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1-3

 足下に広がるは、3D映画の様な激突を意識させる映像で停止する、ゴツゴツとした黒い岩肌と、全てを飲み込まんと激しく逆立つ白波。


(あ、あとちょっとで僕はアノ岩に……)


 荒波と強風に削られ、凹凸の激しい巨大な石包丁の様な大岩を、少年は冷や汗と共に凝視し、肉塊と化していたであろう自身の姿を想像して息を呑むと、


「契約を拒否られたってぇアタシぁ別に構いやしないさぁね」


 ヤンキー女神は見放す様にひょうひょうと言ってのけ、

(え? で、でもさっきクビにされるからってぇ?!)

 慄く少年を更に突き放す様に、

「職業安定所にでも行きゃあ、当面の飯にはありつけるからねぇ」

「職?!」

「ただし!」

「!?」

 ビクリとする少年に、眼下の岩肌をチラリと見てから、愉快そうに「クックックッ」とひと笑。


「オマエさんは、どぅなるのかねぇ?」

「!」


 受け入れた筈の死が、人と話をした事で、冷静さを取り戻すと共に恐怖となって覆り、

(こっ、怖いぃ……)

 顔は青ざめ、腹の底から「死への恐れ」が滲み出て来た。


(ココだ!)


 表情変化を見逃さなかったヤンキー女神。すかさず追い打ちをかける様に、

「アタシがこのチカラを解除した途端、アンタはアノ岩と激しいディープキスさぁね」

「ッ?!」

「ファーストキスが地球とは、クックックッ! なんともスケールのデカイ最期じゃないかい!」

「なんで(初めてって)知ってるんですかぁぁあぁぁぁぁ?!」

 思わずツッコム少年ではあったが、死への怖さを思い出した今、彼の選べる選択肢は一つしか残されていなかった。

 ニヤつくヤンキー女神がチラつかせる同意書をおずおずと受け取ると、捺印欄に親指を押し付け、指紋が転写。

 インクも無しに拇印が出来た事に驚く余裕さえ無く、

「や……」

「や?」

「優しくしてね……」

 気弱く呟くと、


「おぅさアタシに任せときなぁ!」


 ヤンキー女神は勝ち誇った様に同意書を高らかに振りかざし、


『アタシの名は『ラミウム』さぁね! これからアタシがアンタにふさわしい強力な「勇者ステータス」を振って向こうに送ってやんよォ!』


 少年は目も眩む光に包まれ、眩しさから思わず目を閉じると、

(うくっ……)

 軽いめまいを感じた。

 それは異世界転生に伴う反作用であろうか。

 間を置かず、地に足が着いた感覚を覚え、


(つ、着いた……のかなぁ?)


 聴力も瞬間的に失われていたのか、無音の世界から音が次第に聞こえ始め、やがてソレは大きくなり、

(何か周りが騒がしい様な……)

 喧騒に薄目を開けると、


『のぉわぁ!』


 驚きのあまり、大きくのけ反った。

 目の前にスラッと足の長い、軽鎧を纏ったサラサラヘアの八頭身イケメン少年が、此方を向いて立っていたのである。

 彼もまた、突然目の前に現れた少年に驚いたのか、同じ様にのけ反っていて、少年は見ず知らずの人を驚かせてしまった事に、


「すみませんすみません! 僕なんかが驚かせてしまってすみませぇん!!!」


 条件反射的に何度も頭を下げたが、


「…………」

(あれ?)


 返らぬ言葉に違和感を感じ、そっと顔を上げると、イケメン少年も同じ様に顔上げた。

「?」

 少年が右手を上げると、イケメン少年も。


「鏡ぃ?!」


 それは高さが三メートルは優にあろうかと言う、巨大な立ち見鏡であった。


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