寝るサメは育つ……
お茶を飲みながら、世間話に花を咲かせる。
嘘です。
ウルフの肉の話です。解体して、食べるために、今、血抜きをしているらしい。あー、リアリティ。
サメさんはお休みを所望です。ログアウトのために。
でも、宿はないだろうしーー。
わたし、本当に、12時間、ゲーム世界にいるの。
そういえば、現実世界とゲーム世界の時間変換最大にしてなかった。ゲーム世界の1日は、向こうだと……、いや、考えるのは、よそう。とんでもないことに、気づきそうだから。精神と時のサンドボックス。
わたし、15歳だけど、VRやり過ぎて、もうお酒飲んでもいい気がしている系オタク女子になってるけど、身体は子供、頭脳は乙女でいたいです。
「眠そうですね」
「うーん、歩き疲れて」
家のベッドでだらりとしたい。ここって、毛皮に雑魚寝かな。羽毛布団はありますか。お寿司とラーメンも欲しい。
そういえば、メガロドンに【快眠】ってスキルがあったなぁ。寝巻きになるのかな。
「クレイヴさん、お肉はまた明日の夜にしましょう。わたし、サーシャさんを寝かしてきます」
やった。これでログアウトして、家のベッドに戻って、ダイエット・コークを飲もう。もう清涼飲料水に飢えているんです。お茶、美味しかったです。でも、でもーー文明人には、刺激がいるのです。干物になりたい。UMAではないですよ。
「ウッ、ウルフが攻めてきているぞっ!!」
大声が集落に鳴り響いた。
とたんに集落はざわつき、大勢の人ーー40人ほどの大人が集まってきていた。
わたしは、邪魔にならないように、家の隅へと、縮こまった。チラチラと不審げにみられるけど、そんなことを気にしている時間はなさそうだ。
ポーズボタンが欲しいです。初めにチュートリアルでもあればよかったのに。まあ、説明書を読みなさいということだけど、VRゲームやりながら読めないなんてーー。
「クレイヴさん、今、60頭以上のウルフが、この集落を取り囲んでいます」
「とにかく、まずは女子供は、隠れ家に隠れるように」
「サーシャさん、行きますよ。隠れれる地下室が、村の中央にあるヤシロの下にありますから」
わたし、サメであって、女の子じゃないんだけど。ある時はサメ、ある時は女子。果たして、その正体はーーーー。
「シェーラちゃん、勝てるの?」
「わ、わからないです。以前は、お姉ちゃんが、やっつけていたんだけど」
「お姉ちゃんーー、シェーラちゃん、お姉さんがいるの?」
「いえ、血とか繋がってないですけど、歳の近い、サーシャさんぐらいの、アーマーを使える……」
これは、シェーラちゃんの顔を見るかぎり、すでに亡くなってしまったということだろうか。まあ、こんな世界観だし、仕方ないよね。わたしも、サメの着ぐるみがなければ、死んでーー、あれ、HPがゼロになれば、自動的に帰れたり……いや、でも、このゲーム世界って痛覚が激しすぎるんだよなぁ。ああ、なんでわたしはデバイスの設定を換えてから、このゲームをやり始めなかったのか、悔やまれます。
まあ、とにかく、こういうお約束展開には、お約束展開で返さないと。
【メガロドン】を装備。
『【衣服破壊】により、衣服を破壊しました』
あーあー聞こえない。聞こえなーーーーーーい!!
どうせ、そんなオチだと思ってました。
服を食べるなっ!
マイクロプラスチックを食べさせますよ。
「クレイヴさん、わたしがウルフを倒してきましょう」
「お嬢ちゃん」
「サメ」
「サメだ」
「サメ……可愛い」
サメ、なんで、こんな集落の人まで知っているの。
このゲーム、『シャーク・ワールド・エボリューション』じゃないよ。
では、行きますかね、ロシアのマン・イーターが。いや、ウルフ・イーターですね。ただし、聖剣は使えない。
わたし、サーシャですから。