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 しかし、ここで両親を引き合いに弱音を吐くは、それこそ四大貴族令嬢の名折れ。


 凛然とした表情で天を見上げ、四大貴族が一子として、

「闘技場の皆様は、ご無事なのでしょうか」

 国王のみならず、国政を担う要人も集まっていた闘技場の人々を思い量っていると、

「さぁてねぇ」

「なッ?!」

「まぁ、戻ってみりゃあ分かるって話さぁねぇ」

 中世に生きる人々の身を案じる様子も見えない言動に、


(何て物言いですのぉ!)


 強い不信感を抱いたが、相手が相手なだけに感情を露骨に表に出す訳にはいかず、

(全ての天世人様が、この様(薄情)な方だとは思いたくありませんわ!)

 怒りをグッとウチに押し留め、


「ならば、いつまでもこの様な場所に座っている場合ではありませんわ!」


 正論を以って、巨木の太枝に未だ座するラミウムに幾ばくかの当て付けをする「立っていたドロプウォート」であったが、城に向かって歩き出そうとし、

「…………」

 右も左も同じに見える、仄暗き深い森。

「いったい、どちらへ進めば良いと言うのでしょう……」

 途方に暮れていると、未だ太枝に座したままのラミウムが、ダルそうな動きで一方向をスッと指差し、


「北東を目指して進みゃあ、いつかは城に着くさぁね」

「北東……北東と言う事は、私たちは南西に飛ばされ・・・・・・」


 フリーズしたかの様に動きを止め、一拍置いてから、


『南西ですってぇえっぇえぇぇっぇぇえぇ?!』


 怒りから一転、両目が飛び出そうなほどの驚きをするドロプウォート。

 冷静さを欠いた姿に、元イケてない少年は言い知れぬ不安を覚え、

「ちょ、ちょっ止めてよぉドロプウォートさん。その反応ぉメチャ怖いんですけど……」

 怯えた表情で周囲を窺いつつ、


「な、なんかマズイのぉ?!」


 するとドロプウォートが緊張感を持った表情で振り返り、

「この地は恐らく、領内の南西にある広大な森ですわ。そして、この場所が本当に「南西の森」でしたら……」

「もっ、森だったらぁ?」

 緊張感を纏った、勿体を付けた物言いに思わず固唾を呑み、答えを待つと、

「国では忌み名として『不帰かえらずの森』と呼ばれている場所ですわぁ」

「い、「忌み名」ぁ?! 帰らずぅ?!!!」

 悪寒が走り、背筋がザワザワとざわめいたが、芽生えた恐怖心を自ら紛らわせようと冗談めかした半笑いで以って、


「おっ、おとぎ話の類いの話なんだよねぇ♪」


 横顔を覗き込むと、ドロプウォートは真っ青な顔したうつむき加減で、

「立ち入った者が誰一人として帰って来ませんの……」

「うっ、ウソでしょ?!」

「嘘ではありませんわ!」

 畏れすら抱いた顔を上げ、

「現に北側以外を海に囲まれたこの国は、国防や国益において支障が無いからと、この地をあえて放置していますの! ですから無暗に足を踏み入れて帰らなかった者は、その身を案じられるより、むしろ「愚か者」と嘲られ、」

「ひぅ!」

 得体の知れない何かに怯え、ドロプウォートの腕にしがみ付くイケメン少年勇者。

「「…………」」

 二人は恐怖を露わに周囲を見回し、果てしなく続くかに見える「森の深き暗さ」に息を飲むと、


『キッシッシぃ!』


 巨木の上から愉快そうな笑い声が降り注ぎ、

「「?!」」

 見上げると、

「何が来ても勝ちゃあ良いのさぁね!」

 ラミウムが、さも当然と言った物言いで飛び降りて来て、


「と、言う訳で頼んだよ優等生ぇ! いやぁ「自称誓約者」ってかぁ? クックック」


 ニヤケ顔に、畏敬も忘れてムッとするドロプウォート。

 相手が天世人だからと我慢して来たが、何度も何度も小馬鹿にされては流石に腹に据えかね、


「ワタクシは確かに優秀ですが「優等生」でもなければ「自称誓約者」でもありませんですわぁ!」


 皮肉に対して不快感露わに、未だ腕にしがみ付くイケメン少年勇者を見下ろし、

「それに誰がこの様な「軟弱男」と誓約などぉ!」

 素気無く振り払うとしたが、

「ひぃうぅ……」

 捨てられた子犬の様な眼差しを再び向けられ、


(はぅ!)


