沼地の塔に舞い降りし災厄
常にパワーはインフレしていくのが、少年の王道。オープンワールドでは、そんな綺麗な段階的発展はなく、いきなり強敵、最後にザコ敵となる可能もある。
ジャバスクリュースネークは強敵だった。
しかし、なんてことはない。
なんてことはなかったのだ。
「シェーラちゃん、余裕だったよ」
沼ッティーの宿屋の部屋に帰ってきました。
特に特徴のない木製の宿。窓の外は、沼地。
そこまで高層ではないけど、匂いは少ない。まぁ、匂いがマシになるまで上がっていったんだけど、実は。
「お姉ちゃん、よかった。戻ってきて」
サメは死なない。サメ死ニタモウコトナカレ。
しかし、エクソダスできないオンライン状態。いや、オフラインか。エクスタスはしないよ。だって、全年齢対応ゲームだから。
サンドボックスの中の白箱で立ち尽くすサメ。
「これ、ギルドに持って帰るの?」
わたしはパペットに、ジャバスクリュースネークだった物体を見せた。
「常駐しているギルド職員がいるから、大丈夫だよ」
わたし宿屋に、運んじゃったよ。よかった、綺麗に平らげていて。肉がこびりついていたら、イヤイヤ、考えないでおこう。
「わたし、寝てるねー。後はお願い」
サメ、着ぐるみを脱いで、全裸。そして、すかさず、ワンピースになった。
うんうん、やっぱり、わたしは、これが気楽。
「はいはい。あとはやっとくね」
優秀なNPC、一家に一台は欲しいね。
起きると、シェーラちゃんも寝てた。夜だった。
暗闇の中でも【夜目】で見やすかったけど、アーマーがじゃないから無理かな。
シェーラちゃんが起きないように、わたしはそっと宿を出た。
目的はーー。
うん、高いところに登りたい。
こんなバベルの塔があれば、登るのがバカと煙。
……誰がバカですか。
ジョットの鐘楼を登る気分で、足を上げて頑張っていく。
これ、アーマー着て、空中水泳した方がいいかな。あれ、楽なんだよねぇ。
夜の暗い階段を登っていく。学校の誰もいない屋上に歩いて行くような気分だ。学校の怪談、、、やめてけろ。
そしてーー。
ドアが見えてきた。沼地の泥を固めたようなコンクリの壁にくっついている。明らかに開きそうにない。
ガチャンっ。
開いた音であってほしかった。うん、開かなかったオノマトペ。
わたしは徒労を感じながら、階段をおりていった。
二度寝。サメモンスリープします。
次の朝。もう沼地から帰るよ。砂漠よりも早く。だって嗅覚が、曲がる。まぁ。アーマーを着ていない間は余裕なんだけど。鼻って、なれるんだよ。
「ねえ、シェーラちゃん、塔の上には何があるの?」
「たしか、見張りがいつもいますよ。あそこに誰かいないと、ドラゴンが飛んでくるらしくて」
モンスターがポップするらしい。ドラゴンか。
いや、戦わないよ。
ヘビとドラゴンは似て非なるもの。
絶対負けるよ。
出口は塔の上か、サイロの下か。
まぁ、全然関係ないだろうけど。地下とか天空に出口がある、そういう脱出ゲームをしていた覚えはないよ。オープンワールドで脱出って、それなんて滑空バグ。世界の壁を越えるんだよ。だよー!!突貫っ!!
「美味しいの?」
わたしはサメらしい問いを尋ねた。おあがりはしたくない。食戟できる気がしない。
「それは、どうだろう、ドラゴンステーキとか美味とは聞くけど」
なんか、すごい微妙な顔をされている。まさかーー。
「ゾンビドラゴンみたいな」
「腐食龍ロストグランデです」
あー、グランデ。
うんうんオシャレすぎるね。わたしは行かないよ。
モテンプルチーノモカチャッカファイアーみたいなドリンクだよね。
普通サイズで、できれば、ショートで。わたしの頭がショートしないように。
「失われし偉大なるもの……うん、戦わない」
それ、なんてグレートオールドワン。
「それがいいと思う」
沼地の料理はイカスミパスタでした。わたしはヘドロを食べた気分でした。
帰宅。いい、沼地回だった。強すぎるモンスターは却下。というか、絶対一人で討伐する相手じゃない。最後の晩餐です。
サメ、空中戦はしたくない。遠距離砲もないし。サメの丸焼けにされるよ、ドラゴンブレスで、きっと。
さて、そろそろモンスターへのカチコミをやめて、もっと他の遊び方を模索しよう。だって怖いし。
バトルだけしてればいいゲームの時代は終わったんです。エンドレスエイトみたいに、延々同じようなことの繰り返し。それじゃダメだとお姉さんは思うのです。
スローライフで行こう。時間の経つのを忘れるんだよ。のらりくらりの日常系の毎日が続けば、光陰矢の如し。気づけばログアウトしてましたー。




