お帰り
だんだん日が昇るのが遅くなってきた。
今まで森さんが来る時間には明るかったが、森さんが来ても薄暗くなってきた。
「おはようございます~」
森さんが寒そうに身体を小さくしながら入ってきた。
「お疲れ。・・・来るとき暗くなってきたけど大丈夫?」
「そうなんです。この時期ってこんなに暗いんですね。もっと暗くなるのかと思うとちょっと怖いです」
と森さんが苦笑する。
「自転車にしたら?」
「う―――。考えたんですけど、あの坂道降りてくるのも怖いし、帰りは押して帰るのかと思うと踏み切れなくて・・・」
森さんは住宅街の間を抜けてくるので人通りが少ないのだが、その道は急な坂道なのだった。
森さんは大きくため息をついたあと、思い出したように
「清水さん、私、試験になるので、2週間くらいお休みします。その間、店長さんが入ってくれるそうなのでよろしくお願いします」
といった。
「がんばれよ」
と声をかけると森さんは嬉しそうに笑った。
それからの2週間。森さんより学年が上で、自称「お気楽大学生」の太田と朝から晩まで働いて死にそうな店長で回していた。
朝、森さんがいないというだけでなんか張り合いがなかった。
それでも、死にそうな店長をオレなりに配慮して6:30まで残ることにした。
店長は涙目でオレを見つめ「惚れちゃうよ、清水くん」と気持ち悪いことをいった。
「だから、7時まで残って」という申し入れは丁寧にお断りした。
2週間後、森さんが戻ってきた。
「おはようございます~。ご迷惑をおかけしました」
ぺこりと頭を下げる森さんに、「お帰り」と声をかけている自分に驚いた。
森さんもびっくりしたようだったが「ただいま、です」と笑った。
太田もいつもより早めにやってきた。
森さんの姿を認めると「森さんだ~!!!待ってたよお」とほっとした表情で、オレと同じように「お帰り」といった。
オレと森さんは目をあわせ、笑った。
「もう、清水さんは不機嫌だし、店長は朝から死にそうな顔してるし、オレ、すっごいがんばったんだよ~」
太田が森さんの手をとってぶんぶんと上下に振りながら切々と語っているのを遮る。
「太田、いいから森さんから手を離せ。汚い手で森さんに触るな」
「何いってんですか!!!手くらい洗ってます!!!」
いつかのようにオレたちがギャーギャーいっているのを森さんは嬉しそうに笑ってみていた。
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