サメさん、食べます
「シェロウ、お腹が空きました」
ダメです。このVR世界から一人SA○が止まりそうにありません。脱出手段がわかりません。そろそろ、ゲーム時間では12時間経っているはずですが。いつもなら、テストの一夜漬けに使う精神と時の部屋も、今のわたしには、……、というか、勉強道具もないですし。
どなたか、わたしのVRデバイスの脳内ログから判断して、外側から世界をシャットダウンしてくれませんか。
ねえ、そこにいるあなたです。
アルパカマンさん。
アルパカの着ぐるみを着ていても、中身は全裸待機のあなたです。
ハァ、なにしているんだろう、わたし。
そして、わたしは、今、はらぺこ系ヒロインルートを邁進しています。このままでは、わたしは、五等分されそうなんです。糖分が要ります。限界になると、頭にかじりつくようになるに違いないです。
「これ、昨日のお肉です」
あ、盛りがっていたんですね。まあ、勝利の宴は重要ですよね。立役者であるサメ子ちゃん不在なのに。
「シェーラちゃん、その前に服をーー」
「また、全裸になりません?」
「うんうん、ならない。ならない」
そんな全裸がファッションみたいに言わないでよ。全裸でも気にしない系女子なんて、現実にはいませんよ。わたしは、ただ夜は服を着ないだけです。
ーー嘘です。着たいです。
同じようなワンピースと下着をもらって、着ました。
ああ、文明的。
着ぐるみは、ちょっと文明を通り越して、前衛的なんです。
いつも服を脱いでから、メガロドンを着ることにしよう。
なんで魔法少女のように、服が元に戻らないのだろう。理不尽です。
「ウルフたちは去っていったようだけど、大丈夫そうなの?」
わたしは、朝からお肉をバクバクと食べながら、シェーラちゃんに訊ねる。やっぱり、パイソンの方が美味しかったなぁ。
「たぶんですけど。ウルフは賢いので、一度負けると中々近づいてきません。それに服従のポーズもしていましたし」
お腹ゴロンね。
でも、わたしの臭いがなくなったら、また襲いに来るんじゃあーー。どういうアルゴリズムで動いているか分からないけど。
それにしても、このゲームのNPCは本物みたいだなぁ。まるで生きているみたい。よくできてる。海外で話題になるはずだ。わたしも試作版のプレイヤーに当たれば良かったのに。
「お姉ちゃんは、これから、どうするつもりなの?」
「とりあえず、宿のある町に行きたいんだけど」
「えっと、ここからだと、かなり遠いよ」
「でも、村だよね、ここーー」
「僻地にある村だから」
あー、これは逆走していたということかな。太陽とは真逆に行けばよかったか。東にこそ、エデンがあるんですよね。
あの大草原にまた、戻らないといけないのか。
うん、やっぱり、ウルフと友達になろう。
同じ獣同士、きっとうまくやれるよ。
『シャーク・ワールド・エボリューションーーライド』ですね。モンスターを乗りこなすぐらい簡単だよね。
まあ、問題は、【サメハダ】のせいで、きっとワンピースで乗ることになることかな。
まあ、全裸よりもマシか。
ん?
わたしはシェーラちゃんの家にかかっているものに気づいた。
どう見ても、装備、つまりは、メガロドンと同じアーマーだ。革鎧とかそんなんじゃなくて、もっと厳つい黒い甲冑の装備があった。完全に女子の家にはミスマッチだ。
よく気付かなかったな、わたし。
目の前のお肉に夢中でした。
おにく、お肉ー、おっにっくー。
「シェーラちゃん、あれは?」
「あれは、お姉ちゃんのアーマーです」
「そっか、お姉さんは、もう……」
「いえ、生きてますよ。病気で、別の家にいるんです」
あ、戦って、死んだのかと思ってました。
で、そのカッコ良さそうなアーマーを手に入れるイベントはないのでしょうか。サメは好きなのですが、このそうび、普段着には向かないようで。
宿のある町に行けば、もれなく人を傷つけそうだし。
「お姉ちゃんにも挨拶していきますか?」
「うん」
さあ、鎧ゲットイベントであって頂戴。
そうすれば、これからログアウトまでスムーズにすみそう。移動が楽になりそう。できれば、ワンピースでもワンちゃんには乗りたくない。恥ずかしいし、防御力の心配が。痛いのは嫌なのです。
でも、この村の唯一のアーマーみたいだし……、無理かなぁ。