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 パストリスの先導に従いそぞろ歩く三人――


 どっちを向いても同じに見える森の中を十分ほど歩くと、大きく開けた場所に出て、


「「「!」」」


 三人と一人は細枝を組んで作っただけの、アーチ状の「簡素で慎ましやかな門」と遭遇した。

 久々に見る、人工構築物である。


 村の入り口を示すアーチらしく、胸に一物抱えたパストリスは門の前で緊張気味に振り返り、

「ま、先ずは、村長にお会いしていただきますでぇす!」

「「…………」」

 パストリスとは違った意味合いでの緊張を見せる、ラディッシュとドロプウォート。


(異世界に来て、初めての村……)

(城下の外に住まう民の村などぉ、初めてですわ……)


 硬い表情で頷き、一歩目を踏み出そうとした次の瞬間、


『んなモンは二の次さぁね!』

(((?!)))


 またも身勝手なラミウムの言い出しに、辟易顔で驚く三人。

 すると三人の物言いたげな素振りにムッとし、


「アタシぁ天世だよォ! 何か文句があるってのかァい!」

「「「…………」」」


 なかば逆ギレした挙句、

「早く教会に行って、天世の上司に事の顛末を報告しゃなけりゃ「アタシの給料査定」に響くんだよォ!」

「「「え?」」」

(((給料査定ぇ!?)))

 単なる俺様発言かと思いきや、三人の想像の斜め上。


「「「…………」」」


 あまりに生々しい理由に三人が言葉を失う中、

「職務怠慢で「百人の天世人」をクビにされちまったら次の職探しが厄介なんだよォ!」

 切実な物言いに、


「……そんな「月給取り」みたいなセリフ……ラミィから聞きたくなかったなぁ……」

「ですわぁ……「飲む・打つ・買う」は甲斐性とか言いそうですのにぃ……」

「でぇすでぇす」

「お馬鹿をお言いでないよ、オマエ達! アタシぁれっきとした「宮仕えの月給取り」だよ! 職にあぶれて「天世で物乞い」なんてまっぴら冗談じゃないさぁね!」


 あまりの必死さに、

「あは、あはははは……」

 パストリスは乾いた困惑笑いを浮かべ、


「わ、分かりましたでぇす」


 頷くと、

「では教会に行きましょう」

 門をくぐり、三人を村へと導いた。



 活気溢れる村の中――


 メインストリートと呼ぶべき道は昼食の時間帯も手伝ってか、パストリスが着ている服と似た民族装束に身を包んだ村民が、老若男女問わず途切れることなく行き交い、通りに並ぶ商店に目を向ければ、貴金属店に日用雑貨店、衣料品店に食料品店など、ラインナップも充実。


 通りを挟む様に並び立つ、威勢の良い掛け声が飛び交う無数の屋台からは芳しい香りが漂い、否応なしに食欲を刺激し、村は「森の中のポツンと村」とは思えないほどの賑わいを見せていた。


「スゴぉい……深い森の中に、こんな村があるなんて……」


 ラディッシュが感嘆交じりに見回す一方、


「こっ、これが「屋台」と言う物なのですのぉ!?」 


 ドロプウォートも興味津々、眼をランランと輝かせていた。

 貴族街の外にある、城下町にすら出た事の無かった「超箱入り娘」の「超超お嬢様」のドロプウォート。そんな彼女にとっては見る物すべてが珍しく、


「小説の中だけの「架空の存在」と思っておりましたわぁ! 建物ではない店は実在したのですねぇ!」


 まるで過疎地域から大都会に出て来たばかりの少女の様。

「それに、どれもこれも美味しそうですわぁ♪」

 慌ただしく目移りしていると、満面の笑顔のパストリスが、


「本当に、どれもこれも美味しいんでぇすよ♪」

(たぶん……)

「何か言いましてぇ♪」

「いえ、何でもありませぇんでぇす♪」


 お嬢様ドロプウォートの掛かり切りになっていると、その間隙を縫ってラミウムがラディッシュの耳を引っ張り、小声で、

(アタシが良いと言うまで、この村で出された物はいっさい口にスンじゃないよ)

「へ? 何で???」

(イイから黙ってぇ言う事をお聞きィ!)

 凄んだヤンキー顔に、


「はっ、はひぃ!」


 ラディッシュは怯えながらも、

「で、でも……」

「でも何だい!」

 苛立つラミウムに、

「僕に言うよりも、アッチに言った方が良いんじゃ……」


「はぁ? アッチだぁ???」


 指し示す先に振り返ると、


『キレイなお嬢ちゃん、毎度アリィ!』

「ありがとうございますですわぁ♪」


 既にドロプウォートが小脇に紙包みを抱え、両手に串焼きを持ち、食いしん坊状態。


『アンタはナニしてんだぁい!』


 呆れ笑いでツッコミ、

「ほへ?」

 きょとん顔で応えると、腕組みしたラディッシュが呑気に大きく頷き、


「うんうん。気持ちは分かるよぉ~ドロプさん。屋台の料理って、理由は分からないけどウマさ三割増しなんだよねぇ~」

「私、屋台と言う物は初めてですけどぉ、その理論に納得ですわぁ~」

「ですでぇす。でぇすよねぇ~」


 二人と一人はすっかり観光気分。

 するとラミウムが平和ボケに怒り心頭、

(このぉスットコドッコイ共がァ!)

