サメさんは、悟るのです
サメです。
今は、2枚目のワンピースを着ているので、サメと思う人はいませんが。わたしは、べつに、サメ顔ではないから。教え子に脅迫もされないし。
プリティキュートをウリにしていきたいお年頃です。
あ、今のログは消しておこう。ぶりっ子アピールを消しておこう。
今は、シェーラちゃんの後ろに、微笑ましくついていってます。わたしは、今、シェーラちゃんのお姉さんから、かっこいいアーマーをもらい受けるために挨拶に出向いています。
向こうにある同じような木造家屋の場所にいるそうです。病気になると、一箇所に集められるそうです。それって、なんの感染症?
まあ、原始社会に近いようだし、特に気にせずスタコラと入れますが。アルコール消毒とかマスクとか入りませんか。まあ、VRゲームで、風邪の症状とか機能につけないでしょうから、わたしは完璧な健康優良児。
「お姉ちゃん、サメさん、連れてきたよ〜」
はーい、サメでーす。
みんなー、応援してね。
「ごほっ、ごほっ。あ、いらしゃい、シェーラ。それに、サメさん」
それは、わたしの名前ではないのですが。わたしには、ちゃんとサーシャという名前が……偽名ですけど。
というか、いるのは、この人だけか。思ったより、おっとりしている。もっと、刀の錆にしてくれるわ、的な人を想定していたのに。だって、アーマー着て、戦っているんだよ。好戦的な人を想像するよね。
「この度は、村を守ってくださり、ありがとうございます」
「いえいえ。ただ退けただけです。まあ、何匹かは倒しましたけど」
主に、自滅なんだけどねー。
ウルフたちは、【サメハダ】の恐ろしさを知っただろう。しかし、本当の恐ろしさを知っているのは、わたしだけです。触れると傷つけてしまうなんて、どこのポエムなんだろう。幸い、白い部分は【サメハダ】の効果は、ないみたいだけど。ほとんど全身青いので、ああ、ハリネズミ。
「なにか村でお礼をしたいのですが。それに、シェーラも助けてもらったようですし」
シェーラちゃんは、姉の近くで、タオルを変えたり、食事を片付けたりしている。
アーマーが欲しいです、と言いたい。言いたいけど……、やっぱり無理かなぁ。なんだか、お姉さん、弱々しいし。この人から貰っていくのは、さすがに気が引ける。わたしの良心の呵責が胸をさいなむよ。
「なんでも言って。できることはしますから」
「いいえ、なにも、いりませんよ」
ふっ、言ってしまった。
人生で一度は言ってみたい、善人セリフ。何かをしてあげた後に、礼はいらないぜ、と。
これで、去って行けたら、カッコいいんだけど。いや、去ったら、なにも解決しないか。
「お姉さんは、いつから寝込んでいるの」
看病を終えて、わたしの横に戻ってきたシェーラちゃんに尋ねた。
「二週間前ぐらいです」
「原因は?」
そう、原因だよ。それを追いかけるべき。あれ、わたし、ログアウト……。いやいや、弱っている人を見たら助けないといけない。
だって、わたしは、サメだから。
意味不明。
照れ隠しです。
とにかく、この村を見捨てて、町や都市に行くのは、サメ的にノーなんです。陸上のサメは慈愛に満ちています。いいことをしてたら、ログアウトできるかもしれないし、急がば回れとも言いますし。
「原因は、分かりません」
あ、そうですよね。原因がすぐ分かれば、誰も苦労しませんよね。
えっと、蚊に刺されたとかかな。
ーーここ、VR世界だった。
そんな蚊とかで伝染病みたいなノリのファンタジーゲームは嫌だよ。殺人アメーバとか出ないよね。
なんらかのスキルや魔法や呪いなんだろうけど、わたしも全くこの世界に詳しくないからなぁ。知識チートができない。なんでスマートフォンを持ってこなかったのか。今なら、ワンピース姿で、つつけるのに。
「お姉さんは、戦闘中に怪我とかした?」
「ううん、怪我なんてしなかったけど。戦った後ぐらいに、最近具合が悪くなってーー」
