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 勇ましく「漢らしい勇者」になってもらいたいと思うラミウムと、ラディッシュと出逢い日々を共にする中で「彼の様な『心優しき勇者』が居ても良いのでは」と、考えるようになったドロプウォート。


 彼女が心変わりした要因の一つは、同じ目線で接してくれるラディッシュが異性として気になり始めていたからに他ならなかったが、超箱入り娘にその事実を受け入れる覚悟はまだ無い。と言うより恋心に自覚無し。

 するとラミウムが辟易顔して、


「ヘタレ勇者が何の役に立つんだぁい?」


 同じ議論を、これまで何度交わして来た事か。

 ドロプウォートも負けじと、


「何度でも言いますが、ラディは「ヘタレ」ではありませんわ! (確かに少々腰抜けな所はありますが……)優し過ぎるだけですわ!」

「ほほぅ~因みに「優し過ぎる」の前に、小声で何て言ったんだぁい?」

「なっ、何でもありませんわ! そ、それに個人の人格を尊重しない考えの押し付けは、単なる強要、強制でしかありませんわ!」


 熱弁を振るう姿に、ラミウムは悪い企み顔してニヤリ。

「な……何ですの……その気色の悪い含み笑みは……」

「アンタさぁ」

「?」

「最近、随分とラディにご執心じゃないかぁい?」

「えっ!?」

 条件反射的にギクリとするドロプウォート。


(わ、ワタクシ、何故に動揺していますのぉ?!)


 心の揺れの意味が理解出来ずに戸惑うさ中、女子二人の板挟み状況にあった困惑顔のラディッシュと期せずして目が合い、

「!」

 ボッと顔を赤に染め、


「てっ、適材適所があると言っているだけですわぁ!」


 照れではなく怒りであると誤魔化し、強調する様に、

「他意などありませんわぁ! そ、それに勇者は他に九九人も居ますのよぉ! 一人くらい「使えない勇者」が居ても何の問題もありませんでぇすわぁ!」

(使えない勇者ぁあぁ?!?)

 ここ最近で一番のショックを受けるラディッシュ。


 しかし照れを誤魔化すのに必死で気付かぬドロプウォートの暴走発言は止まらず、

「く、国を護る四大貴族が一子である「このワタクシ」が、な、何故にこの様な『最弱勇者』に何を思うと言うのでぇすぅ!」

 不愉快を演じてプイッと横を向いたが、逸らした先で、


(またぁやってしまいましたわぁーーーッ!!!)


 心の中で頭を抱えて言い過ぎを激しく猛省。

 とは言え彼女の「悲しき悔悟」など知る由も無いラディッシュは、言われた言葉の全てが思い当たり、その身に突き刺さり、

(そうだよ……そうだよな……僕なんか…………)

 内心では酷く落ち込みつつも、場の空気が今以上に悪くならないよう精一杯の作り笑顔でお茶を濁す様に、


「あっははははぁ。なんかぁ不甲斐無い勇者でゴメンねぇ、二人ともぉ♪」


 笑いを交えて背を向け、黙々と調理を再開し始めた。

「…………」

 小さくなった背中に漂う、もの寂しげな哀愁。

 笑い声からも明らかな「無理」が感じ取れ、

「…………」

「「…………」」

 何とも気マズイ空気。


 流石のラミウムも良心が痛み、

(い、言い過ぎたかねぇ……)

(わ、私も言い過ぎてしまいましたわ……)

 アイコンタクトで反省し合う女子二人。


 何とも言えない沈黙の中に「トントン」とこだまする、無言のラディッシュが黙々と奏でる野草を刻む音に、原因を作った女子二人の居た堪れなさは最大値を迎え、

「あ、アタシぁ疲れたからもぅ寝るよぉ!」

「なっ!?」

 ラミウムがドロプウォートを置き去りにベッド代わりの倒木にゴロ寝。明らかな狸寝入りで現実からの逃避行。


(ちょ! ヒキョウですわぁ、ラミッ!)


