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1-5

 まるで羽が生えているかのように空中を飛ぶ馬上で、長く美しい金髪をたなびかせる甲冑少女。青空をバックに空中を駆ける姿は、一枚の絵画の様。傍らに着地するや否や、馬上から華麗に飛び降りると、おののく兵士たちに向けて抜刀し、怯んだ間隙を縫って、


『さぁ今の内です勇者様ぁ! このワタクシと『誓約』なさぁい!』


 背を向けたまま肩越しに声を上げたが、「元イケてない少年」は、


「・・・・・・」

(「セイヤク」って、何?)


 何の事やら分からない。

(そう言えば、さっきも隊長さんが「誓約者と契りがどうこう」言ってたような……)

 首傾げに、「誓約」を行うには何か特別な事でもあるのか、金髪碧眼甲冑少女は羞恥の混じった赤面顔で、


「じょ、女性からさせる気ですの!」

「???」


 まったく意味が分からない。

 業を煮やした少女は、


「ですからァ!」


 苛立ち交じりに振り返ったが、

「ッ!?」

(なんて素敵な殿方ですのぉぉおぉおぉぉ♪)

 脳内美化率百二十パーセント。

 元イケてない少年の「現在の容姿」に、ハートを一瞬にして射貫かれた。


 危機的状況下である事も忘れ、思わず見る金髪碧眼甲冑少女ドロプウォート。

 しかし、

『?』

 何故、自分が見つめられているか理解出来ない、少年。


 彼は彼で記憶がないとは言え言動からも分かる通り、女性から好意を向けられた事など皆無であり、脳内の神経伝達回路が「モテ男仕様」に出来ていないのである。

 互いの認識が一致しないまま、不思議な見つめ合いをする二人であったが、そうこうしている間にも二人を取り囲む輪は、数による厚みを増し、観客たちが固唾を呑んで見守る中、近づく兵士たちの気配に「!」っと、ドロプウォートは我に返り、


『お下りなさァい!』


 振り向きざまに一喝し、


「誰に剣を向けているのか分かっているのですかァ!」


 一回り以上歳の離れた兵士オジサンたちに向かって言葉を選ばず言い放ったが、


「血迷ぅたか、ドロプウォート嬢ォ!」

「自分こそ何をしているのか分かっているかぁ!」

「四大貴族様の家名に泥を塗りおってぇ!」

「じゃじゃ馬娘の、先祖返りがァ!」

「恥を知れぇ!」


 罵詈雑言が倍返り、

「クッ!」

 幼さの残る美少女顔を、腹立たしげに歪めた。

 彼女自身、自らの行いが「家名に泥を塗る行為」の自覚はあるようで、悪態を以って応戦する事はせず、無言で奥歯を噛み締めていたのだが、そんな彼女の背後では、


「…………」


 元イケてない少年が、凛然と静観。

 落ち着き払ったその様は、一見すると成り行きを見守っている様にも見えるだが、その心の内では、

(もぅ止めてぇ~!)

 頭を抱えて泣き叫び、更なる状況悪化を恐れ、

(お願いだからぁ、これ以上は兵隊さんたちを煽らないでぇ~~~!)

 懇願しつつ、


(しかもこれって普通は立場が逆でぇ、「姫はオレが守る」的なヤツなんじゃないのぉおぉ?!)


 自身が置かれた状況に「一人ツッコミ」を入れていると、


『御安心下さいませ「勇者」様ぁ!』

「へ?」


 ドロプウォートの自信に満ちた顔が肩越しチラリと振り返り、目が合うなりポッと両頬を赤らめ、


「勇者様は「このワタクシ」が、必ずやお守りして見せますわぁ!」

「…………」


 返答に困り押し黙る少年を尻目に、取り囲む兵士たちを気合も新たに睨み付け、

「「「「「「「「「「ぐぅぬぬぬぬぬぅ!」」」」」」」」」」

 怒りを増すオジサン兵士たち。


 矛先は主に、可愛い少女に守られる「超絶イケメン勇者」に。

 客席からは女性客たちが、潤んだ瞳で中央舞台のイケメン勇者を見つめ、


((((((((((守って差し上げたいですわぁ♪))))))))))


 一方の男性客たちは、


((((((((((イケメン死すべしィ!))))))))))


 嫉妬の炎を燃え上がらせ、歪んだ熱い想いはオジサン兵士たちと共に、今、心一つに、


((((((((((((((((((((イケメン勇者は滅ぶべしィ!))))))))))))))))))))


 ボルテージは天井知らず。

「!?」

 背筋に激しい悪意を感じる元イケてない少年。


(何がぁ? どうしてぇ?? こうなったぁあぁぁっぁあぁ~~~???)


 心の中で嘆きの咆哮を上げ放っていると、国王が座する玉座の周りには衛兵たちが駆けつけ、緊迫の度合いを増す王族叡覧席のすぐ近く、四大貴族関係者席では今にも卒倒しそうな真っ青な顔した中年男が怒りを以って立ち上がり、


「兄上ぇ! 貴方の娘は、なんて事をしてくれたのですかァ! 歴史ある「勇者百人召喚の儀」を汚すなど名家の名折れではありませんかァ!」


 隣席に座る、フレスコ画に出て来そうなほどの、色白イケメンに食って掛かった。


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