 超箱入り娘の乙女心は更に、深く、強く射抜かれ、表面上は辛うじて怒りを保ちながらも心の中では、

(こっ、このぉ顔ぉおぉわぁ~もぅ反則でぇすわぁあぁあぁぁ~~~)

 もはや罵る事も、振り払う事も出来ずにいたが、今さら「振りかざした怒り」を着地点無く収める事などラミウムの前では決まりが悪く、


「そっ、そもそもぉ!」


 咄嗟の思い付きで話の矛先を変えようと、

「ラミウム様は戦って下さらないのですかぁ!」

 しかし、

「聖具が無いつったろぉ?」

 ラミウムは呆れ顔した正論で、いとも容易く返し、

(うぐ……そぅでしたわぁ……)

 言葉に詰まるドロプウォート。


 自ら傷口を広げ、更なる墓穴を掘った形になってしまったが、根っからの負けず嫌いも手伝い引っ込みがつかず、

「そ、そんな事を仰ってぇまかり無数の敵に襲われたらどうするおつもりですのぉ!」

 食い下がると、腕にしがみ付くだけのイケメン少年勇者が、

「あ、あのぉ……」

 おずおずと、

「そう言う「フラグ」は立てない方が……」

「「ふらぐ」って何を言ってますのぉ!」

「ヒィウゥ!」

 怯えて縮こまる頭上に向けて容赦なく、


「貴方も貴方でぇ、いつまでワタクシにしがみ付いておりますのぉ! 勇者ならもっと勇者らしくぅ!」


 揺れる乙女心を悟られぬ為の、あえての「強い叱責」であったが、真っ青な顔してカタカタと震えだすイケメン少年の姿に、

「!?」

(いっ、言い過ぎてしまいましたわぁ?!)

 怒鳴りつけて早々、早くも強く後悔するドロプウォートであったが、


「ん?」


 イケメン少年勇者の怯えた眼が自分にではなく、背後の森へ向いているのに気付いた。

 本来ならば、何かしらの存在を警戒すべき所であるが、

(ははぁ~ん、なるほどですのぉ♪)

 イケメン少年の心理を深読みし、


(悪し様に怒られた事に対する反撃のつもりで、脅かそうと言う訳ですのねぇ~)


 余裕の笑みで以って、

「その様な手段で驚かせようとしても、」

 視線を辿って振り返り、

「私には通用しま……」

 絶句。


 暗き森の奥、闇に赤黒く光る幾つもの、眼、眼、眼、眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼。

 

 冷や汗を垂れ流すラミウム。

「こっ、コイツぁ……」

 ジリッジリリッと後退り、

「に……」

「「にぃ?!」」

 答えを待つ二人を前に、

 

「逃げろぉおぉぉおっぉっぉぉぉおぉぉぉおぉぉおっぉぉぉぉぉ!」


 置き去り先陣切って猛ダッシュ。

 土煙を上げて一人逃げ去る背中に、

「中世の民を護るのが天世人の務めではないのですかぁーーーッ!」

「おぉ置いてかないでよぉおぉぉっぉぉおぉーーーっ!」

 二人も全力ダッシュで猛追。

 すると背後から、


『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ギャゥガァーーーーーーッ!!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』


 鼓膜を突き破りそうな猛り声と地鳴りが。

 必至に逃げ走る三人は振り返る余裕さえ無く、

「ラミウム様ァ! 今こそ天法で何とかなさってぇえぇ!」

「ざぁけんじゃないよォ! あんな数を相手に呑気に詠唱してたら喰われっちまうだろが! アタシぁ中世の民なんぞの為に、獣のウンコになるつもりは無いねぇ! 命あっての物種さァねぇ!」

「何ですってぇえぇ!」

「ラミウム、ぶっちゃけ過ぎだよぉぅうぅ!」

 全力疾走しながら平然と言ってのけるラミウムに二人も全力疾走しながらツッコムと、

「ラディッシュ!」

((?!))

 必死の形相で走るラミウムは必死の形相で並走する二つの「きょとん顔」に、


「アンタは「アタシの勇者」なんだからアタシの代わりに奴らのエサになって来なァ!」

「!」

(「ラディッシュ」って僕の名前ぇえぇ?!)


 血反吐を吐きそうな形相で走るイケメン少年は血相変えを上乗せし、

「冗談じゃないよぉ! って言うか「ラディッシュ」って「大根」でしょぉおぉ!」

「記憶を奪った後でアタシが付けたのさぁねぇ!」

「よりによって何でそんな美味しそうな名前にしたのぉさぁ! この状況でシャレになってないよぉおおぉぉ!」

「アンタ等の世界の花言葉ってヤツで「潔白と適応力」ってんだろぉ! 汚名を着せられたアンタにゃ「おあつらえの名前」だろうさぁねぇぇえぇ!」

「そんなのぉ知らないよぉおぉぉおぉ!」


 汗だくで走りながら罵り合いをしていると、


「お二人ともその様な事を言い合っている場合ですのぉお!」

「「!?」」

 先行するドロプウォートの焦り声で後ろを振り返れば、


「「!!!」」


 赤黒い目をして鋭い牙を剥き出しに土煙を上げ迫る、多種多様な、おびただしい数の肉食系猛獣御一行様の御姿が。


「ヤツ等のクソになりたくなきゃ死ぬ気で走るんだよぉおぉぉぉぉーーーーーーーー!」

「ヒィヤダァアァァァッァァァアァァッァアァアァーーーーーーーーーーーーーーー!」

「御便(おべん:ウンチの意)になるのはイヤですわぁあぁぁあぁぁぁーーーーーー!」


 雲一つない穏やかな青空の下、三人の逃走劇は果てなく続く。



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