表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

メリークリスマス

実際の日にちよりずっと早いクリスマス会当日。

駅前の個室の居酒屋にオレたちは集まっていた。


パン!パン!!パン!!!


クラッカーのノルマが一人3個のうえ、リズムよく慣らすというわけのわからないルールに則って、それぞれ三角帽子をかぶったオレたちのクリスマス会が始まった。


「メリークリスマス!!!」


太田がでっかい声で叫んだ。


「声、でかい」


オレが呆れた声を出す。

森さんも耳に手を当てている。


「いやあ~、ひっさしぶりに腹から声出しました!!!楽しい~」


酒も飲んでないのに、このテンション。

オレはこの先が心配になる。


森さんが両手を胸の前でポンとたたくと


「本当はケーキはデザートだと思うんですけど、今日はクリスマス会だから、先にお披露目しちゃいま~す」


といって、机の上にホールのケーキを置く。

どう見ても4-5人前の大きさがあった。


「このケーキ、3人で食うの?」


「お持ち帰りもできますよ~」


「抜かりなしです!」と森さんが100均で準備したらしいお持ち帰り用のケーキ箱を見せる。


「だから、食事もしっかり食べましょう~」


もうすぐ25になるガタイもよく、目つきの悪いオレ、小太りメガネで森さんとたいして身長も変わらない、いい人そうな21歳の太田、細身で清楚な感じの20になった森さん。


でこぼこの三人が楽しそうにしている様子に、店の店員も戸惑った様子で食べ物や飲み物を持ってくる。


「では~、次はプレゼント交換れす~」


お酒を飲んで顔を赤くしている森さんから飲んでいたお酒を取り上げ、ウーロン茶を渡す。


「呂律が回ってない。お酒は撤収」


「お兄ちゃん、ひどい」とむくれる森さんに、さらにたちが悪く、座った目をしている太田が


「お兄ちゃんは、過保護すぎます~」


と絡んでくる。


「はい、お前も撤収。男のお前は水でも飲んどけ」


と水を渡す。


「愛情の差がひどい!!!」と太田は泣いたふりをする。


「お前はわざとらしいんだよ。鼻につく」


と軽く頭を小突くと、「うへへ」と嬉しそうに太田が笑う。


「太田さん、ずるい。清水さんを独り占めしないでください~」


森さんが太田に抗議する。


なんだこれ。

いつからオレ、こんなにこの二人に慕われるようになったんだ?


本当の弟や妹だってこんなに懐いてない。


オレは戸惑いを隠すように「はいはい」と手をたたき、二人の言い争いを止めさせると

「オレからね」

と二人にプレゼントという名のお菓子を渡す。


「よくわからんから、バイト先のお菓子」


というと二人は吹き出した。


「オレからはこれで~す。お気に入りのライトノベルで~す」


と小説を差し出す。


「オレ、二人のこと好きだから、オレの好きな本、読んでほしくて・・・。二人をイメージして別の作品にしたんだ」


とモジモジしていて気持ち悪い。


最後に森さんが


「えっと、気に入ってもらえるといいんですが・・・」


といってオレにはマフラー、太田にはニットの帽子を渡した。


「手作りなんて重いことしませんよ。既製品です」


といいながら「最近は寒いから~」と説明している。


太田は感動のあまり涙目だ。


「女の子の友達からプレゼントもらうの初めて~」


と森さんに抱きつきそうになるのを遮る。


「だから、汚い手で森さんに触るな」


といって、森さんをオレの隣に座らせる。


「なんで清水さんはいいのさあ」


太田がぶーたれる。


「年齢と経験の違いです」


と返せば、太田が机に突っ伏し


「だから、リア充は嫌なんだよ~!!!」


と「わーん」と泣くふりをする。

ぽかりと頭を小突き


「だから、それが鼻につくの」


といえば、森さんが「ほんとに仲良しさんですね」と笑った。


結局、ケーキはほぼ持ち帰りとなった。



「うええ、気持ち悪い」


顔面蒼白の太田に森さんが心配そうに水を渡す。


「テンション高すぎるから、酒に飲まれんだよ」


とたばこをふかしながら花壇に腰を下ろす太田を見下ろす。


「だって・・・楽しかったんだもん。リアルな友達とクリスマス会。楽しんで何が悪いんですか~!!!」


威勢よくいったあとに、「うええ」と下をむく。


「一度、吐いて来いよ」


とオレが吐き捨てると太田も森さんも顔を上げる。


「吐いちまった方が楽になるから。手を突っ込んで吐いて来い」


というと「そんなもんなんですか」と森さんが驚く。


「ただし、トイレを汚したら、自分で始末しろよ。掃除が大変なこと、お前もし知ってるだろ」


とにらむと、ふらふらしながら立ち上がった太田が「頑張るっす!!!」といって店に戻っていった。


森さんがオロオロしている。


「大丈夫だよ。楽しかったってことだろうから。ああやって酒に慣れるのさ」


とオレがいうと


「大人の清水さんもあんなことあったんですか」


と聞いてきた。


「大学生のときは、あんなことばかりだったよ」


とたばこを消しながらいうと、森さんがうらやましそうに


「私は専門学校だからか、そんな機会作れないほど、課題に追われてます・・・」


といった。オレは森さんの頭をポンとたたき、


「今日は?楽しかったんじゃないの」


と聞いた。森さんはハッとしたようにオレを見上げて


「楽しかったです!!!太田さんは心配だけど、こんな機会を作ってくれてありがとうございます!」


と満面の笑みで笑った。


その後、吐いて顔色がよくなった太田と合流し、駅で解散した。

同じアルバイト先ながら、皆利用するバスが違うのだった。


元気になった太田がオレに抱きついてきた。


「清水さん、今日はありがとうございました!!!オレ、これからも清水兄貴についていきます!!!」


オレは必死に引きはがす。


「マジで気持ち悪いから勘弁して。森さん助けて!!!」


森さんはニンマリと笑うとオレたち二人に腕を回した。


「私も、二人についていきます~」


・・・なんでこんなことになったのかと思うが、185㎝のオレの肩くらいに二人の頭がある。


「ああ、もうわかったから!!!」


クリスマス会の招待を受けたときのように二人の頭をポンポンと叩けば、二人が楽しそうに笑った。

読んでくださってありがとうございます。

この後は少し時間をください。今はここまで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