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メモを片手に工房を目指すラディッシュ達――
すっかり様変わりした村内で「ターナップの古い記憶頼り」では心もとなく、目的地までの略図を商人に描いてもらい、それを頼りに辿り着いた一行は、
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
絶句。
特に「以前のボロ工房」を知っているターナップ、ラディッシュ、ドロプウォート、パストリスの四人は、目の当たりにした何かを唖然と見上げた。
目の前に建つのは隙間だらけの「掘っ建て小屋」などではなく、御貴族様の御屋敷と見紛うばかりの、三階建てはあろうかと言う大きな工房で、勇者一行は同人誌で得た知識から、
(((((((ギルドハウス……)))))))
驚嘆をこぼしていると、中央扉が観音開きに開き、
『勇者様ぁあぁあ♪』
笑顔満面で現れたのは、懐かしき職人の顔。
依然と何ら変わらぬ、親方であった。
その背後には、相も変わらずアイドル張りの容姿にスマイルを浮かべた、美少年弟子の姿も。
初対面となるサロワート、ニプルウォートとカドウィードは彼の整った容姿に、
「まっ、まぁまぁのルックスじゃなぁい♪」
「なかなかのイケメンじゃないさぁ♪」
「都会でありんしたらぁ「取り巻き女」が大勢いそうな容姿にぃありんすなぁ♪」
感嘆すると、彼の腹黒さを知る苦笑のドロプウォートはすかさず、
「容姿に騙されて鼻の下を伸ばしていると、」
「「「いると?」」」
「生き地獄を見る羽目になりますわよぉ」
『『『生きぃ!?』』』
ギョッとする女子三人。
本人を前にした「中々の悪言」に、普通であれば当人が激昂、反発、動揺、などの「強い否定の反応」を見せそうなモノであるが、 アイドル弟子は暖簾に腕押しの如く、その素敵過ぎるスマイルに微塵の揺らぎも見せず、
「酷いなぁ誓約者さまはぁ~♪」
(((!)))
直感的に、
(((コイツ、ヤバイ……)))
危険人物であるのを理解した。
そんな中、彼の視線をほんの一瞬受けたサロワート。
(ッ!)
急に表情を硬くし、弟子におもむろ歩み寄ると、
『アンタ、ちょっと顔を貸しなさい』
その声は、怒気を少しはらんでいる様にも聞こえたが、アイドル弟子は変わらぬスマイルで、
「困ったなぁ~初対面でいきなり誘われてもぉ」
『イイから来なさぁい!』
余談許さずサロワートは彼の二の腕をガシリと掴むと、仲間たちから少し離れた所へと連れて行き、彼女の態度の急変に不安を隠せないラディッシュ達ではあったが、視界から消えた訳でなく、見える所で平静に、会話を始めた様子に、
(だ、大丈夫……だよね?)
仲間たちに眼で意見を伺うと、仲間たちも「一先ずは大丈夫」と判断したらしく、頷きを返し、同意を得られたラディッシュは改めて、
「お久し振りです、親方さん。それと……挨拶が遅れてごめんなさい」
頭を下げ、和気あいあいとした会話が始まった時、ラディッシュ達から離れたサロワートはスマイルを崩さぬアイドル弟子に、遠目には平静に見える物言いで、
『アンタ、アタシのステータスを盗み見たわねぇ』
「すて?」
「誤魔化すんじゃないわよ。アタシのチ、」
地世のチカラと言いかけ、言葉を飲み込んでから、
「チカラで隠してあるステータスを、盗み見たのは分かってるのよ」
「困ったなぁ~何の話な、」
「アタシの「隠匿のチカラ」を上回ってねぇ」
「…………」
するとアイドル弟子は流石に誤魔化しきれないと判断したのか、アイドルスマイルはそのままに、
「地世の七草♪」
『ッ!』
サロワートは射貫く様な眼差しで、
「アンタは、何者なの。アタシは地世の魔王軍幹部よ。そのステータスを盗み見るなんて、並みの鑑定士では不可能な事よ」
するとアイドル弟子はスマイルのまま、
「僕、この村が結構気に入ってるですよねぇ~♪」
「はぁ? アンタは何を言って、」
「親方は路頭に迷っていた幼い僕を拾って、実の孫のように育ててくれてぇ」
「…………」
「僕は「先祖返り」なんですよぉ♪」
「?!」
「それも「英雄の生まれ変わり」であるドロプウォート様や、その血筋を秘密裏に脈々と受け継いで来た、実力を持った「百人の勇者の末裔」の若司祭様とは違う、ぽっと出の、大した実力も無い、百人の勇者の先祖返り」
「…………」
「だから生みの親や、親類縁者に特殊能力を持った人は居なくて、僕は中途半端に「このチカラだけ」を持って生まれて……散々利用されて、煙たがられて、気持ち悪がられて……そして捨てられました♪」
「アンタ……」
「だから僕は誰にも言いませんよ♪」
「え?」
「騒ぎになって、この村から追い出される羽目には遭いたくないから♪」
作られた笑顔の下に隠された悲しみに、サロワートは「はぁ」と短いため息を吐くと、
「分かったわよぉ。アタシも、ラディ達にも言わないでおくわ。騒ぎになるのはアタシも本意じゃないし」
小さな笑みを見せ、
「でも誰かにバラしたら承知しないわよぉ♪」
ラディッシュ達の下に戻ろうとする背に、アイドル弟子は変わらぬスマイルのまま、
「どうして?」
「何がよ?」
「勇者様たちは貴方の正体を知っているのに、どうして僕にそこまで気を、」
「遣うのかって?」
サロワートはニコリと笑って振り返り、
「そんなの決まってるじゃない」
「?」
「アタシも、この村が気に入ってるからよ♪」
キラキラとした笑顔を見せた。




