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青空の下――
ラディッシュ達はフルール国国境の関所を馬車で抜け、同盟四国でありながらも、かつて緊張状態があったが故に設けられた非武装、否干渉地帯の森の街道を進んでいた。
勇者組の活躍により、エルブ、フルール、カルニヴァ、アルブル四国の緊張状態は以前より緩和されたものの、国境の線を引き直すことで生じる「新たな諍い」を嫌った四国は共通認識の下、森の扱いを現状維持に留める事にしたのである。
一面を見れば互いの国を気遣った美談とも取れるが、その半面、否干渉地帯に違法に作られた村々での「非合法な諜報活動の場」を失いたくないとの思惑も見え隠れしていた。
街道を進みしばし経った頃、御者台のニプルウォートが不意に、
「なぁラディ」
「?」
「次に行くのは、アルブルかい?」
すると手綱を引く彼が答えるより先、チィックウィード達とカードゲームに興じていたイリスが手札から眼は放さず、
「アルブルは後回しにしておくれでないさぁねぇ」
『はぁ?!』
眉間に深い怒りシワを寄せるニプルウォート。
イリスの「身勝手な言い分」もさることながら、礼を欠いた物言いが甚だ癪に障り、
「アンタは何を仕切ってんのさぁ?!」
不満を露わ、荷台に振り返ると、似た気性を持つイリスも彼女の熱に当てられ売り言葉に買い言葉、
『アタシぁ「アルブルで狙われた」っつったさねぇ!』
一歩も引く気を見せず振り向いたが、
「ソレぁアンタが言ってるだけでホントかどうか怪しいモンさぁ!」
「アタシが嘘を吐いてると言いたいのかい、ニプルッ! 上等じゃないさねぇ!」
怒り任せに手札を投げ置き、ガラッパチな女子二人が一触即発。
『けっ、ケンカはダメだよぉ!』
ラディッシュは慌てて馬車を止めながら、
「みんな仲良くしようよぉ! 仲良くねぇ♪」
話しに割って入ったが、何の論拠も持たない「中途半端な仲裁」など、むしろ火に油。
『『ならぁラディは何処に行くつもりなの(さ・さねぇ)!!!』』
怒りを増したイキ顔二つに、同時に迫られる結果となり、
「えぇ?!」
答えに詰まり、
「いっ、いきなり僕に、そ、そんな事を訊かれてもぉ?!」
しどろもどろで狼狽えると、
『アルブル国の近くの違法村で良いのではなくて』
イリス寄りの提案を、平静な口調で挟んだのは御者台のドロプウォート。
しかしその案は、頭に血の上ったニプルウォートに更なる怒りを招く呼び水にしかならず、
「なっ!」
彼女が激昂しそうになると、気を良くしたイリスがすかさず、
「分かってるじゃないさぁねぇ、ドロプぅ♪」
二の句を遮った。
ところが、
『勘違いされては困りますですわ、イリィ』
「へ?」
ドロプウォートは冷淡に「彼女の上機嫌」を斬って落とした上で、
「違法村には様々な情報が集まりますわ。そこで貴方の情報も集め、事の真偽を問わせていただきますわ」
それは「疑いを持っている」との意であり、立場は逆転。
『なっ?!』
イリスが不愉快交じりの驚きを見せた一方、
「ソイツは良いねぇ♪」
ニプルウォートが気を良くすると、面倒ごとに関わりたくないスタンスであったカドウィードが不意に、
「カディもドロプに一票でありんす♪」
すると仲間たちの視線は、意を表していないターナップとパストリスに自然に向かい、向けられた二人は、
((イリィについて何か分かるかも知れ(ねぇ・ないのでぇす)……))
思い至り、
「オレもソレで構わねぇスよぉ」
「ぼ、ボクもそれでヨイと思うのでぇす」
ドロプウォートへの同調を示し、話をどこまで理解出来ているか分からないチィックウィードも大人たちの話の流れに乗っかるように、
「チィもヨイなぉーーー♪」
笑顔で手を挙げると、ニプルウォートが挑発する様に、
「だとさぁ「イリスさん」よぉ、どぅするさぁ?!」
その小馬鹿にした笑みに、勝ち気な彼女が大人しく引き下がる筈も無く、
『上等さぁねぇ! アタシぁ逃げも隠れもしないさねぇ!』
強気で返し、一行の行き先は期せずして定まった。
不穏な空気をはらみつつ。