 期せずして、落ち込むラディッシュへの対応を丸投げされてしまったドロプウォート。

「…………」

 黙々と作業を続ける背中をチラ見。

 しかし見たからと言って、傷つけた張本人であり、「ボッチ」で名を馳せていた「超箱入り娘」の彼女に、傷心のラディッシュを癒す、気の利いた言葉など浮かぶ筈もなく、


(パパぁ~ママぁ~この様な時ぃ、私はぁ何とぉ声を掛けましたら良いのですのぉ~)


 心の中で天を仰ぎ、嘆いてみても、答えは何も降っては来ない。

 失言に対する謝罪をすれば済む話とも思えるが、それも「四大貴族が一子」としての誇りが、努力の末に首席誓約者候補まで上り詰めた自負心が、両輪で邪魔をして頭を下げる事を拒み出来ない。

 良心とプライドの板挟み。

 良心の呵責に耐えられなくなったドロプウォートは悩んだ挙句、


「しょ、食材が足りないようですからワタクシ、採って参りますですわぁ♪」


 誤魔化しの愛想笑いで、逃避行を選択。

 何の解決にもなっていないが、一先ず現場から逃れようとした。

 すると向けられたままのラディッシュの背中から、

「ありがとうございます……ドロプさん……お願いします……」

 今にも消えてしまいそうな、申し訳なさげな声が。


(ううっ……)


 罪悪感に後ろ髪を引かれて足を止め、

「…………」

(や、やはりココは何か一つ気の利いた発言で以って場を和ませませぇんと……)

 悩んだ末に口から出たのは、


「まっ、まったくですわぁ! ワタクシは貴方の従者ではありませんのよぉ!」


 どう考えても傷口に塩の発言に、ギョッとする絶賛狸寝入り中のラミウム。

 しかし一番驚いていたのは言い放った本人で、慣れた言い回しを使って「ラミウムお得意の皮肉」を真似たつもりがド直球。


(ワタクシは、何て事を口走っていますのぉおぉおっぉぉおっぉおぉ!)


 内心ではムンクの叫びの様な顔して青ざめていたが、口から出てしまった言葉は今さら引っ込めようもなく、不機嫌で、憤慨している事を、ことさら強調する様に、

「本当に仕方ありませんですわぁ! まったくぅ! 本当にぃ!」

 森の奥へとズンズン足を踏み鳴らし分け入り、消えて行った。

 次第に遠ざかる足音に、調理の手を一旦止め、


「…………」


 無言で見送るラディッシュ。

(呆れられても仕方が無い、よな……)

 ため息を吐きつつ、不意に感じた「森の静けさ」から漠然とした不安感に苛まれ、

(二人に見捨てられたら、僕どうなっちゃうんだろぅ……)

 女子二人に見限られ、森の中に一人だけ取り残された光景を想像して思わず身震い。


(と、とにかく今は料理を頑張ろう! マズイって言われたら、僕の存在価値が本当に無くなっちゃう!)


 決意を新たに、調理を再開した。

 一方のドロプウォートは森の奥で、

(何故にぃ、私はぁ、こぅも)

 心の中で大泣きしながら巨木の幹に何度も頭突きをし、


(素直でありませんのよぉ~~~)


 猛省中。

 深まる後悔と反省から、

「私ののぉおぉ……」

 次第に激しく打ち震え、悔恨の情が頂点に達した彼女は頭上に向かって、


『おバカァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!』


 大きく咆哮、嘆き声は青空に「カァカァ」とこだました。

 その頃、コダマを耳にした調理中のラディッシュは、

「んん?」

 手を止め、

「カラスぅ?」

 空を見上げ、

(夕方には、まだ早いよねぇ? って言うか、カラスって何だっけ?)

 不思議そうに周囲を見回した。


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