サメはお茶を飲め……
「シェーラちゃん、ここ?」
「はい」
集落だ。村より小さいように見える。10軒程度の家しかない。周りを、木の柵で円形に囲まれた家々。木造家屋。かなり切り立った屋根をしている。
「シェーラ、どこに行っていたんだい?」
柵の入り口のところで、男が、近づいてくる。
男は装備をつけている。普通の軽装な革鎧に、槍を持っている。初期装備っぽいなぁ。
「そ、そいつは……サメ!?」
あー、この世界の人は、こんな森の中に住んでいるのに、サメについて知っているだね。どういう世界観なんだろう。もしかして、サメは陸地に生息しているのかな。こんなふうに二足歩行とかしてないよね。二足歩行で歩く魚類のホラーだよ。
「このサメは、サーシャさん。ウルフから助けてくれたの」
ん、このサメ?この『人』が正確だよ。
シェーラは、ウルフを指差して、男の人に示す。
「ウルフっ!お前、どこまで行っていたんだ。危ないじゃないか」
「い、いつもと変わらないよ。ほら、モロロの実」
「あの、あなたは、誰?」
もう、寝たいんです。そして、そろそろ現実世界に帰って、宿題を終わらせないと。早く話を進めてください。
モロロに対して、芋じゃないんですか、と突っ込むのもやめた。
「ああ、俺は、クレイヴ。この子を、助けてくれてありがとう」
男の人は頭を下げる。
いえいえ、サメとして当然のことをしたまでです。
人間美味しくないから、甘噛みして返しますよ。まあ、試し噛みで致命傷の場合もありますけど。
「俺の家に来てくれ、旅の疲れもあるだろう」
「わたし、旅人なんて言ってないけど」
「こんな森の中の集落まで来る人なんて旅人くらいさ」
あ、そうですか。
「お姉ちゃん、何か着るもの準備するね」
ありがとう。
わたしの一番欲しいものがよくわかってるね。
シェーラが自分の家であろう家屋に走っていく。
「クレイヴさんは、シェーラと、どういう関係なんですか」
「ああ、同じ集落の仲間さ。この集落は小さいからな、みんな家族だ」
うん、原始共同体的な世界。
村の子供的なーー。
「この集落って、ウルフとか、魔物がいるのに、どうやって暮らしているんですか?」
質問はさっさとしておく。
自分から情報取りに行くの大事。
でも、寝たい。
「ああ、何度か追っ払ったからな。びびって近づいてこなくなった。こんな村でも、アーマーはあるんだ。まあ、でも……、いや、家に案内するよ、シェーラも後から来るだろう」
アーマー。
装備のことだよね。
やっぱり、わたしのサメ装備みたいな凶悪な装備があるのか。確かに、それなら、困らないか。
なんと言っても、パイソン相手に、貝になりたい、で倒してしまうのだから。そして、さらに進化していくし。
家屋は、茅葺き屋根の住居。真ん中に囲炉裏のようなものがある。そこで、お湯が沸かされている。意外と広い、快適そうだ。風通しが良すぎる気もするけど。
「お茶だ」
茶色の陶磁器に、ほうじ茶のような茶がいれてある。
でもーーーー。
「どうした?茶は苦手か」
「ええっと……」
そもそも、わたし、座ることもできない。尻尾のせいで。
家のドアが開く音。
シェーラが入ってきたようだ。
「お姉ちゃん、服持ってきたよ」
「ありがとう」
普通の服だ。やったー。これでサメから解放される。
「あ、クレイヴさんは、後ろ向いてて」
え、ここで着替えろと。ちょっと待て。女子的にノーだから。あなたたちは、もしかしたら、一緒にお風呂も入ったことあるのかもだけど、わたしは、そこまでフランクな関係を築けてないから。
「大丈夫。わたしが監視しているから」
所詮はゲーム。本当に男性の前で脱いで着替えるわけじゃない。さっとボタンを押して、このワンピースと下着を着れば終わり。早着替えだ!!
つつがなく着替えました。
「【メガロドン】は、【衣服破壊】を獲得しました」
え、ちょっと待て。なにを獲得したって。
わたし、歩く教会を針の筵じゃないよね。
チッチチッチーーーー。
あ、大丈夫そう。
なんだ、驚かせないでよ。
「ズズー」
お茶、おいしい。
なんだか飢餓感がないのが最高すぎる。
ダイエット中の女子のメンタルを破壊する攻撃がないのはいいなぁ。
「クレイヴさん、こっち向いていいですよ」
「ああ。ーーおお、サメなのに、可愛いらしい子だな」
いえ、人です。サメじゃないです。
食べますよ。