尻尾を踏まれたくないなら海に住めばいいじゃない
人生にはハプニングがあって、準備もできてないのに、向こうから不条理がやってくるんだ。しかし、ゲームでは、きちんと準備というものを理解してくれていて、最適化された時期に、最適化したレベルの問題がやってくる。
真正面から問題を受け止めることができるのが、ゲームをプレイするということだ、と思う。現実では、三十六計逃げるに如かず、とブラックな企業から逃げた方がいいし、ワケのわからないクレーマーは相手にしないが限る。
で、わたしはゲームをやっているはずなのだけど。
「【メカシャーク】」
さっそく火山のモンスターが出るエリアで、わたしは新しく理由も分からず取得したスキルを使用した。
わたしの身体は、メカでできていた。
とどのつまり、予想通り、機械化された。金属化されてしまった堅く分厚いヒレで、完全なるサメのフォルムの流線型。
『乗員が必要です』
うん、メカであってメガであった。
メガというほどは大きくはないけど、たぶん戦車ぐらいの大きさで、中に人が入れます。というか動けません。
アーマーを着ていたわたし、逆にアーマー化されました。
ロボットです。
えっ、二足歩行の人型ロボットしか認めたくない?
いいだろう。
「トランスフォームっ!!」
何も起きなかった。
まぁ、そうだろうけど。
いや、戻ろう。元の姿に。サメの着ぐるみをきた少女に。
コキコキ、首を回して人の姿の素晴らしさを抱きしめる。
まぁ、シェーラちゃんにでも後で乗ってもらおう。わたしはロボット。わたし操縦する側じゃなくて、ロボットになる側だったとはなー。
しばらく、今日も今日とて鉱山労働と、ルビーアイさんを探していたけど、どこにもいない。効率のいい金策とは、なんだったのだろう。やっぱりシェーラちゃん頼りすぎるのは良くないのかな。
現れる時間帯とか条件とかあるのかもしれない。
他の冒険者もいるけど、アザラシとか倒してたり鉱石の採取をしている。ルビーアイがそんなに金になるなら、洞窟の方に来そうなのに。
わたしは、なんとなく洞窟巡りに飽きて、火口のサラマンダーさんの方に挨拶に行こうかと火山の斜面を歩いて行った。
『【注意】これはゲームの世界です。現実では真似しないでください』
うんうん、注意喚起注意喚起、これがないと、彼岸花を咥える可能性もあるからね。彼女は特殊の訓練を受けていますっと。
てくてくと【空中水泳】をやめて、斜面を歩く。【鈍足】さんの本領発揮となった。短い足のせいですね、ヒールが欲しいです。ヒールと言っても回復魔法の方じゃなくて。
そして、サラマンダーさんを見つけました。寝ている。キモ可愛い。
火口近くにだけいっぱいいるなぁ。ここは、まだ少し離れているからまばらにいる。近づいてみると、大きなサンショウウオといったところですね。ちょっと黒すぎるけど。黒炎をまとって、口から赤い火を吐くところは川の山椒魚とは全く違う。
大きくなりすぎて、火口から出れなくなった山椒魚もいるかなーと文学的思索にふけりながら、寝ているサラマンダーの周囲をぐるぐる回って観察していました。
そのときーー。
そのときです。わたしは未来を予測できる力があるから。
踏んでしまいました。
お尻尾を。




