・・。今回ほどうちの両親にあきれたことはありません・・・」
森さんがお母さんと同じように両手で顔を覆った。
「お母さん、いくつ?すごい若いよね。反応がうちの親と違いすぎる」
と聞くと
「43です。両親は高校の同級生で、高校の卒業式から付き合い始めて22歳で結婚したので、私が恋愛にうといことをすごく心配してるんです。ちょっとでも男の子の名前が出ると『どんな子?どんな子??』って探りがすごくて・・・。あれ、それで私、恋愛がめんどくさくなったのかも」
という。
「まあ、今日、オレと練習して、慣れていけばいいんじゃない」
と森さんの頭をポンとたたくと中学生カップルの男がマネして女の子の頭をポンとたたいた。
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