 頭から鬼の角でも出そうなマジギレで、


「どうでもイイからぁ買っちまった物は「その辺のガキども」にでもやりなァ!」

「えぇ?!」


 訳が分からずギョッとするドロプウォートと、

「あっ、あのぉラミウム様ぁ、なっ、何か気分を害されましたかぁ?!」

 恐縮至極、顔色を窺うパストリス。

 ドロプウォートは「ラミウムのいつものワガママ」とは思ったが、


(多くの人々が行き交う往来の真ん中で揉める事は、お見苦しいですわよねぇ……)


 ため息交じりの「大人の思慮」を以って、

「仕方がないですわ……どなたか差し上げられる方は……」

 周囲をキョロキョロ。

 するとその姿に、串焼き屋台の店主は陰で小さく「チッ」と舌打ち。

「ほぇ?」

 何の気なしに振り返ると、


「毎度ありぃ、お嬢さん! また買ってってくんなぁ!」


 先程と変わらぬ満面の笑顔が返り、

「?」

(聞き間違いでしょうか???)

 首を傾げた所に、駆けっこして遊んでいた村の子供たちが通り掛かり、


「お待ちになってぇ!」


 笑顔で呼び止めると、

「よろしかったら此方をどうぞぉ♪」

 屋台で買った食べ物の全てを差出した。

「「「「「?」」」」」

 不思議そうな顔を見合わせる子供たち。


(戸惑うのも当然ですわねぇ。見ず知らずの人に、いきなりこの様な行為をされれば)


 思い直すとニコやかに、

「お姉さんはぁ、もぅお腹いっぱいで食べられませんのぉ。勿体ないのでぇ、代わりに食べていただけませんことぉ? お姉さんからの「オ・ゴ・リ」ですわぁ♪」

 ウインクして見せると、子供たちは顔を見合わせ、うつむき加減で極々小さく「チッ」と舌打ち。


「ん? どぅかしましてぇ?」


 覗き込む笑顔の首傾げに、子供たちは無垢な笑顔をパッと上げ、


「「「「「ありがとう『オバサァン』!」」」」」


 受け取り、元気よく走り去って行った。

「お、オバ……」

 絶句するドロプウォート。


 するとラミウムが、目が点になり固まるさまを見て「ワハハ」と大笑い、

「アレくらいのガキから見れば十分オバサンなんだろうさぁね。なぁドロプオバサン♪」

「むぅ! でしたらラミィは、私よりもずぅ~っとずぅ~~~っと年上なのですから大ババ様ですわ!」

「あんだってぇ~?」

「何ですのぅ~?」

 往来の真ん中で、結局毎度のいがみ合いを始める二人に、ヤレヤレ顔したラディッシュが妙な上から目線で、


「二人とも「それ位の事」で大人げないなぁ~~~」


 しかし女性にとってはデリケートな問題。


『『あぁ!?』』


 凄む女性二人のキレ顔に、

「ひぃ! ごめんなさいごめんなさい!! 調子に乗りましたぁーーー!!!」

 怯えた表情で頭を抱えて縮こまり、その不甲斐ない姿をパストリスは呆れ交じりのジト目で見つめ、

「ラディッシュ様って……」

「ほえ?」

「本当に「勇者様」なんでぇすかぁ?」

「あは、あはははは……」

 乾いた笑いでお茶を濁すラディッシュは、夢を壊された少女の訝し気な眼差しに、


「面目ないです……」


 囁く様な、謝罪をするので精一杯であった。

 小さなため息を吐くパストリス。

(……顔はイケメンなのに……)

 残念そうに振り返り、

「それで、どぅかされたのでぇすかラミウム様?」

 しかしラミウムは、何の懸念も無いかの様に平然と、


「別に何でもないさぁね」


 鼻先でフッと小さく笑い、

「まぁ強いて言うなら、勇者が村人の多さにビビっちまったダケの事さぁね」

 話に何の脈絡もないうえに、勇者が人の多さに臆するなど、普通に考えれば信じられない話であるが、


「なるほど、そうなんでぇすね」


 普通に納得するパストリスと、

(!)

 軽くショックを受けるラディッシュ。

 既にイケメン勇者としてのメッキは剥がれ落ちているものの、可愛い女子の前で「醜態を晒したままにしておけない」と思うは男子の性であり、今更ながらに背筋をスクッと伸ばして立ち上がり、


「いつもはビシッとしてるんだよ、パストリスさん! 今日はちょっと調子が悪くて!」


 よく分からない言い訳をしつつ、八重歯をキラリと光らせイケメンスマイルを決めて見せると、


『そこの美女三人に囲まれた、お兄さァん! ウチの飯も買ってってくんなァ!』


 背後から突如上がった店主の気勢に、

「ぃひぃ!」

 小さい悲鳴を上げ、ドロプウォートの背に隠れた。

 女性の背後で縮こまる勇者を、


「「「…………」」」


 物言いたげな目で見つめる女子三人。

(((この、ヘタレ勇者ぁ)))

 三人は期せずして心同じく呟いた。



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