アザラシになんか負けないもん、くっ殺せ
溶岩ダイブと砂漠風呂では、あまりにも心理的抵抗のレベルが違うのは、誰にとっても明らかである。いかに、それとなく、押すなよ押すなよ的なフリをしても、熱湯風呂ならともかくそれがマンションの屋上だったら、押す人間はいないだろう。いないで欲しい。
サメは、溶岩の熱さに耐えられるだろうか。存在の耐えられない軽さに悩んだとしても、永劫回帰の妄想で、すべては何度も繰り返すループ世界だと信じて、全ロスするだけで済むからといくだろうか。
だいたい痛覚を遮断しなければ、ゲーム内の死といっても、あまりの痛みにショック死してしまう。ゲーム内でロストするならば、安楽死のような尊厳死でないと。シェーラちゃんに見られながらのホスピスを要望する。ナルキッソスの花でも添えておいて。
閑話休題。
ステータス上には、いつのまにか、【耐寒】スキルはあるのだけど、【耐熱】があれば溶岩流も泳げるのかな。耐熱程度では、溶岩は防げそうにないと思うけど。【地形ダメージ無効】みたいなスキルがいるのではないかな。
まぁ、とりあえず、別に溶岩を泳ぐ必要性はない。結局、【砂水泳】だって使い道はなかったわけだ。ジャバスクリュースネークの戦闘のときにさえ、使わなかったし。オープンワールド、伏線を回収してくれない。そこに銃が飾ってあるならば、使われなければならないというチェーホフの名言を忘れているように。
火山の岩の道を、浮きながら進み続けていると、アザラシがいました。
いや、何を言っているのかと思われるかもしれないけど、地球の常識は、VRの常識ではない。きっと、落下ダメージもなくて、屋上から押されても大丈夫かもしれない。けど、溶岩、お前はダメだ。
「アザラシが、溶岩の方に逃げていきました」
なんとなく言葉にしてみました。
なるほど、アザラシでも泳げると。ならば、魚として、サメとして、遅れをとるわけにもいかない。
わたしは、溶岩流の近くまでふわふわと飛んで止まりました。そして、岩肌に足をしっかりとつけました。
ヒレの先っちょだけを、試しにつけてみようかな。
チョン――。
ぼっ!
バサバサと鳥の真似事をして、先についたロウソクの科学を消しました。
燃えるじゃん。余裕で燃えるじゃん。
燃えるだけで済むのがすごいことなのかもしれないけれど。
アザラシに負けただと。
ん、溶岩の向こうで、さっき見かけたアザラシがニヤニヤしている。いや、本当は、興味のないモンスターの眼差しなんだろうけど、なんだかバカにされている気がしたのだ。
しかし、わたしは大人のサメ。
ムキになって、アイルビーバックできない溶岩に突っ込む気はない。
落ちついて、ルビー探しに戻るとしよう。溶岩は泳げない、まだ。まだ、だよ、いずれ泳げるからね、本当だよ。
結局、火山の洞窟上のところにいっても、ルビーらしき鉱石は見当たらなかった。
ちょっと、ルビーについて調べないとね。
なんか、ゲーム感覚で説明書も見ないで大丈夫感覚で突き進んでるなー。
一時帰還します。なにも、なにも得ることできませんでしたーっ!
「シェーラちゃん、たでいまー」
宿《野分の草》
火山都市のわりには、この辺は植物が乱立していて、なんかいつか火災で燃えるのでは、と思わせる。きっと寒冷結晶石の他に、火災にならないように、なにか水を生成するシステムもあるのだろう。
「お水どぞー」
「ありがとう」
シェーラちゃんへの教育は行き届いている。どぞーと言って、飲み物を出すのが、オタクの基本。
「どうでしたか」
「うーん、見つからない。ルビーってどのあたりにあるの」
「えっと、ルビーは、たしかー、このモンスターが稀にドロップするって」
シェーラちゃん、準備してきていたのか、本を広げてくれる。どこで借りてきたのか。
先に教えてよ。えっ、訊かれなかったから。うん、そうだね。
《ルビーアイ》
うんうん、なんかアイとかルビーとかアクアとか。そして、月に導かれそうな。
モンスターは、浮遊する岩石だった。真っ赤な目のような部分をもった。
わたし、普通に、岩石から採掘するつもりだったのですか・・・・・・。
「えっ、なにも持たずにどうやって採掘するつもり……お、お姉ちゃん、サメでも岩は砕けないよね」
「……うん」
乙女は嘘を二つ目つきました。
サメのキバが岩に通るわけないでしょう。当たり前です。
まぁ、負けても、また生えてくるだろうけど。サメならば。




