サメさん、寝坊する
【血の忘我】が発動することもなく砂漠が血を吸い込んでくれるのは嬉しいけど(まぁ、サメは学習能力が高いので)、ちょっと砂で5キロ泳げば、アドレナリンが爆上げで、ノルアドレナリンも爆上げ。違いは知らない。
泳ぎ続けて、【砂呼吸】を得て、砂漠のヒレ伝説を作りあげそうになったところ、そろそろ寝ようと判断しました。
砂漠の時間感覚なんてないに近い。砂の女、帰宅。
そしてーー。
「連泊でお願いします」
サメ寝坊、チェックアウトできず。
もうお昼です。午前中に一本の馬車も無くなりました。
わたし、なにやってるのだろう。特に、砂スキルを使うイベントもなく、合法ロリババァを退治しただけ。
巨乳のお姉さんに帰りの馬車代をきいて、わたしは、砂漠都市観光を敢行することにした。
金銭を理解するものが、この世を統べるのだよ。
ちなみに、砂漠で砂遊びしたサメ防具だけど、鮫皮に砂はつかないよう。なんの仕様なのか。
「ここの名物ってなんですか?」
巨乳の宿屋のお姉さんに訊ねる。
「パスタとクジラとーー」
クジラなんだ。あれ、やっぱり。クジラ、ゴ⚪︎ラの親戚かな。発音がそんな感じだった。
知ってるよ、クジラの祖先って四足歩行なんだよね。
元々、陸で生活していたけど、海に戻ったんだよね。まぁ、戻り損ねて砂漠で泳いでいる変なモンスターがいるけど。
ちょっとした神獣扱いなんだろうなぁ。わたし、クジラは食用にしません。シャチじゃないんで。ぽえぽえ〜。
「あとは、サイロかな」
サイロ。干し草とかをグルグルにしたやつだっけ。
「クジラの餌?」
「地下の大迷宮のこと」
ああ、ダンジョンッ!!
砂漠といえば、地下の謎だよね。ピラミッドから盗掘とか。
144階ぐらいありますかね。可哀想な羊になりますか。
わたしはサメなので、モンスターを清掃しますよ。
ゲーマーがダンジョンに行かないべきか、いや行く。VR迷宮で奴隷ハーレムだー。
奴隷は買わないけどね。というか、奴隷買えるシステムなのかどうか。
「ちょっとサイロに行ってきます」
「うん、いい観光をね」
はーい。やっぱりダンジョンだよなー。出会いを求めて。
わたしが街の真ん中にルッタラルッタラと歩いていくと、大きな穴があるのがわかってきました。
「これは、メイドさんがインしてそうな深淵ですね」
みんな普通に降りて行ってるけど。
あれ、ダンジョンじゃないの。商人が馬車に荷物を載せて、グルグルと円筒形の穴を降りていく。壁沿いの螺旋階段。
「ダンジョンじゃなくて、地下都市の可能性しかない」
でも地下の大迷宮って言ってたよね。いやいや、新宿駅とか迷宮だけどね。都市も迷宮と。
「すみません、これ、どこまで続いてますか?」
道ゆく商人の一人に尋ねた。
「さぁなぁ、13階層までは開発したみたいだが」
「モンスターとかいますか?」
「うん、そんなのいたら、人が住めないだろう」
あ、そうですか。はい。
都市のど真ん中にモンスターの現れる巨大迷宮なんてあるわけないよね。
なるほど、これはアレだ。
砂漠は超大都市と。よく砂に埋もれないね、この空洞。なんか下から空気が当たるし。
やめた。さすがに、こんな観光はしてられない。もっと1週間ぐらい長期の休みをとって観光します。
砂漠の地表の周辺部分のみを愉しみます。
《喫茶 デザート》
うんうん、dessertとdesertの違い。そんなの誰だって知っている一般常識だよ。で、どっちがどっちだけ。cancerがカニ座と癌の意味であることぐらいは知っているけど、ーー分からない。clubとcrabなら、ともかく。
「砂のような滑らかな食感のストロベリーサンデーとスナバコーヒー」
スナバコーヒーは、トルココーヒーっぽいなぁ。淹れているところ見ていると。
というか、ストロベリーとかバニラとかあっていいのかな。
砂漠に。
まぁ、馬車で半日程度で来れるから、そんなに離れてないわけだけど。まさか、地下のサイロで色々栽培しちゃってますか。
ちょっと気になってきたなぁ。まさかの果樹園とか広がってないよね。勝手に、近代の工場のような妄想をしていたよ、逆さまだったか。
こう、ぽけぇと喫茶店で過ごしているだけで、いいや。
サイロの下にログアウト地点なんて探したくもないし。
アーマーも砂遊びで満足してくれてそう。
サンデー美味しかった。カリカリのコーンフレークとクーラッシュバニラのようで、イチゴはジャムっぽさが強いね。コーヒーは普通のでいいかな。スナバはわたしには早かったよ。
ああ、終わりなき日常でいいんだよ、こういうのでいいんだよ。
まったり。
昨日は凄惨な夜だったし。
え、今日の夜。寝る。絶対に寝る。一歩も出ない。




