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 一先ずの落ち着きを取り戻す場の空気。

 

 跪いたままであったドロプウォートも安堵した表情で剣を鞘に収めると、おもむろに立ち上がり、

「ラミウム様は噂通り、型破りでございますわね」

「あぁ?」

「中世におわす天世の方など、ラミウム様くらいのモノですわぁ」

 鎮まりかけた「怒りの炎」に、燃料を追加投入しかねないドロプウォートの物言いに、


((((((((((((((((((((ッ!!!!!!))))))))))))))))))))


 兵士、騎士たちのみならず、一斉に青ざめる闘技場内。

 生温かい笑みで以ってドロプウォートを見つめる、彼女の天然両親は別として。


 怒りの再発火を恐れ、人々がラミウムの一挙手一投足に息を呑む中、当の本人はいたって気にする素振りも見せずに「クックック」と小気味良さげに笑い出し、


「言ってくれるじゃないかぁい、小娘」


 振り向くと、そこに立っていた金髪碧眼甲冑美少女を上から下まで見回し、

「アンタぁ確か四大んとこの……」

 個人を認識した上で「育ち過ぎの胸」に、あからさまに目を留め、不愉快な顔して、


「ドロプウォートと言ったかぁい?」

「何故、私の胸に言いますの……」


 困惑顔に、「キッシッシッ」と愉快そうに笑い、

「変わり者は「お互い様」だろうさぁね」

「!」

「シッシッシ。アンタの噂は聞いてんよぉ」

「…………」

 初対面とは思えぬ気遣いの無い会話から、未だ涙顔でへたり姿のイケメン少年勇者は、危機を脱した事と相まって、

(へぇ~ドロプウォートさんて「有名人」なんだぁ~)

 呑気に感心しながら彼女の顔を見上げ、

(?!)

 ハッとした。


 見上げたその表情は一見すると平静であったが、先程までとは打って変わって暗さを感じ、その中に陰りさえも感じ、

(どうしてそんなに「切ない顔」をするんだろ……「変わり者」って言われるのが、そんなにイヤなのかなぁ……)

 何かしてあげたい気持ちにさせられたが、ラミウムは彼女の「繊細な心の機微」など気にする素振りも見せず、

「それにねぇ……」

 不敵な笑みを口元に浮かべ、


「事は、何も解決しちゃいないさぁね♪」


 鋭い視線を闘技場のひと隅に向けた。

 そこに居たのは、式典用の煌びやかな鎧を纏う正騎士たちに護られ、七五三の様に「キレイな鎧」を着せてもらっていた「百人の勇者」と「百人の誓約者」、計二百人の少年少女たち。


 当初は「誓約が済んだ者同士」の一体感から、百一番目に勇者召喚された「元イケてない少年」を敵視していたが、今は疑心暗鬼に囚われた表情で互いの顔色を窺い合っていた。

 それもその筈、ラミウムの登場により「元イケてない少年」の身の潔白が証明されと言う事は、既に「勇者」としての誓約まで済んだ「異世界から来た少年少女たち」百人の中に、「まがい物」が混じっている事を意味したから。


 だからと言って自らの手で犯人探しも出来ない、有能な少年少女たちの集まりである筈の「百人の誓約者」たち。

 何故なら「選ばれた」と聞けば耳に聞こえは良いが、その実、国同士の諍いさえ「過去の話」の平和な現在において、かつて魔王軍から中世の人々を護る為に行われていた「勇者百人召喚の儀」は、とうの昔に形骸化。


 今や儀式に名を連ねる「百人の誓約者」は、家柄に箔をつけたい上級貴族の親たちが送り込んだ「お坊ちゃん」と「お嬢様」の集合体。

 生活に何ら不自由もなく、身の回りの世話まで従者たちにしてもらい、良く言えば「品良く」育てられて来た彼ら、彼女らには、社交界で家柄を笠に腹の探り合いは出来ても、自らに降り注ぐ火の粉を、自らのチカラで払いのける気概など、持ち合わせてはいないのである。


 ならばラミウムの様に、百人の勇者を召喚した「九十九人の天世人」も姿を現し、己が勇者の身の証を立てるのが筋であるが、


≪中世に降りかかる災いは、中世の民が乗り越えるべき試練≫


 天世人が定める「この世界」において、如何な問題が起きようともドロプウォートが指摘の通り、中世に天世人が姿を現す事など皆無。

 要するに、


≪チカラは貸し与えてやるが、面倒ごとに巻き込むな≫


 その一点において、ラミウムに召喚された「元イケてない少年」は幸運であったとも言える。


 真なる犯人探しの為、聖騎士たちに囲まれる異世界から来た少年少女たち。

 闘技場内は大きくざわめき、不測の事態に仕切る者さえ不在の中、元イケてない少年は自身の嫌疑が晴れた事を改めて確信し、やっと涙が治まった「鼻水交じりの赤ら顔したへたり姿」でラミウムのローブの裾を掴み、

「ほんとにぃ、本当に怖かったんだよぉラミウムぅ~一時はどうなるかとぉ~~~」

 再び泣き出しそうな声に、

「みっともない声を出してんじゃないさぁね、漢だろぉ?」

 ヤレヤレ顔して見おろしたが、涙と鼻水でグズグズの顔を目の当たりにし、


「(ローブを)お放しぃ! 鼻水が付くだろぉ!」


 素っ気なく振りほどくと、

「そんなぁ~」

 悲し気な顔で見上げ、

「ところでラミウムぅ~」

「今度はぁなんだぁい!?」

 呆れ声に対し、

「なんで勇者が百人もいるのぉ~?」

 あまりに基本的な質問。


『なッ?!』


 怒りを多分に含んだ仰天顔で驚いたドロプウォートは、

「その様な「大切な話すら」していなかったのですのぉ!」

 声を荒げたが、ラミウムは悪びれる様子も見せずにケラケラ笑い、


「いやぁ~コイツがさぁね、契約ん時にゴネたせいで期限ギリギリになっちまって、説明の時間ってヤツが、」


 あからさまな責任転嫁に、

「え? 僕のせいなのぉ?!」

 ギョッとすると、

「んあぁ!?」

「ひっ!」

 一瞬のヤンキー張りのイキ顔で黙らせ、スグさま笑顔に戻り、


「いやぁハハハハハ、それで説明する時間が無くなっちまったのさぁ~ねぇ」

「…………」


 そもそも勇者百人召喚は「祭事」であり、執り行われる期日は予め決まっていて、勇者候補者に詳細を説明、交渉する時間は十分あった筈である。

 それを怠るは怠惰以外の何モノでもなく、ツッコミどころは満載ではあったが、中世に恩恵をもたらす天世人に「面と向かって苦言を呈す」は天世のみならず、中世の人々をも敵に回す行為と同意であり、


「…………」

(まるで子供の言い訳ですわぁ……)


 呆れ顔して押し黙り、ため息交じりに「半べそイケメン勇者」を見つめ、


「貴方も貴方で……事情も聞かずに、よくもまぁノコノコと……」

「アハハハハ……どうせ死ぬなら、何か一つでも良い事をしてからでもと思ってぇ♪」


 半笑いで、ウソをついた。


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