蒼き鋼のサメ
そのもの蒼き鋼をまといて、蒼の彼方にフォーリンラブ。そらのおとしものとなって墜落したのは、金色の野。土気色の火山地帯の遠方。
「お姉ちゃん、ほら、サメみたいな雲があるよ」
「雲の向こう、厄災の場所」
もう、空はコーリゴリ。死せる魂のように彷徨うわたし。
そして。
わたしは、今、決意した。海を目指そうと。
ノルマンディー上陸とは違って、わたしは大陸からオケアノスを目指すのだ。陸よりも海。夜明け前より瑠璃色な海へ。
異世界系の主人公も港町を目指す。なぜならば、海の幸は全てに勝るから。
「シェーラちゃん、海ってどこにあるのかな」
「海ですか、なんですか、それ」
「……」
この世界、サメはどこにいることになっているのですか。塩はどこから取れるのですか。岩塩ですか。
サメは確かにハウスにも現れるし、フランスにもいるけど。
というか、誰でも心にサメを飼っていれば、みんなサメなのだ。サメとは概念なのだから。わたしは自分を納得させまくろうと自己弁解していた。
「冗談だよ」
シェーラちゃんが、ユーモアを、キカセテクレタヨウデス。
心臓に悪いよ。
ないものは海でしたとか、せめて音楽でご勘弁。
「サメなのに、海の場所、知らないの」
「わたしは帰るべき大洋を探す旅に出たサメだから」
「は、初めて聞いたよ」
うん、今作った設定だから。
「でも、海は遠いよ。ここ大陸の中央部だし」
サメ、内陸部のど真ん中でもメジャーなほど知られる魚だった。
というか、なんでサメがそんなところからスタートしているのですか。
「とにかく、わたしはわたしだけの海を見つけないといけないのだ」
自分だけの海を手に入れたもの、それをサメと呼ぶのです。食物連鎖の頂点たるサメは、海の支配者なのだ。サメならぬ身にして海洋のトップに辿り着く者はいない。
結局、サラマンダー巨体は、ゴリゴリと素材を採られた可哀想な姿だったので、荼毘に伏してーー、つまり素通りして、都市に戻った。
温泉に入ろう。火山地帯といえば、温泉だから。
海の前に、温泉。サメを今一度洗濯いたし候。
宿に戻って、ワンピースに着替えた。
サメアーマー?知らないね。わたしは少女。温泉娘です。
温泉回は必須なのです。
カッポンとししおどしの音。いかに獅子脅しと言えども、サメは百獣の王以上の存在なのだ。あれ、日本にライオンは昔からいたっけ。どうでもいいや。ししおどしの漢字なんて、ししとうとまんがんじの違いぐらいどうでもいい。
温泉では、答えの出ない問題に対して、発散思考してブレインをストーミングしないと。そして、裸でかけ出してエウレカと叫んで、この世界から天元突破するんだ。それから交響曲でも第九でも聴こうか。サメスリンガーにはなれなさそうだけど。
あー、絶望的に考えが、発想跳びしてる。八艘跳びか。
航海後悔公開中ってなんだったかなぁ。
ぷかぁっと背をつけて浮かびながら、温泉の天井を見る。富士山もない。まぁ、天井画は求めすぎか。データなんだし現実より楽だと思うけど。いや、あれって描いてから後で屋根としてくっつけるのか。
なんにせよ、VR空間だから、温泉に髪をつけても許されるのです。風呂にアーマー着ても入ったし、今さらだけどね。
一人になって冷静になって考えないと。この世界から脱出するには海に行くしかないと思う。老兵は死なず、ただ消え去るのみ、VR世界にとってのプレイヤーとはそういうもの。消えるなら海の藻屑。
いやいや、デッドエンドは海がいいなぁ、としみじみと浸ってる場合じゃない。どこに冷静さがあったのか。ロジカルシンキングで論理的に考えないと。
ーーログアウトポイントらしきものはなかった。経験則上、これだけ歩いてないならば、そういうスポットがあるとは思わない方がいい。
モンスターは一定レベルのは倒したけどーー、まぁ、関係なさそうだ。よくあるのは、あるイベントが終わってから、セーブやログアウトができるという序盤。何かを無視して、ここまで来ちゃったというーーバグでは。運営、どうにかしろ。おかしなプレイ時間のプレイヤーが一人いるだろう。そいつだ。そいつを摘み出すんだ。ゲームバランスを崩壊させる限界突破者になってスキルマスターになっちゃうぞい。今日も一日頑張るぞい。
あー、やばぁーい。ふやける。のぼせる。しんど〜い。
熱いなぁ。
クラッときます。
「目が覚めたら、知ってる天井だった」
宿屋だった。残念無念。
「お姉ちゃん、今度から、わたしも一緒に行くね。危ないから」
お姉ちゃん、妹に心配される。未確認サメ物体、進行中。




