7×7
シェーラちゃんと雪山で雪だるまを作り終えて、【サメダルマフォーム】を獲得しました。まぁ、死にスキルでしょうけど。ダルマになってどうするの。
さて、出発だ。この旅の終わり。終着点へ。ログアウトできるといいなぁ。
「メカシャークっ!!」
わたしのフォルムは美しい戦車のようになりました。しかし、両翼のヒレがあるのです。つまり、このタンクは飛行機でもあるのです。
ちゃんとウルフも二匹とも積むことができました。もう戦いはいらない。最後の滑空を始めようじゃないか。わたし、飛びます。サメだから。
行こう、あの空の果てに。空戦サメ騎士は、とある飛行士を乗せて、揚空します。
「サメさん、発進します」
雪原に、あきらかな戦車みたいなタイヤ痕をつけながら、一気に速度をあげて、上空へとあがっていきました。
知ってますか、サメの目線からは水平線の果てが見えるのですよ。
「まぶしい」
「太陽に向かって飛んでますから」
シェーラちゃん、おもったのですが、この世界、他の未確認飛行物体とかないですか。ぶつかりそうな何かをみるのですが。
「ドラゴンですね。空のクジラもいますよ」
またクジラですか。ドラゴンと同列ですか。そこはサメではないのですか。
この世界は大きなサメの上に存在しているという神話とか、どうですか。意味不明ですね。
「あのー、なんかドラゴンさん、追いかけてきてないですか」
「ああ、大丈夫ですよ。振り切るので」
シェーラちゃん、ちょっと待とうか。わたしのスピードメーターはどうなっていますか。時速何キロですか。今、おかしいですね。キシキシとサメでは鳴ってはいけない音がなっていますよ。
「お姉ちゃん、海ですよ」
「……」
返事がない。ただの屍のようだ。
海の底には、自由がある。
「お姉ちゃんが、真っ青」
うん、降ろして。
返事する元気がないです。ハンドルを握ると性格が変わる人ですね、シェーラちゃん。
わたしは哀れなサメ。波に揺られるように、逆らうことができないサメ。
「入ります」
あ、ちょっと待って。海に直接メカシャークさんでダイブしないで。胴体着陸ですか、いや、この角度は入りますね。
海に突っ込むぞ。
「どう元気になりそう」
うん、ゲーム世界万歳。現実世界だと、最後の死因は大破になっていたよ。まぁ、メカシャークさん、痛覚はないようなので、このまま潜水してエンドもありかもしれない。圧力で爆縮。
「シェーラちゃん、とりあえず、近くの陸にあがろう」
「う、うん。で、でも――」
「どうしたの」
「速すぎて、全然コントロールできない」
【加速(水中)】ですね。空より海の方が速いなんて。いや、視界が悪いせいかな。
「とりあえず、上にあがろう」
「どっちが上かな」
どっちだろう。というか、全然、方向が分からない――、なんてこともないや、わたしは【夜目】【電流感知】があるし。でも誘導をどうすればいいのかな。
「とりあえず、くるっと一回転して、ハンドルを引いてれば、浮上するはず」
うん、たぶん、これで上がれるよね。
で、結局、上がってきました。無人島らしきところ。
なぜ無人島と分かるかって。そんなの女の勘、いやサメの勘。
砂浜にいると、海風がふいて、潮の匂いを感じる。
わたしは、海だーーーーッ!!をやることもなく、しみじみと波打ち際に立った。
な、なにも、起こらない。
いや、分かったけど。なんかゲームで、ここでイベントが起こるのでは、と頑張ったのに、何も起きない展開。図鑑をあつめても、似たテキストがぺらっと一枚。
しばらく、ぼうっと見つめていた。シェーラちゃんは、疲れたのか、くるっとウルフに抱かれて眠っている。操縦も楽ではないということだ。まぁ、10時間以上いってただろうし。
『こちら、アーマーズ・ワールド・エボリューション公式サポートセンターです。正式ゲームリリース前にお遊びの皆様、あと現実時間1分でこのゲームはVRMMOとして他ユーザーを含め、オンライン環境に適応します。また、海外での先行リリース版と同じくあらゆる機能は開放されます。ただし再スタート地点、最初の出現地点となります、ご注意ください。アーマーのレベルや持ち物や実績は引き継がれます』
ゲームを始めた瞬間に聴いたのと、同じ人工の女性音声だ。
あ、あれ。
もしかして――、これは、わたしが英語を読まなかったからかな。
まさかログアウトできないのは当座の仕様でしたか。あれ、今日リリースだから深夜00:00に始めたのは間違いでしたか。
「とりあえず、【サメさんポーチ】」
どさどさと、食料を大量に落していく。やばいよ。無人島にウルフとシェーラちゃんとミニバンを放置する展開になるよ。さすがに出現ポイントに帰る時間はない。ここの座標は――。どうやって確認すれば。というか、どうやって、ここまで戻ってくればいいの。
「シェーラちゃん、起きて」
気持ちよさそうに寝ている少女を揺すぶる。
「ん、んん――――――――な、なに」
「お姉ちゃん、ちょっとここを離れるけど。安心して。待っててね。あと、たまに、火で煙でもあげて」
「え、海に潜るの、今から」
「そ、そう。ちょっと長くなるかもだから。食料も置いてくから。信じて待っててね」
「う、うん」
ああ、なんで、こんなことになってるんだろう。
わたしは、シェーラちゃんをおいて、海に浮かぶ。
しばらくして、光に包まれて、アナウンスが流れる。
『アーマーズ・ワールド・エボリューション、正式版にアップロード中です』
そして、気づくと、最初の大草原にいた。
普通にステータスを開けば、ログアウトボタンがあった。
でも、ちょっとなかなかNPCにやばいことをしたので、救いに行きます。
サメは人類の味方ですからね。




