鮫終わり
「どうして誰もいないんだろう。出現地点はみんなバラバラなのかな」
それとも、この大陸だけで3000万キロだから、他の大陸もあって――やばいぐらい広大そうだな。
とりあえず、走れ――。
太陽が沈む方へ。
【鈍足】では、時間がかかりすぎる。村にいけばウルフを借りれるはず。ついでに吸血鬼アーマーのお姉さんがわたしのメカシャークに乗ってくれるとありがたい。
夕暮れの中、集落になんとかたどり着いた。そこそこに挨拶を終えて、ウルフを一頭借りる。
お姉さんは、メカシャークにポカンとしながら、分からないと一言。他の村人も同上。
やはりシェーラちゃん、天才NPCだったか。これは失うのが惜しいよ。お助けキャラ的チートNPCだった。
ウルフで都市アズールに急行した。タイムリミットが――、二重の意味で迫っていた。
シェーラちゃんの食料事情とわたしの学校の時間。正式版になって、ちゃんとリアルの時間も確認できるようになりました。痛覚の設定も最小値に。
「くっ、この世界の住人と関わっていなかったことがアダに」
都市アズールに急行したのはいいものの、そもそも知り合いがいない。鮫だ、鮫だ、言われるけど。だれが、僕に乗って、一緒に戦ってくれないか。今、必要なのは、サメの運転経験がある人です。
街中をうろうろとしながら、なんとかならないかと考えていると――
「お姉ちゃーんっ」と呼ばれる声がした。もしかして、シェーラちゃんもワープさせてもらったのかと、一縷の期待をしたけど、いたのは、45歳の少女でした。砂漠の悪夢です。
「きみも、魔法少女にならないか」
うん、こいつでいいや。砂漠の置き土産。アーマーが欲しいと言っていたな、わたし自身がアーマーになってあげようじゃないか。さぁ、乗れ。運転はできるでしょ。犯罪者にチャンスをあげようじゃないか、海の孤島を探すというな。
「えっ、わたし、もう魔法少女なんかできる年齢じゃ……」
「【メカシャーク】」
「ちょ、これっ!?どうみても、魔法少女が着用するには、でかすぎない」
魔装だよ、大丈夫Hじゃないから。運転できるよね、いや、もうそれが一番の心配。
「背ビレから乗るのね。じゃあ、ちょっとお邪魔して――」
うんうん、なんか運転できそう。
「どこまでだ、連れてってあげるわ」
急に、助けに来たバイクに乗るお姉さんみたいな言葉言われても。
「とにかく東に。海に」
「えっ!?」
お姉さんがあまりの距離に絶句していることが容易に想像できました。
でも、行ってもらいます。もう背ビレは開けないぜ。
「しっかり掴まっていなさい」
あなたが、捕まっていないといけないんだけど。
あっ、待て。この45歳少女も、やっぱり運転すると性格が――――。
あー、気づくと海にいた。
わたしは気づくと海にいた。
もうね、このゲームで何度、意識を手放したことか。デバイスの設定もあとでいじろう。
「起きたかい、いい海だ」
少女は、もっと少女らしく、わーい海だー、とか言っていてほしいよ。
タバコでもくわえていそうな貫禄を出さないでよ。
「どこかに煙とか見えない。あと、島」
「うーん、空も海も青だ」
「ドラゴンとクジラを無視できるね、よく」
青の中には、竜と鯨がウジャウジャだ。なんだ、ここは最果ての死海か。
「攻撃しなければおとなしいし、ほら、それにちっこいのもいるぞ」
たしかに、小さなドラゴンが――――、いや、あれは――。
「キュイキュイっ」
「おっ、こっち向かってくる。撃つか」
攻撃しなければおとなしいというセリフをどこに忘れたの。
「あのミニリュウについていって」
「りょーかい」
方向転換したミニバンがわたしたちを先導する。
そして、白い煙が天にのびる一本の糸になっている島に到着した。
「ほんで、どうやって着陸すれば。島には、止まれそうな場所がないけど」
「突撃、目標、海っ!!」
快活に叫んだ。もう大丈夫だと実証済みです。海に激突してもサメは勝つのです。
「殺すきかっ」
「安心して。わたしはサメ。海で死ぬことはないよ」
「…………」
「突っ込まなかったら、あとで衛兵に突き出す」
「さー、楽しくなってきたー。サメメテオいっきまーーーすっ!」
45歳少女の快活な叫びだった。
ノースプラッシュっ。シュボッ。
まっすぐ落ちるやつがいた。さっさと上げろー。
海に浮上して、速攻で【メカシャーク】を解除。
そして、わたしは、シェーラちゃんを抱きしめた。45秒未満の抱擁だった。
「お姉ちゃん、その子、誰?」
シェーラちゃんの声が、再開を祝うモードではなかった。当たり前か。約20時間かからずに戻ってきたし。暗い問い詰めるような――。
そういえば、どうやって説明したら。
「魔法少女だけど。砂漠で全裸にされた」
「…………砂漠……全裸……」
「ひどいのよ、この子、砂漠に置いていって。一緒にサイロに潜ろうって約束したのに。こんな島でバカンスとか」
「シェーラちゃん、この子、いやこの見た目詐欺少女は、さっきの入水で頭を打って変なことを言っているだけだからね」
「さっき、空から帰ってきた。海に行くっていってたのに」
やばい。闇シェーラになっちゃう。
嘘を吐きすぎましたか。
「と、とりあえず……」
『外部から強制シャットダウンボタンが押されました。現時点で臨時セーブを自動で行います』
あ。
「学校の時間よ、行く準備をしなさい」
目を開けると、お母さんがいた。
「は、はーい」
わたしはシャークポッドから身体を持ち上げた。
うん、本日のサメ終了。
あー、楽しかった。
着替えると、今日の授業の準備をしておいたサメリュックをとって、わたしはリビングに行った。
「お母さん、今日の朝ご飯、なに」
「なにって、いつも、変わらないわよ」
ご飯と味噌汁と鮭に卵にサラダ。うんうん、麺料理以外もいいよね。
それに、やっぱり、食事は生身が一番。デバイスに点滴までつなげてダイブする人もいるけど、そこまではさすがにね。
食事を済ませて――。
「あれ、あんた、ワンピースで行くの」
うちの学校は私服なのだ。
「うん。慣れちゃって」
ということで、行ってきまーす。
ではでは。
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