雪山ではなく火山遊泳ですか、そうですか
赤い溶岩が流れているような火山都市ロックベル。火山から採掘される鉱石を精錬して加工することで発展してきた都市だ。思ったより街中が涼しいのは、寒冷結晶石というものが、街中のあらゆる部分に設置されているからだ。雪山で稀にだがよく採れるらしい。
「街から出たくない」
「お姉ちゃん・・・・・・」
呆れないでよ、人はコタツに勝てないように、クーラーにも勝てないのだよ。都市の中が、こんなに快適な高山気候の避暑地だったら、だれが外に出たくなるものですか。そういうのは、男性の仕事です。女性で、しかもサメのわたしは、室内で宿屋警備員です。鑑賞用の熱帯魚と思ってください。
「お姉ちゃん、このままだと、わたしたち、宿屋の代金も払えなくなって、ホームレスだよ」
それはダメだ。シェーラちゃんのお姉ちゃんに、この子は、ぶくぶくと太らせると約束したのに。
この子のために、わたしは、火山にとびこみます。
パイナップルピザしてきますね。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ワッフル、お前も来るんだよ。えっ、暑い。わたしも暑いよ。
ええい、来るんだ。わたしだけ、暑い中で働かせるつもりですか。
シェーラちゃん、なに――、可哀想、水分、うん、一人で、はい。
絶望的な熱さが広がる火山地域。溶岩の川と海がながれている。耐熱性が高い岩があるのか、全く溶けることのない岩の道を、【空中水泳】で飛んでいく。道亡き道を行く。道亡きサメ。
目的を話そう。究極的完全体の目的であるログアウトについてはおいておく。
金策として、この火山に採取しにきたのは、ルビーだ。
赤い溶岩には、赤いルビーが隠されている。ファンタジーですね。なんで氷雪の帝国じゃなくて、ギラギラのメラメラの帝国なんだろう。
【空中水泳】をしていると、地面をぐりぐりと動いている真っ黒なカ二。一度倒してみたけど、ブラッククラブという面白くもない名前が分かった。鉱物を主食にしているから、別に人間を襲うことはないらしい。サメ装備のせいか、むっちゃくちゃ追いかけてきたけど。ほら、今も、バキバキボリボリ――と殻ごと【ハンドパペットシャーク君】に捕食された。蟹イーターです。
美味しくはなかったです。なんで知ってるかって。好奇心は、サメにもあるんです。
「そういえば、わたしはどうやって、採取したものか」
サメハンマーでぶち壊す、それともパペットでガジガジ。
そのあと、どうやって持って帰るのか。
なるようになるさー。ナックルないさー。
そもそも、どのあたりで採れるのか。シェーラちゃんに聴いておけばよかった。まぁ、まずは火山地域に慣れるための火山漫遊でいいか。いやぁ、暑くなければいいんだけど。
『【溶岩水泳】 取得条件、溶岩に1時間浸かる』
うん、ウィンドウさん、わたしはサメなんだよ。溶岩流の中に、1時間浸かって平気なわけないでしょ。だいたい魚が溶岩で泳いでいるとでーー。
ザバアアアアアアアアアァァァァァァンッッッ!!
ああ、デジャブ。いやデジャビュ。
クジラ亜種さん。こっちは真っ黒だね。溶岩がドブンドブンと片栗粉を入れたような液体のように動く。はねてきた溶岩の粒を避ける。
ここは地獄ですか。
わたしは戦わない。それでも……戦わ…ない。
『【溶岩呼吸】 取得条件、溶岩を5km泳ぐ』
やったね、火口から、海底2万マイルからの地底旅行だね。月世界旅行もしようか。ん、まさか海の前に宇宙に行かないよね。宇宙に行く前にログアウトさせてね。
さて、蒸し蒸し。違う違う、無視無視。
ルビー集めにきたのに、大怪獣バトルなんてねー。もう食傷気味ですよ。




