イベントづくし
年末年始に帰ろうかと思ったけど、店長から「清水くんには悪いけど、稼ぎ時だから許して~」と頭を下げられ、バイトを優先することにした。
残念だったけど、そんな気持ちを吹き飛ばすくらいイベントづくしだった。
1月4日には太田と森さんと近くの神社にお参りに行った。
何の出店もなく、それでも臨時のテントでお守りやおみくじがあって、三人でおみくじをひいた。
オレは小吉、森さんは吉。太田は・・・凶で打ちのめされていた。
そのまま混んでるファミレスでお昼をごちそうしたら、一番高いメニューを選んだうえ、
「お肉、最高~!!!」
とケロッとしていた。
はめられた?
オレと森さんは目を見合わせ苦笑した。
成人式には森さんが式典に行く前にオレと太田に着物姿を見せてくれた。
すっごいきれいで、大人びて見えた。
太田は「神々しいものを見た・・・」と拝んでいた。
森さんに惚れてんのかな、と思って聞いたら
「森さんはそういう対象じゃないんです!もっと神に近いんです!!!」
といっていて、マジ怖かった。
バレンタインには森さんから手作りのチョコレートをもらった。
でも、友チョコ?とかいうくくりらしく、明らかな義理チョコだった。
太田はチョコをもって小躍りしていた。
家族以外からチョコをもらうのは初めてだと熱く語っていた。
オレもこんなイベント久しぶりで嬉しかった。
「ありがとう」とお礼をいうと森さんは「いつもは女の子用だけど、今年は大人の清水さんもいるし、ビターも作ってみました」と嬉しそうに笑った。
季節が2月から3月に移るころから、森さんの様子が変になった。
物思いにふける、って感じ。
オレを見て、パッと下を向いたり、そうかと思えばジッと見てきたりする。
男でもできたのかな、と思い、「森さん、告白されたの?」と問えば、「違います!!!」と顔を赤くする。
なんだかよくわからないが、妹が離れていく寂しさみたいなものを感じていた。
ホワイトデーのお返し、どうしようかな、さすがにクリスマス会と同じようにバイト先で調達するのはやめようかな、でも、店に行くのも気恥ずかしいな、などと考えていたころ、森さんに、以前話をした公園に呼び出された。
何ごとかと身構えると
「実は、バレンタインの後から、私、変なんです」
という。
「太田さんにあげた時と、清水さんにあげた時でドキドキが全然違ったし、太田さんにありがとうっていわれたときと、清水さんにありがとうっていわれたときでドキドキが違ったんです!
これって、清水さんのことが好きなんでしょうか」
と顔を赤くしながら聞いてきた。
「うーん・・・。まあ、太田はメガネ豚だから、そもそも人間というよりマスコットに近いし、オレがただ人間として認識されただけなんじゃないの?
森さん、いつも家族と女の子の友達にしかチョコレートあげない、っていってたし、家族以外の人に渡してドキドキしただけだよ」
といえば、ちょっと考えて「そうなんでしょうか」とうつむいている。
「森さん、好きになった人とかいないの?」
「今までそんな人いませんでした」
「じゃあ余計気安く好きなんていっちゃだめだよ」
と森さんの頭をポンとたたけば、上目遣いに涙目で見つめられた。
オレは心臓が跳ね上がった。
動揺を隠すように「そんな顔、見せちゃだめだよ」というと森さんはきょとんとした顔になった。
それからはいつもの森さんだった。
オレはこの心地よい関係を崩したくなくて、正直ほっとしていた。
森さんに「ホワイトデーのお返し、何がいい?」と考えることを放棄したオレが聞くと森さんはキラキラした笑顔で
「じゃあ、遊園地に一緒にいってください!」
といった。
近くの小さな遊園地でデートするのが中学生のときからのあこがれだったらしい。
この前のことがあったから
「え・・・。オレなんかとその遊園地に行っていいの?」
と確認すると
「はい!この機会を逃したら、私、デートなんでできそうにないです!!!」
という。そして、
「太田さんもどうですか~?一緒に行きませんか?」
と太田も誘っている。
それっていつもみんなで集まってるのと何が違うんだろう?
女の子はよくわからないな、と思っていると、太田が頭をぶんぶんと左右に振りながら
「森さん、そこはよく考えて!!!」
と諭していた。
「森さんがいいんだったらメガネ豚のマスコットがついてきてもいいよ」
とオレがニヤニヤしながらいうと
「誰が、メガネ豚ですか!!!人間です!!!」
といいながら、「ブヒ―!!!」と怒ってるアピールするあたり、さすがの太田である。
森さんが覚悟したように、「じゃあ、清水さん、二人で、お願いします!!!」と決めたのでオレも森さんもバイトがない平日に遊園地に行くことになった。
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