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ブラウンヘアとブラウンアイを持つ彼は、金髪碧眼少女ドロプウォートの実の父親である。
口元にニコやかな笑みを浮かべ、動じた様子さえ見せず、騒ぎの中心にいる愛娘を愛おし気に眺め、
「ふむふむ」
「「ふむふむ」ではありませんよぉ兄上ぇ! この状況を分かっておいでぇかァ!」
ドロプウォートの父の実弟、叔父にあたる男は血相を変え、
「これは明らかな逆賊行為なのですよォ! 義姉上も同罪でぇす!」
兄の隣に座る、ボリューム感のあるブラウンヘアが印象的な、ブラウンアイを持った見目美しい女性、ドロプウォートの生母にも喚き散らしたが、彼女もまた動じた様子を見せずに微笑み交じりに、
「凄いですわねぇ~」
「なっ?!」
要領を得ない二人の言動。叔父の苛立ちは頂点に、
「呑気に「凄い」などと言ってる場合なのですかァアッァァアァ!」
頭のてっぺんから火の出そうな勢いで怒鳴ったが、
「だって実際、凄いよねぇ~」
「ですわよねぇ~」
両親は他意無く、微笑ましく頷き合い、
「あの「超絶箱入り娘」が、たった一人の男性の為に、あそこまでするなんてねぇ~」
「いつの間に、成長していましたのねぇ~」
熱い目頭を、ハンカチでそっと押さえた。
「なぁ、な、な、な、な、何に感動しているんですか貴方たちはァーーーーーー!」
怒れる叔父は身振り手振りを交え、
「これは歴とした犯罪行為なのですよォ! あのワガママな体……もとい! ワガママ気質は貴方がたが甘やかした結果なのでぇす! この騒ぎの責任を「当主として」如何なお取りするつもりなのですか、兄上ぇ!」
国王と王族、そして貴族たちをチラリと窺ってから、自身の存在を誇示するかの様に、
「今は亡き父上には申し訳ありませんが、やはり家督は成績優秀であった『この私』が継ぐべきだったのでぇす!」
持論を熱く展開した。
しかし二人は胆が据わっているのか、天然由来なだけなのか、気にする素振りも見せず穏やかに「ハハハ」「ふふふ」と笑い合い、
「それよりも、見てごらん」
「何か動きがありそうですわよ」
舞台中央を指差し、
「!」
叔父は食い入るように騒ぎの中心地を凝視。兄から家督を奪う為の更なる好材料を見つける為に。
その舞台中央では、「イケメン少年勇者」が金髪碧眼甲冑美少女ドロプウォートの背後で、未だ辛うじて「毅然」を保っていたが、 心の中では大号泣、
(お願いだからぁこれ以上オジサン達を刺激しないでぇえぇえぇぇえぇ!)
泣き喚いていた。
そのオジサン兵士たちはと言うと、二人に切っ先を向けつつも、相手が四大貴族令嬢なだけに本音の部分で手を出しあぐね、ドロプウォートもそれが分かっているが故に、自ら攻撃の口実を与えない様、身構えるだけに止めていた。
そもそも彼女の計画では、この膠着状態の間に誓約を済ませ、既成事実を作ってしまうつもりでいたのだが、肝心の勇者が「誓約の儀」をしないので計画は破綻、互いに無駄な睨み合いをする羽目に陥っていたのだった。
時間ばかりが無駄に過ぎて行く、八方塞がりな状況に、流石に焦りを覚え、
(クッ……このままではいけませんですわぁ)
目を付けた勇者が、未だかつて見た事の無いイケメンだったからと言って、いつまでも両目にハートマークを浮かべている場合ではなく、
(このままでは、大観衆を前に「私の存在価値」を認めさせる為の企てが、丸潰れになってしまいますわ!)
現状打破の一計を案じ、視線は兵士たちに据えたまま、
「貴方も勇者様のお一人なのでしょ! でしたらこの状況を何とかなさァい!」
すると背後からの、
「む………………」
長い沈黙に、
「む?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「む?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ドロプウォートと闘技場内が、固唾を呑んで「勇者の二の句」を待っていると、
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理こんなのぉ無理だよぉおぉぉおぉっぉ!」
イケメン少年勇者が堰を切った様に大声で泣き喚き、
「だっってぇこんなのぉ聞いてないよぉ~~~~~~!」
幼児の様に頭を抱えて、その場に屈み込んでしまった。
国を護る為、異世界から召喚された「勇者様」のまさかの有り様に、
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・え?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
思わず凍り付く闘技場内。




