クリスマス会のお誘い
クリスマスシーズンになった。
店のBGMもうるさいくらいクリスマスソングで気が滅入る。
最近、太田と森さんと過ごす短い時間が居心地よすぎて、こんなイベントに気が滅入るなんて弱ってんなあと思う。
そんなある日、オレが帰ろうとすると太田と森さんが二人でオレの歩みを妨げるように立ちはだかった。
「んあ?どうかしたか?」
二人は顔を見合わせてニヤッと笑うと「ジャーン!!!」と何かを差し出してきた。
『クリスマス会のご招待』と書かれていた。
「清水さんともっと交流しよう!!!ってことで、クリスマス会を開催しま~す!!!
森さんが企画してくれたんですよ~」
太田がすごい楽しそうに叫ぶ。
森さんは照れ笑いをしながら
「以前、清水さんが私たちのこと、兄弟みたいに感じるっていってくれたの、うれしくって。
清水さんの日程を聞いてからなので、日にちは未定ですがどうですか。
・・・太田さんも嬉しそうでしたし」
といった。
太田は顔を赤くしながら「嬉しくなんてありません!!!」とまた叫んだ。
顔がにやける。
照れ隠しに、わざと二人の頭をポンポンと両手で叩きながら「ありがとう」というと、太田と森さんは目を見合わせた後、子どものように笑った。
うちに帰って招待状に目を通す。
クラッカーで始まり、ケーキを食べて、プレゼント交換をやり、きよしこの夜を皆で歌って終わり・・・。
なんだろ、この恥かしい内容・・・。
小学生か!
とつっこむが、昔のことを思い出し、ちょっと懐かしくなる。
今年は思い切って実家に帰ろうか、と思った。
次のアルバイトの日。
森さんだけでなく太田も最近は15分前にやってきて、3人で話をするのが日課になりつつあった。
「クリスマス会、楽しみですね~」
森さんが嬉しそうに笑う。
「オレは、プレゼント交換が楽しみ!!!音楽にあわせてプレゼント回すの、やってみたかったんだ~」
と太田。
オレは冷静に
「この人数で回しても、自分のが来るのがおちだろ」
とつっこむ。
シーンとする空気のなか、森さんが
「でも、2/3の確率で自分以外になるんだし・・・」
とフォローする。
オレは息を吐き出し、「じゃあ、試してみようぜ」と各自、ボールペンをもたせた。
とっさに曲なんて浮かばなかったので、小さいころ弟や妹とやった「ずいずいずっころばし」を口ずさむ。
「ずいずいずっころば~し、ごまみそず~い」
三人で曲にあわせてボールペンをまわしていく。
「井戸のまわりでお茶碗かいたの、だ~あれ!」
曲が終わると同時に手元にあったのは・・・自分のボールペンだった。
太田がまるでマンガのように膝をつき、崩れた。
「なんてこった・・・。まさか、本当になるなんて・・・」
森さんも戸惑った様子で
「どんなにがんばっても、隣の人にしかボールペンが渡せない!!!」
といった。
「そりゃそうだろ。三人じゃ無理だよ」
とあきれた声を出すと、太田が膝を払いながら立ち上がり
「えへへ、膝から崩れるってやつ、マンガだとよくあるから、ちょっとやってみた」
とのんきな声を出し、
「でも、そうっすよね。2/3っていったって、一人は森さんみたいな素直な女の子で、一人はこんな顔つきの悪い清水さんに共通するプレゼント、オレは選べません!!!」
と宣言した。
「じゃあ、ちょっと予算がかかりますが、自分以外の二人にそれぞれ準備するってことにしましょうか」
と森さん。
「・・・オレの顔つきが悪いってとこはスルー?」
とオレが突っ込むと、二人は楽しそうに笑った。
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