うーむ、やはり、何か毒のようなものでもくらったのか。鑑定スキルを持たないんです。サメだけど、鑑定スキルがないんです。蜘蛛ですら持っているのに。サメにはないんです。
サメさんは、圧倒的、知識不足に悩んでいます。
いや、今は、ワンピース少女だ。
サメサメ言いすぎて、サメ気分が抜けなくなってきた。
「あれ、そういえば、どうして、他の人は、アーマーを着ないの?」
「お姉ちゃん、アーマーは所有者しか着れないよ」
あ、はい。
え、じゃあ、わたし、あのアーマー着れないの。
「お姉ちゃんが亡くなれば、誰でも着れるようになるけど。たぶん、次は私が着る番」
わーい、絶対、アーマーもらえないよ。
そして、もう一個疑問。
「なんで、お姉さんが着てるの?」
「あのアーマーは、女性しか着れないから。ちょうどいい人がお姉ちゃんで」
まあ、10軒程度の家しかないし、総勢100人もいないだろうし。
「お姉さんでも、病弱そうに見えるんだけど」
「戦う前は、もっと健康的だったから」
ピンときました。
わたし、理解しました。
要するに、呪いの装備なんですね、アレ。
経験者は知っている。
アーマーさんは、結構、使い勝手が悪くて、デバフもあると。サメさん装備も、なかなか変なスキルがありますし。
そうと決まればーー、鑑定スキルがない。
とりあえず、壊してみたら怒られそう。
ダメ元でーー。
「鑑定スキルって、持ってない?」
「鑑定?」
鑑定が通じない。
サメが通じるのに。
「アーマーのスキルが分からないかなぁ、なんて」
「お姉ちゃんが知ってるはずです。アーマーを着ると、スキルが分かるそうだから」
「なぁに、二人でずっとヒソヒソと話して」
ごめんなさい。二人だけの世界にいました。
「お姉さん、そのアーマーのスキルで、変なスキルありませんか?」
まだ名前を聞いてなかった。コミュ力が下がっています。サメになったせいです。現実世界のわたしは、もっとフレンドリーで円滑な社交ができます。誰に言ってんだろ。
まあ、名前はいいや。それよりもーー。
「そうねぇ。吸血とか日光弱体化とか、いろいろあるけど」
吸血鬼、絶対吸血鬼じゃないですか。
え、やだ、カッコいい。
え、まさか、まさかーー。
「そういえば、純潔とかーー」
あ、最低だ。このゲーム作った人、最低だ。処女の生き血万歳なんだろ。
わたしは、女性しか着れない変態装備を欲しがっていたのか。サメの方が百倍マシです。
で、わたしはなにを指摘すればいいのだろう。
「ゴニョゴニョーー」
お姉さんの耳元で、憶測を話す。シェーラちゃんには、まだ早いよ。サメは、生き血を区別しないけど、吸血鬼は変態だから。イケメンが多そうだけど、変態だから。
「な、なるほど」
「どうですか」
「そうですね、村だと、15歳で、みんなーー」
ああ、原始社会。
全員、村の子供なんですよねー。
てか、ここだと、わたしもそろそろなの。
待って、身体は乙女。心も乙女だから。
VRでも経験ないんだから。
このゲームは、プレイヤーにそんな機能ないからなにも心配しないけど。全年齢版の全裸だったし。15歳の美少女、全裸待機モードを確認済みです。
「でも、どうすれば」
「吸血すれば治りませんか?」
「したことなくて」
やっぱり、勝手にアーマーがお姉さんの血を吸ってたんだろうな。
ゲーム制作者出てこい、もっとまともな装備を作りなさい!!
「吸っていいよ」
「え、でも」
大丈夫、大丈夫、どうせ、この世界で死ぬわけないし。
そうだよね、吸血スキルって、死ぬまで吸われないよね。
さあ、早く吸血童貞を卒業するんだ!!
第四真祖になれませんよ!!
「わたし、今、装備してないんですけど」
あ、そうですよね。
胸のロザリオがないから、ヴァンパイア状態かと。
じゃあ、アーマー持ってくるんで、かぷっちゅーとやってください。
さあ、人間に混じったサメから血を吸うんだサメ。
このあと、無茶苦茶、血を吸われた。
ーーーーげっそりしました。
でも、お姉さんはツヤツヤになりました。
なんだ、このゲームっ。
早く血を蓄えないと!!
肉、肉食べないと!!