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 疑惑の勇者が「ホンモノであるか否か」は別にして、勇者として召喚された容姿端麗八頭身イケメンが、泣き喚きながら頭を抱えて屈み込んだのであるから、言葉を失うのも無理からぬ話である。


 ドロプウォートも見た目とのギャップに唖然とし、背後で小さく丸まるイケメン勇者を見つめ固まっていたが、同様に固まっていた隊長兵士が誰よりも先んじて、


「だ……だっ、騙されるものかァ!」


 萎えかけた心を自ら奮い立たせ、

「これも演技かも知れぇん! そもそも「百一人目の勇者」など、歴史上有り得ぬ話だァアァァ!」

 空に向かって剣を突き上げ、気勢をそがれていた兵士、騎士たちも、


「「「「「「「「「「お、おぉーーーーーーーーーッ!」」」」」」」」」」


 一斉に雄叫びを上げ、今更引っ込みがつかなくなったドロプウォートも、


「クッ!」


 改めて剣を構え直し、自国を護る為に心血を注ぐ兵たちと切っ先を向け合った。

 しかし、そうまでして守っている相手(超絶イケメン)に、(女性の)背後で頭を抱えて命乞いをされてしまっては「百年の恋も一瞬にして冷める」と言うもの。


「なんて無様ですのぉ! お立ちなさい! それでもワタクシの勇者ですのォ!」


 呆れ交じりに、尻を叩く様に檄を飛ばすと、


「だってぇ……」


 少年が涙顔を上げ、

「ッ!?」

 その顔に、

(泣き顔も堪りませんですわぁあぁあぁぁぁぁ♪)

 苛立つ心は一瞬にして浄化され、天にも昇りそうな思いで両頬を赤く染め上げたが、


(いっ、いけませんですわ、ワタクシ! この非常時に何を考えてますのぉ!)


 雑念を振り払う様に、激しく首を横に振り、

(その様な事を考えている場合ではありませんですわ!)

 緩みかけた表情を毅然に持ち直したが、涙顔で不思議そうに見上げるイケメン少年勇者の眼差しに、

(か、顔は良いですのに……)

 両頬をポッと赤く染め、

「ほぇ?」

「なぁ、何でもありませんですわァ!」

 慌てて不機嫌を装い、顔を背け、


「それよりこのままでは二人とも捕まって「火刑台送り」ですわよォ! 何でも良いですから勇者としての証を見せなさァいですわ!」


 しかしそんな事を言われても、ラミウムに言われた事と言えば、

≪勇者として異世界に送ってやるから書類に拇印しろ≫

 今更ながら、


(あの時、ラミウムから書類の「控え」を貰っておけば良かった……)


 書いた書類の「控えを受ける」は、契約取り交わしの基本である。

 非日常である筈の異世界において、妙に生々しい後悔をしつつ、


「無茶言わないでよぉ! 『ラミウム』から何も聞かされて無いんだからぁ!」

「き?!」


 元いた世界の人生の全てを捨てまで、異世界勇者としての道を選んだ者とは思えぬ不甲斐ない発言に、

「聞いてないって……」

 改めて呆れるドロプウォートであったが、

(……ラミウム……)

 勇者が放った、腑抜けた言葉の一部が脳内で反芻されると、


『貴方は『ラミウム様のぉ勇者』ですのぉぉおぉおぉぉぉぉおおおぉぉ!?』


 突如、両目が飛び出そうなほどの驚きを見せ、

「?」

(何で、そんなに驚くんだろ……)

 涙目のイケメン少年勇者は違和感を感じつつ、


「あ、うん……そう、なんだけど……?」


 頷いて見せると、今度は小さいため息を一つ吐き、


「あの「末席の天世人」様なら、やり兼ねませんわぁ」


 苦々しげ呟きに、

(まっせき? てんぜびと?? やり兼ねない???)

 話が全く見えて来ない。

 すると内輪モメに業を煮やした隊長が苛立ち露わ、


『さっさと正体を現さんかぁ! この『まがい物勇者』がァ!』


 怒声を上げるとドロプウォートにも睨みを利かせ、

「四大様のご令嬢と言えども国家の安寧秩序を乱した以上、多少のケガも止む無し!」

 切っ先を振りかざし、


「しかして相手は「先祖返り」ィ! 各々油断せずに全員同時でかかれぇえぇえぇ!」

「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーーーッ!」」」」」」」」」」


 兵士たちは気勢を上げ、もはや戦闘不可避。


「ひぃいぃぃ!」

「クッ!」


 怯えて身を縮めるイケメン少年勇者と、焦り交じりに剣を構え直すドロプウォート。

 汚名を着せられ、言い訳さえも聞いてもらえぬ絶体絶命的状況下、


「「!?」」


 突如、二人の背後の巨大な立ち見鏡の鏡面が、目も眩むほどの強い光り放ち、


「なんだ!?」

「何が起きてるの!?」


 闘技場に居た全ての人々がその眩しさから眼を覆うさ中、


『テメェ等ァ! アタシの勇者にケチ付けるたぁイイ度胸してんじゃないかァ!』


 激光の中から「猛り声」がし、徐々に光が収まるに合わせ視覚を取り戻し始めた人々は、


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ッ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 信じられないと言った表情で目を見張り、舞台中央を凝視した。


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