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 二十分ほど経ち――


 未だ落ち込みから立ち直れていないのか、


『お待たせ致しましたわ……』


 仄暗い顔したドロプウォートが山盛りの食材を抱えて戻って来た。いつもの「根拠のない自信」は何処へやら。

 覇気の抜けた表情に、ラディッシュは些か引き気味の愛想笑いで、


「お、お帰りなさぁい」


 迎え入れ、

(元が優等生だから、(料理下手だった事実が)よほどショックだったのかなぁ?)

 心中をおもんぱかっていると、ドロプウォートはそのあからさまな愛想笑いに、


「…………」


 少なからずの違和感を抱きはしたが、その様な事に気を回せる精神的余裕が無い様子で、

「それで、どの様に調理しますですのぉ」

 採って来た食材を、ため息交じりでラディッシュの前に並べた。


 ラディッシュが察した通り、彼女は「知識はあっても料理一つ出来ない現実」を突き付けられ、ショックを受けていたのであった。

 自身を「婿取りの道具」としか見ていない一族(※両親以外)に、平和な時代に生まれた「無用の英雄、先祖返り」と煙たがる世間の人々に、自身の存在を認めさせる為、全てにおいて完璧で、秀逸であろうと思い、他人の意見に流される事無く、独学で努力もして来たつもりでいた。


 しかし、その「積み重ねて来た努力」の一部が付け焼き刃、メッキとして剥がれ落ちてしまい、ショックを隠し切れずにいたのである。


 暗く沈んだドロプウォートの表情から、

(とにかくご飯を食べてもらって、元気になってもらおう。元気の無いドロプウォートさんなんてぇ、ドロプウォートさんらしくないしぃ♪)

 ラディッシュは決意も新たに、


「さてぇ!」


 おもむろに腕まくり。

 調理を始めるのかと思いきや、二人の前で、


「「!!?」」


 いきなりキノコの一つを掴んで、生のまま小さくひと齧り。

 ギョッとするラミウムとドロプウォート。

 

「ちょ! アンタ大丈夫なのかァい!?」

「わっ、ワタクシ生で食べられるかまでは存じませんですわよぉ!?」


 血相を変えて慄く二人に、ラディッシュはドコ吹く風。


「もぅ大袈裟だなぁ~」


 ケラケラと笑いながら、

「味を確認するのに端をチョット齧っただけじゃないかぁ~」

 次々小さく齧って行き、


((ほ、本当に大丈夫((なのかぁい・ですのぉ))?!))


 固唾を呑んで見守る二人を前に、

「でも……」

 神妙な面持ちで試食の手を止め、


「「でも?」」


 二人が不安げに身を乗り出すと、


『心配してくれてありがとう♪』


 スキル「キラッキラの超絶イケメンスマイル」が無自覚発動。

 本人すら予期せぬ一撃で、


『『はぁぅ!』』


 女子二人は無防備状態であったハートを容赦なく撃ち抜かれた。

 ラミウムは慌てて背を向け、真っ赤な顔して両手で胸を押さえ、


(おぉ落ち着けぇアタシィ~! 落ち着くんだよぉ~!)


 ふらつく体を巨木の幹に手を着き支え、


(アレ(容姿)は、アタシが(ステ振りして)造ったモンじゃなぁいかぁあぁい!)


 ゲームなどでアバターを作った時、そこに自身の「好みの相手の姿」を投影させた覚えのある人は少なくない筈。

 当然の事ながらラディッシュの「今の容姿」も、ラミウム自身に自覚があったかは別にして、彼女の好みの集合体。その様な者に「キラッキラの笑顔」を向けられては、さしもの勝気なラミウムもイチコロなのは当然なのである。


(落ち着くんだアタシぃ~! あんなヘタレぃに動揺してどぅすんだぁい!)


 己を取り戻そうと、深く、深く深呼吸するのであったが、一方の「超」が付く程の「箱入り娘」ドロプウォートは更に深刻。

 女性が造った「女性が好む容姿」を持ったラディッシュは、言わば姫ゲームに出て来る「イケボを持った超イケメンキャラ」のようなもの。


 その姿、形が好みのど真ん中といかずとも、男性免疫が皆無に等しい彼女にとっては気絶ものの刺激物であり、キラキラスマイルを直視する事も出来ず、真っ赤な顔して両手で顔を覆い、


(おっ、落ち着くのですわぁワタクシィイィィ! ワタクシは四大貴族が令嬢にして誉れ高き「誓約者(※自称)の一人」ですわぁあぁ!)


 自身に厳しく言い聞かせ、

(こっ、この様な「顔だけの軟弱勇者」に心を揺さぶられてどぉうしますのぉおぉぉ!)

 律しつつ、

(そ、そうですわ! この動揺は不意を受けて驚いての事ですわ! ですから今なら、)

 指の隙間から、そぉ~~~っと様子を窺うも、


「ん?」


 そこには不思議そうな顔して見つめる、イケメンスマイルの首傾げが。


(ひぃうっ! それはぁ反則ですわぁあぁっぁあぁ!!!)


 無垢な乙女心は更に深く射抜かれ、もはや失神寸前。

 しかし、当のラディッシュに「女心を射抜こう」などと大それた考えは毛頭無く、彼女たちが突如見せた狼狽の意味さえ、元「否モテ少年」に分かる筈もなし。


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