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 中世は少なからず、地世に汚染されている。


 意識して汚染から免れようと、天世の庇護下で生きている中世の人々ならいざ知らず、本能のまま生きている野生動物にその様な理屈は通用しない。

 そんな生き物に天世人が直接手で触れると、地世のチカラに穢されてしまう事は、この世界の常識であり、ラミウムの言う事は正論でもあったが、彼女の丸投げな態度が腹に据えかね、皮肉の一つも言わずにおれず、

「聖なる武具や防具が無くとも! 天法(てんほう:この世界における魔法的な物)での御助力でしたら!」

「イヤだねぇ!」

「なっ!」

 素っ気なく斬って落とすラミウムに、

「ですが先の闘技場ではァ!」

「だぁから疲れたんだよぉ」

「つっ?!」

 疲れたと言う割には疲れを感じさせない、面倒臭いと思っているとしか考えられない投げやりな物言いに、


(貴方と言う方はァアァッ!!!)


 内なる怒りで打ち震え、

「中世の民を護る「天世の方」のお言葉とは思えませんわぁ!」

 しかしラミウムは巨木の上から悪びれる様子も見せず、口元には皮肉った笑みさえ浮かべ、

「そうかぁいよ?」

 見下ろす顔に、ドロプウォートは天世人に対する忖度も忘れ、

(グクッ!)

 歯ぎしりしたが、信仰対象でもある「百人の天世人」に、悪し様に怒りをぶつける事など「この世界の理」として許されず、堪え切れない怒りの矛先は、未だ泣きながら腹にまとわりつくイケメン少年勇者に自然と向き、


「いつまでしがみ付いているのですかァ!」

 ガァン!

「痛でぇ!」


 後頭部に肘打ち、もはや単なる八つ当たり。

 先程までの「デレ」の部分は何処へ行ってしまったのか。

 すっかりヘソを曲げ、後頭部を擦るヘタレ勇者を尻目に、


「ふん!」


 ツンとソッポを向いたが、一撃食らわせた事で怒りのガス抜きが出来たのか、幾分冷静さを取り戻した表情で、

「それに致しましても……」

 改めて周囲を見回し、どこまでもうっそうと茂る仄暗い森に、

「ここは何処なのでしょう……それに何故にこのような事に……」

 森の暗さは否応なく不安を煽り、


(お父様やお母様は、ご無事なのでしょうか……)


 家格第一主義の一族の中にあって唯一の理解者でもあった両親の安否を案じていると、


『場所は分からないが「何が起きたかは」察しが付くさぁね』

「「え?」」


 巨木の太枝に座するラミウムの声に、見上げる二人。

 するとラミウムは何故か愉快そうに、

「黒ローブが何人か居たろぅ?」

「え、えぇ……」

「ありゃあ「地世信奉者」の連中さぁね」

「あっ、あり得ませんですわァ!」

 怒り交じりに血相を変えるドロプウォート。


 とある理由により、貴族、王族のみならず、身内である筈のオエナンサ家からさえも腫れ物扱いされている彼女であったが、「理由」に対して自覚があるが故に、愛国心は失ず、騎士、兵士たちの事も信頼はしている様子で、

 

「王都の! しかも厳戒態勢で行う「勇者百人召喚の儀」に地世信奉者の侵入を許すなど断じてありませんですわァ!」


 熱を以って反論したが、ラミウムは「その想い」さえ嘲るように鼻先で「クックック」と笑い、

「アタシと同じ変わり者でも、世間知らずは連中(百人の誓約者)と同じってかぁい?」

「なんですってぇ!」

「大方「金に目がくらんだヤツ」が手引きしたんだろうさぁ。いや、あの手際の良さから見て「ヤツ等」と言った方が正確かねぇ~」

「そんな!」

 驚愕するドロプウォートを前に、ラミウムはヤレヤレ顔の半笑いで以って、


「組織ってぇのはぁデカくなればなるほど統制が取れ難くなるモンさぁね。なぁ~に、平和ボケした大国には良くある話さぁね」


 愉快そうに「キッシッシ」と一笑い、

「まぁ、そう言う気概のねぇ輩は利用されるだけされて「殺され損」てのが、大方のオチさぁね」

「あり得ませんわぁ!」

 うつむきかけた顔を上げ、


「勇者と誓約者を輩出する由緒正しき我が国において、その様な者たちなどぉ!」

「国を支える四本柱が一つ、オエナンサ家の一人娘としちゃ~認めたくない事実なんだろぅけどねぇ~。それ以外に、アタシを論破出来る明確な答えがあるってのかぁい?」


 ラミウムの言う通り、起きた事象をひいき目なしで鑑みれば反論の余地は無く、母国の不名誉さえ拭い去る事さえ出来ない己の無力を痛感し、

「クッ……」

 悔し気に奥歯を噛み締め、

「ならば……ならば何故にワタクシ達は飛ばされたのです」

「んぁ? あぁ~それかい? ソイツは簡単な話さぁね」

「「え?」」

「ヤツ等のチカラを弾き返そうと思ったんだがねぇ、何せアチラさんの下準備が完璧すぎて間に合わなくてねぇ~まぁ要するに、押し合いに負けたアタシが「弾き飛ばされちまった」って訳さぁ~ね」

 悪びれた様子も見せずにケタケタ笑う姿に、


「じゃあ僕とドロプウォートさんは、巻き添えなのぉ?」


 軽い気持ちで首を傾げた途端、

「人聞きの悪い事をお言いでないよォ、ヘタレ勇者がァ!」

「ヒヤィ!」

 突如、頭上から降り注ぐ雷の様な剣幕に、イケメン少年勇者はドロプウォートの背に隠れたが、ラミウムの怒りは収まること無く、

「何が仕掛けられていたかも分からない得体の知れない地法ちほうの一撃を、アンタは食らってた方がマシだったとでも言うのかァい!」

「ごめんなさい! ごめんなさぁい!! ごめんなさぁーーーいぃ!!!」

 平謝りするイケメン。


 そんな彼を背にするドロプウォートの脳裏をよぎるは、

(パパ……ママ……)

 四大貴族席に座っていた両親の姿であった。


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