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1-42

 教会が見える所までパストリスに導かれた一行――


 削った鉛筆を数本束ねた様な建物の周囲には、コック帽の様な被り物をした司祭や、信徒と思しき村人たちの姿も見える。

 そんな中、ラミウムがおもむろに立ち止まり、


「…………」


「「ラミィ?」」

「ラミウム様ぁ?」


 不思議そうに見つめる三人を前に、ゆっくりと青空を見上げ、

「……疲れた」

 それは暗に、教会に行く気が失せた事を意味し、


「「「えぇ?!」」」


 またも急で身勝手な心変わりに、驚愕する三人。あれほど行きたがっていた教会の入り口は、もう目と鼻の先である。

 しかしラミウムは気にする素振りも見せず、

「おい襲われ少女」

「は、はい!」

「この村にも宿屋はあんだろ?」

「何軒かはありますぅが……」


「ちょ、ラミィ、本気?!」

「教会は、もぅ目の前ですのよぉ?!」


 振り回されっ放しのパストリスを気遣う二人であったが、ラミウムはそんな二人の気遣いなどお構いなし、

「一番値の張る宿を探しとくれぇ」

 すると流石のパストリスも、顔色を窺う様におずおずと、

「あ、あのぉラミウム様ぁ……そのぉ……司祭様と、村長さんへのご挨拶は……」


「天世のアタシは「休む」って言ってんだよぉ!」

「ひぃう!」


 頭ごなしに怒鳴りつけた上に、


「さっさとしないと『あの同人』みたいにひん剥くよぉ!」

「『あの同人』が何か分かりませんけどぉ分かりましたでぇすぅーーーーーー!」


 パストリスは一目散、跳ねる様に宿を取りに駆け出して行った。

 そんな彼女の後姿に、


「ったく!」


 腹立たし気に毒づくラミウムを、

「「…………」」

 物言いたげなジト目で見つめる、ラディッシとドロプウォート。

 無言で批判の眼差しを向ける二人に、ラミウムは苛立ち露わ、


「言いたい事があるならハッキリお言いでないかぁい!」


 噛み付く様な口調ではあったが、ドロプウォートはいつものケンカ腰と違い、冷静に、大人な口調でたしなめる様に、

「ラミィ。お礼を言いたいと言う方に対し、いささか不敬ではありませこと?」

「…………」

「これは苦言ではなく、友人としての忠言ですわ」

「僕も、そう思う……ねぇラミィ、今日はどうしたの?」

「…………」

「いつものラミウムらしくないよ」

「ですわ。いつもの貴方でしたら、」


「ウルサイねぇ! 二人してアタシの小姑かぁい!」


 不機嫌にプイッと顔を背け、

「…………」

「「…………」」

 一人と二人は険悪な空気の中、パストリスが予約してくれた宿で久々となる「屋根のある夜」を迎えた。



 人々が深い眠りに就いた頃――


 三人が宿泊する宿屋周辺に集まる幾つもの人影。


(お、お頭ぁ……本当にヤルんですかぁい……?)

(村長と呼ばねぇか、バカヤロォーがぁ!)

(ヒィ!)

(ったく、オメェーはいつまで経っても学ばねぇ!)

(すぅ、すんませぇ~ん)

(でもよぉ村長、ソイツの言う通り、流石に天世人を手に掛けるのはマズイっすよぉ)

(そ、そうっスよぉ~。ヘタすりゃ天世をも敵に回す事になりかねませんぜぇ!)


(今更ビビってんじゃねぇ!)

(((((ヒィ!)))))


 剣幕に身を縮める村人(子分)たちに、

(パストリスのバカがドジ踏んで、天世と勇者と誓約者なんぞ三つ揃えで連れて来るから、こんな事になったんだろぉがぁ! あの「裏切り者の娘」がぁ!)

 明らかに「犯罪者集団の頭目」である事を窺わせる村長ではあったが、

(元より中世で見捨てられたワシ等が、明日を平穏に生きられる場所なんぞねぇんだ!)

 村人たちが理不尽な虐待と、差別を受ける日々を苦々しく思い起こし、


(不帰の森の正体が国にバレりゃあ、どの道この「盗賊村」はお仕舞ぇだ! バレる前に三人を始末して口を封じねぇ限りな! 分かったかァ!)

(((((はっ、はぁひぃ!)))))


 村長(親分)は村人(子分)を引き連れ、宿屋の勝手口を小さくノック。

 すると木戸が「キィ」と小さい音をたてて開き、宿屋の主人と思しき男が顔を出し、村長たちと無言で頷き合うと、静かに中へ招き入れた。


 無言で二階を指差し、無言で頷き返す村長たち。


 月明かりが差し込む薄暗がりの廊下を、足音を忍ばせ、三人が宿泊する大部屋の扉の前まで来ると、鍵も使わず、音もさせずに扉を開けた。

 扉の蝶番、鍵、鍵穴、その全てに細工が施してあったのである。

 最上級の部屋と称してラミウム達をこの部屋へ通したのも、全ては寝込みを襲う為。

 四つ置かれたベッドのうち、人の気配を感じる寝床は三つ。


 村長たちは三組に分かれると、各々ベッドの足元側に立った。

 枕元には立たない。

 月明かりを遮った拍子に目を覚まされ、反撃を受ける可能性があるから。

 鎌、鍬など、農具の刃をベッドに向けて高々と振り被り、村長の手振りを合図に一斉に振り下ろし、


「「「「「「「!?」」」」」」」


 両手に伝わる、今までとは違う感触。


「「「「「「「…………」」」」」」」


 違和感から、無言のうち無造作に上掛けをはぎ取り、


「「「「「「「!」」」」」」」


 そこには枕で模された寝姿が。


「逃げやがったぁあぁっぁぁ!」


 怒髪天を突くが如き形相で雄叫ぶ村長。

 堪え難い怒りからか血相を変え、

「あんのクソガキィ! 仲間になりてぇなんて殊勝な事ぬかすから試してみりゃヤッパリ裏切りやがったんだぁ! 父親が裏切り者なら娘もだ! クソォがァ!」

 備え付けの木製イスを激しく蹴飛ばし、


「村人全員叩き起こせぇ! 総出で山狩りだァーーーーーーッ!」


 村のアチラコチラに灯り始める、無数の松明の灯り。



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