これはサメですか、いいえ、美少女です
【サメさんポーチ】と叫んでみたら、ショルダーバッグが出てきました。サメさんの形をしたガマ口いやサメ口のバッグです。しかし、問題は、このショルダーバッグはパペットで触れて大丈夫みたいだけど、入れるものに触れないし、それに、この手のままでは、入れたら二度と取り出せない。
なんという無駄なアイテムポーチ。わたしの手が、解放されないかぎり、なんにもならないスキルだ。
とりあえず、女の子に、果物を入れてもらい出してもらうという実験だけをしました。サメの口の底はは、深淵に繋がっているみたいに暗い。果物が取り出せなくなるかと思ったけど、女の子の様子からして、簡単に取り出せそう。
「で、この辺に泊まれるところないかな。もう歩き疲れて、くたくたで」
女の子が、そんな着ぐるみ着ているからだよ、と言いたげな眼をしているが、大人の女性であるわたしは気にしません。
「わたしの住んでいる村が近くにあります。助けてくれたお礼に、その、泊まっていきます?たぶん、その格好だと、他の家に泊めてもらえないと思います」
え、わたしの格好は、そんなに浮いているの。このファンタジーな世界だったら、これぐらい普通じゃないの。熊の毛皮を被ったマタギみたいなものだよ。
鮫皮って、知らない?これは、それをちょっと大きくしただけのーーーーーーはい、言い訳です。
「このウルフ持って帰っていいかな?」
女の子が死んだウルフの側に立つ。
うわー、猟奇的。
少女と大量の血液って、ミスマッチすぎて、すぐに陰惨な何かを想像しちゃうんだけど。
海外のファンタジーゲームは、こういうところリアルに創りすぎだよ。
「いいけど、どうするの?」
「大事な食料です」
あなた、さっきまで食料にされそうだったのに。
犬の肉って美味しいのかな。パイソンの牛の肉は美味しかったけど。
もう絶対、生では食べないよ。わたし、女の子だよ。口の周りを赤く染めるのは、口紅だけでいいから。【血の忘我】は二度と発動させません。
でも、お腹すいたなぁ。
何度目かのお腹の音。
女の子が、果物を出してくれる。
「食べます?」
「食べる、食べる〜!」
「えっと、持てないんですよね」
ポーチの時に説明しておいたので、女の子は、果物をわたしの口に近づける。
わーい、女の子、果物、丸かじり。
女子的に、ノー。
でも、背に腹を変えられないサメです。
シャリシャリシャリーーーーー。
甘くて、とても美味しい。歯応えがもっとあると、なお良い。たぶん一応サメだから、顎とか歯が強いせいなんだろうけど。
「そういえば、お姉ちゃん、お名前は?」
「名前?」
さすがに本名プレイはないし、というか名前の設定してなかった気がする。オープンワールドだから、主人公の設定は、ほとんど無しなのかな。もしくは海外の作品はこんなもんか、とか思って選択していたなぁ。
途中で、神を信じますか、とか海外の一神教的ノリに、どっちでもいい、とか日本的なメイビーな答えをしたなぁ。
いや、今は名前。名前だ。
海外らしい、キュートでスマートなのがいいなぁ。せっかくサメだし、サメにちなんでーーーー。
お、思い浮かばない。
装備名でーーメガロドン、どう考えても、ずんぐりさんです。
もうサメちゃんでいいのでは。サーメ、メサ、メッサー、メッキーメッサー……、わたしは悪の教典なんて持ち込んでないからね。
そういえば、サメのギリシャ語はガレオス。うん、モンスター化してる。ああ、どうすればーー。
「名前ないの?」
「いや、あるんだけど」
「真名は、言わない民ですか?」
うーん、まあ、そういう感じ。本名は恥ずかしいし、プライバシーとかあるから。
「とりあえず、サメで」
「うん、サメのお姉ちゃん」
命名は、慎重にしないと。
わたしは女の子と歩きながら、延々と名前を考えていた。名前って難しい。
五月雨、霧雨、時雨ーー、うーん、和風テイスト。
ああ、サーシャにしよう。
サメとシャークの文字入っているし。なんだか、海外っぽい。なんだか、ドストエフスキーで読んだ憶えが、ロシア人の愛称だったかな。ソーマは吸わないからね。不適合者でもないよ。いや、不適合かもしれないけど。
「ねえ……」
あ、この女の子の名前聞いてない。私のコミュ力が、睡眠欲と食欲で削られてる。
「あなたのお名前は?」
「シェーラです」
「シェーラちゃん、わたしのことはサーシャでお願い。サーシャ・メガロドン」
「メガロドン?」
あれ、なんなーく、名字っぽい気持ちで、付けちゃったけど、そこに反応しちゃう。
「メガロドン」
「メガロドンさん?」
違う、指しているのは、着ぐるみであって、わたしじゃない。わたしはメガロドンさんなんて、そんなジンベエな名前じゃない。太ってない。全裸見たでしょ。全然ぷにぷに感なかったでしょ。
その後、シェーラちゃんに、サーシャとメガロドンの区別をつけてもらえた。
危なかった。
メガロドンさんになるところだった。
メガロとか略されたら、怪獣映画か、魔法少女になったゾンビにチェンソーでやられるシャークになっちゃうところだぞっ!チェンソーは天敵、これサメ界の常識。
ちなみに、メガロドンは、スライムとは戦いませんよ。